増えているそうです
かなり遅れましたが新作です。
( ノ;_ _)ノ
リリーの目の前には、頑丈そうな机が一つ。
その机の上には、大量の書類が置かれている。
「来たか、座って待っていろ」
書類の向こうから声が掛けられる。
僅かに見え隠れするのは50代の男性、頬に小さな傷があり、目許が垂れているせいで優しいイメージをもたらす優男。
このオルボアの冒険者ギルドのマスター「ゲイル」だ。
剣の腕は一流で、現役の頃は、ランク的最上位である「白銀」になれるのではとウワサされた程だった。
一般的な冒険者のランクが「銅」で大陸中に一万人前後、「銀」で二~三千、「金」で百人程度と言われている。
「白銀」に至っては、現時点で存在するのは一人、歴史上に記された数を入れても十人程度だ。
ギルドマスターゲイルは、その性格さえどうにかなれば「白銀」にと言われていたのだが……本人曰く
「白銀?そんな面倒なのになるくらいなら引退してやるよ」
っと言い出し、当時のオルボアのギルドマスターの必死の懇願により、渋々冒険者家業を続けていたのだった。
そのギルドマスターが亡くなる前に、ゲイルをギルドマスターの後継者に指名、嫌がる本人を他所にあっさり死去してしまい、実力はあるのにヤル気の無いギルドマスターとして、現在に至っていた。
ちなみに、職員がゲイル本人に「白銀」の何が嫌なのか聞いた所、
「白銀って貴族扱いになるんだろ?面倒しかねぇじゃねぇかよ」
っとの事。
今現在、大陸に居る「白銀」の冒険者は、元が貴族階級だった為、白銀=貴族と思われているだけなのだが……職員は説明をアッサリ諦めた。
「どうせ、知った所でどうしようもないですし」
その時、聞いた職員が、受付け成り立てのジーンだった。
ーーー
部屋の中は、微妙な緊張感が漂っていた。
その原因がリリーだった。
職員に引きずられ部屋に入れられると、目に入ったのは書類の山と格闘するギルドマスター。
そして、このギルドマスターは、リリーがニガ手とする人物のトップのゲイルとくれば、警戒すると言うモノ。
ちなみに、ニガ手No2は神官見習いのジルリオーネ、No3はベッティーナのメイド達だったりする。
先程までの機嫌の悪さは何処えやら、一緒に来た黒騎士の後ろに隠れる様に立つリリー。
ギルドマスターとの間には、三人がけのソファーがあり、テーブルの上には、入れたての紅茶が二つ置いてある。
しかし……
「座ってソレ飲んで待つって事は出来ねぇのか小娘?」
ゲイルがペンをリリーに向けて差すが、リリーは黒騎士の後ろに隠れてしまう。
そんなリリーの後ろから
「くっくっく……」
小さな笑い声が聞こえてくる。
リリーがそっと後ろを振り向くと、出入り口の扉に寄りかかる様に立つベンノの姿が目に入る。
現オルボアで一番強いとされている「金」クラスの冒険者、ゲイルと違ってリリーが信用する人物だ。
「ゲイル、先に話をしてやったらどうだ?」
「……」
ベンノの言葉にペンを置くと、溜め息をつきながらソファーへと移動する。
「小娘、そっちに座れ」
疲れた感じで指差す方へと警戒しながら動くリリー。
出来るだけゲイルから遠い位置へと移動し、浅く腰かける。
その姿は、まるで人に慣れていない猫だ。
「ふはっ」
「ちっ……」
その姿に吹き出すベンノと舌打ちするゲイルだが
「さて小娘、呼んだのは他でもない、ゴブリンの件だ」
「……ゴブリン?」
『こてん』と音を立てて首を傾げるリリーだが
「お前らがココに来る前に遭遇したって言ってただろうが?」
そう言われ、首を傾げたままで考えるリリーだが
「アベルってガキと一緒に報告に来ただろうが?!」
「あぁ~」
アベルの名前でやっと思い出す。
オルボアへ来る切っ掛けになった冒険者達のリーダーで、ベンノと同じぐらい信用している人物だ。
「あれから、冒険者のゴブリンとの遭遇率が上がってな、色々調べてたんだが……な」
「?」
ゲイルにしては歯切れの悪い言い方に、違和感を感じるリリーだったが
「つまり、オルボア西の森で、ゴブリンが大量発生してるって事だ」
ニヤニヤした顔のベンノが、ゲイルの代わりに話を進めるが
「えっと……冒険者さんで……退治すれば……良いのではないですか?」
ゴブリンと言えば、数が多いと確かに面倒だが、だからと言って、冒険者がどうこう出来ない訳でも無いモンスターだ。
なのに、ゲイルの言い方ではまるで……
「普通の数だったら……な」
「普通の……数?」
その言い方に、どうにも不安が過る。
普通では無い数のゴブリン?
「普通じゃ……ない……の?」
そのリリーの言葉に何ともいえない顔をしたゲイルは
「森の中だけでも百から2百、巣と思われる所は、その倍以上だろうな。」
「?!」
つまり、少なく見積もっても3百匹以上居る可能性があると言う事だ。
「本当に……そんなに……居るの?」
リリーとしても半信半疑だ。
ゴブリンの繁殖力はとてつもなく大きい、が、それは繁殖力「だけ」の話になる。
繁殖力が強くても、それを支える雌が居ないと意味が無い……ハズだったが……
「森の中での遭遇率から間違いは無い、それと、ヤツラが拠点としている場所も、おおよそ把握している」
そう言ってリリーの目の前に地図を拡げる。
オルボア周辺の簡単な地図だ。
よく見れば、左側にいくつか印が付いている。
「この赤い丸が、お前達がゴブリンと遭遇した場所だ」
ゲイルの指し示した場所は、オルボアとオー・ルランと書かれた場所の間にあった。
「そしてココとココ、この十日間で襲撃があった場所だ」
オー・ルランに近い平原に丸が二つ、書かれていた。
「この襲撃場所から南へと、探索の得意な冒険者を送り出したが……ゴブリンが特に多く発見されている場所が……」
ゲイルの指が地図の下へと動く、そこに書かれていた文字は
『ダルビッポ山』
「ったく、面倒な場所を住みかにしてくれたもんだ」
「山……ですか?」
リリーの問いかけに顔を歪ませるゲイル。
「あぁ山だ、それも『天然のダンジョン』付きのな」
「天然?ダン……ジョン?」
ゲイルの言うダンジョンに首を傾げるリリー。
リリーもダンジョンがどういう物かは知っていた……が
「天然のダンジョン……って、普通と……何が違う……んでしょうか?」
天然と言うからには、自然生成されたダンジョン?そんなのがあるの?っとリリーが思う。
この世界のダンジョンは、何者かが作った代物が一般的だ。
一番有名なのは、大陸中央にある『ドワーフの大迷宮』だ。
これは、大陸中央の巨体な山脈をドワーフ達が縦横無尽に掘り進めて鉱石を集めた結果、巨体なダンジョンへと変貌したと言うモノだ。
しかもこの巨体迷宮、未だに拡張されまくっていた。
他には、北の国にあるとされている『氷の女王の迷宮』に、南の砂漠地帯にある『古代武王の墓所迷宮』等、過去の偉人かが作ったとされるダンジョンが存在する。
そんな中、天然ダンジョンとなると……
「あのダルビッポ山ってのは、石灰が取れる。だが、その石灰は雨によって溶け出してしまう。石灰が溶けた事で山間に孔が開き、それが奥深く続いた場所がダンジョンになっちまうって事だ」
ゲイルの説明に『なるほど』と頷くリリー。
つまり、天然のダンジョンって言うのは、自然現象の賜物って事なのだ。
「そんな場所だ、ほっとくとモンスターや山賊が住み着いちまうからな、定期的に探索と駆除を行って来た……んだが」
「だが?」
言葉を切ったゲイル。
「その定期的仕事をしてた冒険者が帰って来ないって事だ」
後ろからベンノの声が聞こえてくる。
なるほど、ゴブリンの異常繁殖に定期的仕事の冒険者の行方不明、っとくれば
「その……ダルビッポ山にゴブリン達が?」
「多分な。今、ベンノの所のヤツにダルビッポ山の洞窟を調べてもらってる所だ」
そこまで聞いたリリーがふと首を傾げる。
「何故それを……私に話す……んですか?私達は……まだ冒険者見習い……の様なものです……その……内容的には、ベテランさんの……出番……では?」
リリーの疑問にゲイルがイジ悪い顔を向け、ニヤリと笑う。
「もちろん、お前らも参加してもらう為だ」
ω・)ノシ{ゴブリン軍団との戦いは派手に……したいなぁ~