教えは意味ありませんでした
今回は早目投稿です。
えっ?
もっと早く?
すみません許して下さい何でもしま……
リリーは酒場のテーブルの上に突っ伏していた。
手前に置いてあるコップには、半分程に減ったミルクが入っている。
彼女の周りは、いつの間にか椅子一つ分の隙間が空いていた。
周囲を包囲する様に居たハズの「銅」クラスの冒険者達は、さらに離れた場所へと移動していたのだった。
ヒソヒソと話をしながら、チラチラとこっちを見る、それだけでかなりのストレスになる。
『えっと……こんな時こそ』
ゴソゴソと腰に付けたカバンを漁り、中から手のひらサイズの小冊子を取り出す。
表面には『旅の注意書』と書かれてる。
『お爺さんお願い、助けて下さい』
全員が注目する中、パラパラと冊子を捲って行く。
『冒険者編』と書かれたページを見つけると、ガバッと音を立てて、食い入る様に見る。
そこには
『冒険者と言うのは、時に物を探しモンスターと戦う、そうして助けも求める者を救う云々~』
っと、何とも小難しい事が書かれていた。
それをサッと流し読みし、ペラッとページを捲る。
『お前の様な小娘が冒険者になると、当然色々言って来る者達が居ると思う』
その文字を見つけ、内容を確認しながら先へと進める。
『例えば、いきなり「小娘が」などと因縁をつけたり掴みかかって来たりする連中だが、中堅冒険者に多く云々~』
「長いわ……お爺さん」
眉間にシワを寄せながら内容を飛ばし、先へと進んで行く。
『そんな冒険者には、デコピンしたり、剣や槍を摘まみ取ったり、手刀で手首を折ったり、指を掴んでへし折ったり、気絶させたり、魔法で云々~』
何やら不穏な感じの文章を読みながら、ペラッとページを捲ると……
『等々、してはいかんぞ、取り返しがつかなくなるからの』
「遅いんですよ!!」
『だん』とテーブルに拳を叩き付けるリリー、それを見ていた面々も目を白黒させている。
まぁ、いきなり本らしい物を読みだしたと思ったら、激昂した揚げ句、テーブルを叩くなど、端から見れば変なヤツ扱いだ。
ちなみに、テーブルの上にあったコップは、倒れそうになる前に黒騎士が摘まみ上げていた。
「お爺さん……これ……役に立たないです……」
弱々しく呟き、再度テーブルの上へと突っ伏す。
「はぁ……もうデボラさんの所へ……帰りたい……」
「くっくっく、それは困るな」
笑い声に反応し、すぐに頭を起こすと、そこには苦笑をするベンノの姿があった。
手元には、リリーの祖父が渡して来た『旅の注意書』も持っていた。
「なっ?!……いつの間に?」
「お嬢ちゃんが百面相をやってた辺りかな?」
旅の注意書を読んでた途中だったらしい。
パラパラと小冊子を捲りながらベンノが答える。
「ん?お嬢ちゃん、これって……」
「返して……下さい!!」
「ぺしっ」と音を立てて、ベンノの手元から小冊子を取り戻すと、カバンの中へと戻す。
大陸には、一応『共通語』がある。
そして、それとは別に、東西南北それぞれの国の言語もある。
辺鄙な村では、それそれの言語から派生した現地語とも言うべき言葉があり、場合によっては言葉が通じない可能性もあった。
オルボアは、当然『共通語』圏だが、地方から出入りする者も多く、雑多な言語が市場を中心に溢れている。
そして、リリーの持っていた小冊子で使われていた言語は『東方語』だった。
オルボアの住民でも、東方語を理解している者は数が少ない。
だからこそ、あまり見せびらかす様な事はしたくなかった……のだが
「あ~お嬢ちゃん?」
「忘れて……下さい」
小冊子の中身の事なのだが、ベンノが理解している可能性も考えて口止めをお願いしていた。
ベンノは「金」クラスの冒険者、もしかしたら東方の言語を知っている可能性もある、だから口止めだったのだが……
「ん~そうだね~よく分からない文字だったけと、まぁいいか」
「……」
たとえ、ベンノが内容を読めたとしても、書いてある内容は、ごく一般的な事なので、大袈裟に騒ぎ立てる程の事でもなかった。
『東の帝国に対して、含む所が無ければ良いんだけど……』
横目で「ちらっ」とベンノを見るリリーだったが、この国の人達が東の帝国に良い感情を持っていない事は分かっていた。
元々、細かい事まで知っていた訳では無いが、ベッティーナの所に居た際、この国の人々の中に、黒髪黒目に対する不穏な空気がある事を教えてもらい、その理由もあって、東方に関わる持ち物は慎重に扱っていた……つもりだった。
『今回は失敗だったわ』
遠目ならバレないだろうと思い、少し考えが甘かった様だ。
気を付けないと……っと、気を引き締めてベンノを見る。
相変わらず、ベンノはニヤニヤしてる「だけ」だった。
「?」
不思議そうな顔をするリリーだったが、酒場の雰囲気が変わっている事に気づくと、視線を周りに移す。
手前に居た冒険者達が一斉に立ち上がり、ベンノへと頭を下げ、
「お疲れ様です、ベンノさん」
「お疲れっす兄貴」
「兄貴」
「ベンノの兄貴」
顔の厳つい男達が、ベンノに向かって「兄貴」を連呼しながら頭を下げまくる。
「いや、それ止めろって、俺はお前らの兄貴じゃねぇよ?」
「そんな事ないっす、兄貴」
「そうですぜ、ベンノの兄貴」
「兄貴」
彼らの顔を見る限り、慕っている……らしい?
そんな冒険者達の声に困惑顔のベンノを見上げながら、リリーは間の抜けた顔を見せていた。
「おいおいお嬢ちゃん、その顔は無いんじゃねぇかな?」
そんなリリーを振り替えって見るベンノは「本当に困ったな」と呟きながら、周りを見渡す、そして……
「さて、お前ら、休息の時間は終了だ」
急に真面目な顔つきになると、室内に響き渡る声でそう語る。
「えっ?」
「マジかよ?!」
っと、ザワつきだす冒険者達だったが、直ぐにベンノの次の言葉を待つ。
ある程度落ち着いたと見たベンノが、現在の状況と今後を話し出す。
「まずゴブリン共だが、やはり異常繁殖してやがった。その数千匹以上だ」
落ち着いたハズの冒険者達だが、数を聞いた瞬間、驚きの声を出す。
ゴブリンの繁殖力を知っていれば、千匹いてもおかしくないと思うものだが、オルボア周辺にそんなに居るとは、誰も思いつかなかっだだろう。
「既に、いくつかの情報がギルドから出てたと思うが、やはりダルビッポ山の洞窟内部で、とんでもない数が確認されている、オマケにヤツら、オークのメスを手に入れてやがったらしい」
ベンノの言葉に、冒険者達の半分が「なんてこった」とボヤく。
冒険者達の予想では、何処かの村辺りが襲われ、大量の女性がゴブリンの手に渡り、結果、異常繁殖したのでは?と思われていたのだが……
「おいおいお前ら、そんなにビビってるのか?」
ベンノの声に辺りが静かになる。
数を聞いた瞬間には「マジかよ?!」「王国軍に救援を求めねぇと」等騒いでた面々だったが、ベンノの煽る様な発言に顔付きが変わる。
「いやベンノさん、それは言い過ぎでしょ?」
「そうだぜ兄貴、たかがゴブリンだろ?」
周りからは不満の声が響く……が
「だったら泣き言言うんじゃねぇ、相手は数だけ多いゴブリンだ、子供でもちゃんと装備すれば勝てる相手だ、俺達戦いのプロ、冒険者様が負ける訳無いだろ?」
ベンノが不敵に笑いながら言うと、一瞬呆けた顔をした冒険者達たたが、笑い声を上げながら
「そりゃそうだ」
「バカバカしい」
「ゴブリンだったな」
答える。
冒険者は戦闘のプロ、今まで数多くの化け物共を狩って来たのにゴブリンに脅えるなんてと拳を握る。
「それに……だ、今回は追加戦力もある、この二人だ」
そう言ってベンノが指差す先は、当然リリーと黒騎士だ。
冒険者達の目線が再度集まる。
「ひっ?!」
「……」
黒騎士の背後に隠れるリリーを指差し、
「コイツは回復スキル持ちだ、それも常時発動型で範囲も広い、俺が推薦して連れて来た。黒い方はゲイルのお気に入りだ、戦力的には申し分無いぞ」
その言葉に、何か言いたそうだった冒険者達も口を塞ぐ。
『冒険者一の実力者ベンノ』と『白銀クラスとウワサされたゲイル』が推薦する冒険者となれば、例え『銅』クラスであっても侮ってはいけない、そう判断したのだった。
『冒険者の世界は、侮ったヤツから死んでいく』
そう考え直し、ゴブリンの大軍との戦いに集中していく。
目を摘むっても勝てる相手、それでも侮らない、目の前の新人二人を侮ってはいけない様に。
集まった面々の顔付きも変わった事をリリーも感じていた。
「これが……冒険者……?」
「そうさお嬢ちゃん」
自分を見下ろしながら、何処か嬉しそうな声で答えるベンノ。
片手を上げると
「よし野郎共、明日は大暴れだ、全力で行くぞ!!」
「「「「「「「「おう!!」」」」」」」」
ベンノの掛け声に、酒場が震える程の返事が帰って来る。
明日はゴブリンとの一大決戦、敵の数は多く此方の数は少ない、それでも彼らの目に『負ける』と言う感覚は無かった。
その強い目線、リリーには分からないモノ。
それは『自信』、絶対に勝つという、自分の腕への自信だった。
ω・)ノシ{次回からは大暴れ……予定?
たぶん……