溜め息が出てました
木曜日に上げるハズだったのですが、少々ごたついた為、日曜アップとなりました。
すみません。( ノ;_ _)ノ
アベルが盛大に溜め息を吐いていた頃、ここオルボア『白鳥の安らぎ亭』でも
「はぁ~」
カウンターに座っている黒髪の女の子が、頬杖をしながら溜め息を吐く。
「ちょっとリリー、うるさいですわ!!」
テーブルを布巾で拭いてた少女がキツい口調で注意する。
「まぁまぁケーテちゃん、いいじゃない」
「うるさい酔っ払い!!」
テーブルを挟んで言い合う二人、テーブルを拭いてたのは『モンク』のケーテ、酔っ払いと罵られたのは『剣士』のレオナだった。
レオナの座るテーブルには、昼間だと言うのにお酒が入ったジョッキが置かれていた。
「酔っ払いって酷いな~私、さっき帰って来たばっかりなんだよ~?」
レオナ達は近場での『森林狼』退治から帰って来た所だった。
「目標三匹」と意気込みながら出掛けたものの、一日中、森の中を走り回って、やっと達成したのだった。
もう少し森の奥に行ければ、半日もせずに帰れたのだが……
冒険者ギルドから「指名された者以外、森の奥に行かない事」と通達され、仕方がなく浅瀬での狩りとなった。
だが、普段から警戒心の強い森林狼が、そう簡単に浅い位置に出て来る事も無く、結果、レオナ達は不眠不休で、群れからはぐれる様な、運の悪い狼達を探して追いかけ回す羽目になったのだった。
レオナ以外のメンバーは、宿に到着すると「もう寝る」と言い残し部屋へと戻って行った。
「飯も食べずに部屋に戻るなんて、味気ないじゃない?」
「だったら、食事を持って部屋へ行けば良ろしいじゃない!!」
「いやいや、それも味気ないじゃないの、こうしてケーテちゃんとの会話を楽しみながら食べる食事が良いのよね~」
「嘘でしょ、この酔っ払い!!」
布巾をレオナに向けながら、怒りの顔を向けるケーテ。
「やれやれ、そんな態度だと、いつまでたってもデボラの姉さんから解放されないよ?」
「ぐっ……」
布巾を持つ手に力が入る。
ーーー
街中で回復魔法以外を理由も無く使う行為はご法度。
なのに、黒騎士に『魔法強化した拳』を振るった為、ケーテはデボラから罰を言い渡されていた。
『アタシが良しって言うまで店を手伝ってもらうよ!!』
デボラからの罰の内容に、最初は反発してたケーテだったが
『イヤなら良いよ、その代わりウチからは出て行ってもらうけどね?』
一泊『銅貨一枚』、この『オルボア』の宿屋の平均金額なら、『銅貨十枚』が一般的だ。
しかし、デボラの経営する『白鳥の安らぎ亭』は、女性限定であっても『安過ぎ』だった。
普通なら経営すら出来ない値段設定だったが、デボラはこの値段を上げる事はしていない。
何故なら、この宿屋の主な資金源は、貴族に卸しているパンだから。
一般的なパンが、一個『銅貨二枚』の所、デボラのパンは『銅貨十枚』、それを貴族に卸す際は、配達料金込みで銅貨五十枚枚になる。
通常価格以上のパンを貴族達は何個も頼む為、一日の売上は、パンだけでも銀貨十数枚になってしまう。
そのパンの売上こそが、『白鳥の安らぎ亭』の経営力に繋がっていた。
ーーー
そんな訳で、初心者から中級までの女性冒険者は皆、デボラの宿屋を贔屓にする。
今更、値段も高く(標準的)飯も不味い(ここに比べて)男性客も居る(男クサイ)宿屋に移るなど出来るハズも無く、ブツブツ文句を言いながらも手伝いをするケーテだった。
「はぁ~」
そんなケーテの真横では、リリーが溜め息をつく。
「それにしても、リリーはどうしたんだい?指名から帰って来たらこの態度だろ」
レオナが帰って来た頃には、既にリリーはこの状態だった。
デボラは、リリーがベッティーナから受け取って来た終了書類を確認中。
後は、冒険者ギルドへ提出するだけだ。
そうなると、リリーの事を知ってるのはケーテだけとなるのだが……
「私にも分かりませんわ」
『ぷいっ』と顔を背けると、ケーテはテーブル拭きを再開する。
サボってデボラに怒られる訳にもいかず。
「ふ~ん、お~いリリー?」
「はぁ~」
「どうしたんだい?何があったんだい?」
リリーの耳元に顔を近づけ、こそこそと囁くレオナ。
大声を出すより、相手の意識の外から無意識に語る様に誘導する。
「楽しい事でもあったのかい?」
「楽しい……楽しかった……とても……」
さっきまで溜め息だけだったリリーが『楽しい』と言う言葉に反応する。
『なるほど、楽しかった思いにトリップしてるって所か?』
そう判断したレオナは、何が楽しかったのかな~?っと、思い出させる様に囁く。
すると……
「そう……楽しかったわ……ダンス……それに……カッコ良かった……」
「うん?カッコいい?誰がかな~?」
優しく、不信に思われない様にゆっくり言葉をかけると……
「カッコいい……クルト……王子」
頬を赤く染め、笑顔で語るリリー。
その言葉を聞いたレオナは
「うわ~お、リリーったら彼氏が出来たのかな?」
思わず声が漏れてしまう。
それを聞いたケーテは
「はぁ?!男?!大変!!」
布巾を台所へと放り投げ、お玉と鉄鍋を持ち出すと、
『ガンガンガン』
「召集~召集~リリーに男が出来たらしいですわ~」
鉄鍋をお玉で叩きながら廊下を走る。
その音と内容を聞いた泊まり客がバタバタと出て来る。
「本当?」
「リリーちゃんに男が出来たって?」
「相手は誰?どんな人?」
「ちょっと、どうなってるの?」
現在泊まっている客、レオナのパーティーメンバー全員と、本日暇を持て余していた面々が食堂へと集まって来る。
「へっ?」
騒ぐケーテにやっと気が付いたリリーは、惚けた顔をしていた。
食堂に集まったメンバー、特にレオナのパーティーで『玉の輿』を狙う『魔法使いのエッバ』は鼻息荒く、
「出入り口を封鎖、ほらテーブルは端に寄せて椅子を準備して、真ん中に一つ、後は周りを囲む様にセットして」
テキパキと準備を整えて行く。
窓際にテーブルを重ね、窓を塞ぐ。
余ったテーブルを二つ程出入り口に積むと、箒を持ったケーテが店の前で仁王立ちする。
中央の椅子へとリリーが無理矢理連れて行かれ、強引に座らされる。
同時に、両手を紐で縛る。
「えっ?」
リリーが疑問の声を一つ上げると、上から紐が掛けられ、上半身を背もたれへと固定していく。
「えっえっ?」
さらに疑問の声を上げた瞬間、片足ずつ椅子の足へと紐で括られて行く。
「えぇぇぇぇー?!」
気が付けば、椅子に完全固定されたリリーを真ん中に、周囲を包囲する様に椅子が置かれ、女性冒険者達が座っていた。
リリーの正面にはエッバが座っている。
その目はとても鋭い目で、正面からその眼光を受けたリリーは、身動き出来ないまま、冷や汗を流す。
「さて……キリキリ話してもらいましょうか?」
ニッコリ笑いかけるエッバだったが、その目は一切笑っていなかった。
続きは早めに上げます。
ω・`)ノシ{確定申告……面倒です