山向こうの話だそうです
今回はオーク側視点です。
オルボア南部にそびえ立つダルビッポ山。
この山によって、オルボアは南部から攻められる恐れが無い、天然の城壁になっていた。
大陸南部にある都市国家にとっては、聖王国を攻め難くしている要因の1つだ。
過去、聖王国が帝国との戦いで弱体化した際、この山を越えて攻めようとしたが、余りの険しさに断念した歴史がある。
そのダルビッポ山は、オルボア方面の北部と都市国家方面の南部で形状が変わる。
北部側は、北からの冷たい風が雨水と共に当たるせいか、山頂に向けて、緩やかなR状になっている。
だが、南部側は逆に、山頂付近から三分の一が切り立った絶壁になっている。
これは、南部からの暖かい風によって岩肌が風化し崩れ落ちているからだ。
その為、北部と南部で山の形状も生態系も変わる。
北部は雨も多く、森に囲まれている為、小型の動物やモンスターが多く生息している。
その反対に南部は、暖かい気候のせいか、大形の動物やモンスターが生息している。
そんなダルビッポ山南部、切り立った絶壁の麓に十体のオークが集まっていた。
彼らは、この周辺に住むオーク一族だ。
最近、山頂付近から腐臭が漂っている事に疑問を抱いた戦士が、原因究明に赴いた所、山頂付近の絶壁に、複数のゾンビが居るのを発見した。
オーク達が近づくと、一メートル程のゾンビが地を這い寄ってくる。
よく見れば、それは損傷の激しいゴブリンだった。
二十体近くのゴブリンゾンビは、折れた手足をバタつかせながら近いてくる。
それらを難なく槍で払い退け、頭を潰し山頂へと近く。
絶壁の前にもゾンビが居た。
だが、そちらは近づくオークに見向きもせず、手足を動かして絶壁をよじ登ろうとしていた。
ゾンビになったモノは、生前の意思によって様々な行動を行う。
一番多いのは「食欲」、これは死んだ原因が食料不足による所が多いからだ。
都市部であっても、裏路地やスラム街で人知れずゾンビ化し、さ迷う姿が見られる事もある。
次に多いのが「妬み、恨み」、モンスターに殺されたり戦争によって亡くなった者達がなる。
不慮の死によってゾンビになった者達は、生者を妬み、恨み襲いかかってくる。
そして、僅かながらあるのが「未練」、死ぬ直前に何かしらの未練が残った事により、「食欲」や「妬み、恨み」と違い、人を襲うよりも、何かしらの行動を行う。
目の前のオークのゾンビは、正しく「未練」の元、動いていた。
腐り果てボロボロになった指で岩肌を掻きむしり、濁った目は山頂を向いている。
そんなゾンビ達を囲むオーク達から、小柄なオークが進み出る。
小柄と言っても、その身は鍛え上げられた戦士の身体だ。
身体の倍はある槍を片手で軽々と扱いながら、目の前で蠢くゾンビを見ている。
彼の目線の先には、やはり小柄なオークのゾンビが居た。
着けていたと思われる皮鎧は、赤黒く変色した血がこびりつき、左足太股から下は骨が露出し、僅かな肉片が辛うじて支えている。
それでもそのゾンビは、山頂へと両手を伸ばし、声にならない声を出していた。
そこにある何かに向けて……
オークの戦士はそのゾンビの肩に向けて、震える手を伸ばし……横にいた別のオークに止められる。
顔を向ければ、横のオークが首を振る。
『モウ無理ダ、諦メロ』
オーク語でそっと語る。
オークの戦士は両手を下ろし、目の前のゾンビを見る。
一月前まで「弟」であったハズのオークを
ーーー
オーク族は十~二十匹程の群を形成している。
メス一匹を中心とした女系家族だ。
そして、新たな子の中にメスが生まれると、子を成せる様になる年に群を半分に分けて巣離れを行う。
同じ群にメスが複数居た場合、ほとんどの群が崩壊する。
それは、女系家族である為、複数のメスが一族の主を誰がやるかで分裂するからだ。
彼女達オークに「同列」と言う言葉は無い。
例え「親娘」であっても……だ。
だから母親オークは、娘が子を生める体になると群を分ける。
ーーー
オークの戦士である彼の弟は、一族でも有数の槍使いだった。
兄である彼に一歩及ばないが、それでも将来有望な戦士であった。
一族が、新なメスの元別れる事になった際、新しい一族を守る者として、弟が選ばれ意気揚々と旅立って行った。
『新天地デ繁栄シテミセル』
と。
その弟は今、無残なゾンビに成り果てていた。
何があったなどとは言わない。
弟が死に、未練を残してゾンビになった、そして、弟と一緒に出た仲間達もゾンビになっている。
さらに、山の向こうに生息しているハズのゴブリンの死骸がここにある時点で、ある程度の予測はつく。
彼らオークは、ダルビッポ山を越える事を禁忌としていた。
南側と違う環境、そして何より「人族」が多く居る事、その二つがオーク族を南へと追いやった原因だった。
オーク族の祖先が、人族から逃れる為、険しい山を越え、人族のいないこの地で繁栄する。
南側でも多少は人族が居るが、北に比べれば少ない。
故に彼らは人族の生息範囲に近づかない様心掛けながら、この南の地で数を増やしていた。
だからこそ若い世代のオークには、山向こうの新天地……見も知らぬ世界が憧れになったのかもしれない。
古い世代のオークが、昔話に山向こうの事を喋れば、血気盛んな若者は山向こうを目指そうとする。
「彼ら」もそうだったのだろう。
モノ言わぬゾンビとなった弟……そして、その結果の死。
兄である彼は槍を握り直す。
その穂先をゾンビの、弟の首へと向ける。
『スマン』
そう一言、オーク語で呟くと槍を一閃する。
音も無く、首が宙を舞い地に落ちる。
一呼吸置いて、半分腐った体が倒れる。
っと同時に、周囲に居たオーク達が、ゾンビと成り果てていた者達の首を落とす。
断崖絶壁の麓には、十五体の首無し死体が重ねられていた。
『ぎりっ』と音が鳴り響く。
小柄なオークが槍を絶壁の上へと掲げ、
「ぶるおぉぉぉぉぉぉー!!」
っと、雄叫びを上げる。
周囲の戦士達を一匹、また一匹と雄叫びを上げる。
悲しみの咆哮、怒りの咆哮、憎しみの咆哮、様々な思いを乗せた咆哮がダルビッポ山の北へと走る。
後一回は、オーク側の話が出る予定です。




