また酷い目にあいました
今回、ちょっと走り抜けた感じになりました。
( ノ;_ _)ノ
自分が見てる物が何なのか、木?いや、加工された木材?ん……柱?
焦点が合い始めると、それが何なのか少しづつ分かってくる。
自分が見ていた物が、建物の柱である事を
『何で……目の前に……柱?』
少し目線を右に動かすと、壁が見える。
『壁?』
さらに目線をゆっくりと右へ向ける。
少し黒く汚れた壁が続いている。
ギリギリまで右を見た後、今度は左へと目線を移していく。
柱が十字に重なっているのが見えた。
『えっと……これは?』
目線を動かす内に、自分の身体の感覚が少しづつ戻って来る。
どうやら、首を右側に傾けた状態で、上に顔を上げていた様だった。
つまり
『見えているのは……天井?でも……何で?』
頭の中のモヤモヤした感覚が、ゆっくりと晴れて行く。
自問自答しながら、自分が何でこうなってるのかを考える。
『えっと……確か……天井や壁の木目を数えてれば良いって……誰かに言われて……でも、何故私はそれを?』
誰かに言われた、誰に言われた?ゆっくりと記憶を辿ると、思い出したのはベッティーナのメイドだった。
小柄なメイドがそう言ってた……それは確か……お風呂上がりに?身体を……?何かされ……?
『そう……ベッティーナ様の所で……色々されて……えっと……嫌だったら……天井の木目でも数えてろって教えられて……あれ?』
嫌な事が何だったのか思い出せない、でも、今の自分はその状態になっていた?何故?
そうやって考え込んでいると、左から『ぬちゃっ』と湿った音が聞こえてくる。
それと同時に左の首筋へと、何か温かい物が触れている感覚があった。
『いったい……何?』
目線を左の天井から下へと落として行く。
目の端に入って来たのは、金色の毛だった。
綺麗な金色の毛が、前後に揺れている。
『……毛?』
固まっていた首を少し動かして、さらに目線を下げると、肌色が見えてくる。
『えっと……これは?』
目に入って来た情報が何か、脳が考え出す。
そして、金色の毛と肌色の間から、茶色いモノが見えてくる。
それは目、それも人の目、目があると言う事は、そこにあるのは人の顔と言う事になる。
その目が何やら熱を持ってる様に見えた。
『人の……顔?私の……左肩に??』
ボーっと眺めている自分と目が合ったその瞬間、自分の状況がハッキリとした。
手足を縛られ、身体も固定され、その状態の自分を後ろから抱える様にしながら、両手で胸を揉み続け、そして……
『首筋を舐められている?!』
さっき聞こえて来た音と、首筋に感じた生暖かい代物は、自分の後ろに居た人が首筋を舐めている事だと気づき『ゾッ』とする。
「ふふふ……意識が戻ったのね?」
そう言ったのは、首筋を舐めていた神官見習いのジルリオーネだった。
その赤く細い舌で、リリーの首筋を舐めているのだった。
「あ……あ……あ……」
自分の状況に、状態に気がついた瞬間、
「う……あ……あぁ……あぁぁ……あぁぁぁぁぁぁぁぁ~ん」
リリーは泣いていた、大泣きだった。
外に居たケーテが慌てながら入って来る程の大声で泣いていた。
デボラの宿屋、その食堂で赤子の如く大泣きするリリーの姿に、その場に居た面々は、唖然とし出す。
「やり過ぎた……」
そう呟いたのは、リリーの正面に居たエッバだった。
ーーー
大泣きしたリリーの拘束を解き、背中を撫でてあやす剣士のピーア。
その後ろでは、テーブルと椅子を元の位置に戻している面々がいた。
ただし、エッバとジルリオーネは、デボラによって店の角で正座させられていた。
「まったく、アンタらは……」
「いえ、この程度で泣き出すとは思いもよらなかったので」
「えぇ、そうなんです」
正座させられている二人はケロッとした顔で言い放つ。
「それにしたってね……」
デボラが振り返ってリリーを見る、その動きに気付いた二人もそっちの方を見ると
「ひぃ?!」
リリーが悲鳴を上げて、ピーアの胸の辺りへと顔を埋めてガタガタと震え出す。
「どう見てもやり過ぎだよ、アンタら!!」
『ごん、ごん』っと、二回鈍い音が響く。
「痛っ!!」
「いった~い?!」
頭を押さえる二人、どうやらデボラの拳骨を食らった様だ。
「そもそも、リリーに彼氏が出来たなんて言い出したのは誰だい?」
デボラの叫びに全員の視線かケーテへと向く。
「わ……私じゃないですわ!!」
両手を振って全力で否定するケーテ、しかし
「でも、ガンガン音立てながら騒いだのはケーテでしょ?」
「そ……それは……」
エッバがそう言うと答えに詰まるケーテだったが、周りを見渡すと
「で……でも、最初に「彼氏」って言い出したのは私じゃないわ、レオナよ!!」
テーブルを置いていた剣士のレオナを指差しながら叫ぶ。
その場の全員の視線を受け、腕組みをしたレオナが「う~ん」と唸りながら考え込み、
「あ~、確かにそう言ったかもしれないね~、でも、私が言ったのは、リリーの口から男の名前が出たので、『彼氏でも出来たのかい?』って質問しただけなんだが……」
レオナの言葉に全員の視線が交差する。
「ふ~ん、で、どっち?」
「出来たの?出来てないの?」
そうリリーに聞いたのは、弓使いの姉妹ナディとリディだった。
右サイドで髪の毛を結んだナディと左サイドのリディ、二人ともキラキラした視線をリリーへと向ける。
「彼氏なんて……ぐずっ……いません」
ピーアに頭を撫でられながら、ナディとリディに答える。
「でも、男の名前を言ってたろ?確か……クレタだっけ?」
レオナの問いに少し考えるリリー、
「……もしかして『クルト』……ですか?」
「あ~それそれ、その名前」
レオナが、右手人差し指を立ててクルクル回しながら、楽しそうな顔をリリーに向けて話す。
逆に驚いた表情を見せているのはデボラだった。
「リリー、クルトってまさか……クルト・フォン・フォーエンローゼン様かい?」
「「「「えっ?!」」」」
何人かを除く目がリリーへと向けられる。
『クルト・フォン・フォーエンローゼン』と言えば、聖王国国王の十一番目の王子として有名であった。
男と言うより、中性的な外見が……であったが。
「何でリリーがクルト王子と知り合いに?」
「えっと……話すと長くなるんですが……」
しどろもどろになりながらも、依頼の件から社交界デビュー、クルトとの出逢いへと話が進み、
「それで……クルトとお友だちに……なりました」
「なんでよ?!」
そう叫びながら近づいて来たエッバの目は血走っていた。
魔法使いエッバ(十八才)、彼女は結婚に憧れていた。
いつ死ぬとも分からない冒険者稼業よりも、主婦になりたいと願う。
それも、金持ちとの結婚を!!
そんな彼女からすれば王族、例え末の王子であっても玉の輿である。
そんな人物と、あろうことか友達になったなど……
「なんでよー!!」
再度、エッバの叫び声が店内に響く。
暴走気味のエッバをレオナが強引に押さえ込む。
「あ~こりゃ~ダメだね?」
「ちょいとジル、エッバに鎮静の魔法をかけな」
デボラの指示に従い、回復魔法の『鎮静』をかけるジルリオーネ。
魔法が効き始めたのかグッタリとしたエッバだった。
しかし、エッバの口からは
「なんで王子?なんで王族?なんで……」
虚ろな目で床を見ながらブツブツと呟く姿があった。
そんな一幕を見て溜め息をついたデボラが、
「取り合えずリリーは冒険者ギルドに行って依頼完了の報告をしな。こっちは……まぁ、何とかしとくから」
どうやら、ほとぼりが覚めるまで姿を隠しとけと言う事らしい。
そう覚ったリリーは、引き吊った顔を張り付けながら、デボラの宿屋を後にする。
ーーー
宿屋前の道からギルド方面の大通りへと舗装の甘い通りを歩いて行く。
ふと気が付くと、いつの間にか後ろに黒騎士が控えていた……が
「……」
「……」
「……逃げた?」
「……」
ジト目で見てくるリリーから視線を外す様に首を動かす黒騎士、その股辺りを杖で殴るリリー。
大通りに続く道で、「カンカンカン」と鉄を叩く乾いた音が鳴り響いていた。
出来るだけ早く次をアップします。
ω・`)ノシ