冒険者達は西へ行くそうです
遅くなり申し訳有りません。
( ノ;_ _)ノ
西方都市「オルボア」から西へ2日程行った所に、人口三百人の小さな町がある。
名を「オー・ルラン」
小さいながらも、西に向かう者にとっては貴重な町だ。
ここからさらに西に向かうと、人口百人にも充たない小さな村が複数点在するだけになる。
そのため、最後の補給地として旅人が、又は冒険者が多く行き交う場所としてそれなりに栄えていた。
そのオー・ルランの町から西へと向かう道を五台の馬車が、列を成して進んで行く。
西の辺境に向かうには数が多く、護衛と思われる冒険者の数も十六人と、普段ではあり得ない規模になっていた。
『ゴブリンの異常繁殖の恐れ有り』
冒険者ギルドから商人ギルドに寄せられた情報は、辺境の地を行き来して利益を出している商人には、死活問題となっていた。
通常でも危険がある辺境への販路が、さらに危険になってしまったと……
そこで彼ら商人はある事を考えた。
辺境へと行き来する商人が一纏めとなって行くのはどうか?
護衛の冒険者は、それぞれの商人が信用している者達を使い、各村を周ろうとする事になった。
最初は、同意しなかった同業者も、このまま辺境への販路を失う訳にも行かず、かと言って新たに販路を見つけるにはお金と時間の問題が……との状況に、お互い協力する事で合意した。
本来、それぞれの販路が重ならない様、商人ギルドへと登録した場所しか向かえないルールなのだが、今回はイレギュラーとして特別に許可が出ていた。
そして今、オー・ルランの町から半日程離れた道を彼らは進んでいた。
普段よりも速度を上げ、先へ先へと急ぐ。
ーーー
「はぁぁ~」
三台目の馬車の左側を歩く冒険者が盛大な溜め息をつく。
オー・ルランの町を出てから既に何百回、オルボアから数えれば千を越える程の溜め息の数に
「アベルうるさい!!」
アベルから数メートル離れた左側、魔物の住む森と街道の間を進む弓使いが、顔を歪ませながら文句を言う。
目線は森から外さず、気配感知を最大にしながら。
「う……うるさいって……」
「溜め息付き過ぎる、森の中を感知するのに邪魔だ!!」
弓使いは、護衛関係のクエにおいて絶対に必要な職業だ。
彼らの持つ感知能力は、モンスターからの不意討ちに絶大な効果を発揮する。
とは言え、彼らの大半は元猟師だったりする。
幼い頃から森の中で過ごし、そのまま猟師になる者、冒険者へとなる者等様々だ。
その為、冒険者として登録された数は全体的に少ない。
もっとも、魔法使いや神官に比べれば多い方なのだが……
「確かにうるさかったな、宿屋でもうるさ過ぎて困ったぜ」
アベルの左斜数メートル後ろを歩くレンジャーも同意する。
レンジャーは弓使いとよく似た性質を持っているが、決定的に違う所がある。
レンジャーは「冒険者ギルド」では無く「盗賊ギルド」の管理だと言う事。
元々冒険をする際、ダンジョン等鍵の掛かった場所が世界には存在する。
そこで活躍していたのが「盗賊ギルド」だった。
しかし、盗賊ギルドは裏稼業であり、世間の認識も厳しく、国としても取り締まりの対象になっていた。
「やれ、何処ぞの貴族の屋敷に忍び込んだ」とか「何処ぞの商人を襲った」と噂されてしまう。
そこで、冒険者ギルドとして、彼らを「レンジャー」と言う職業にし、ダンジョン探索等へと動向させる事にした。
盗賊ギルドとしても、裏の仕事「だけ」で世間を渡れる訳でもなく、結果、表の稼業に「レンジャー」を 裏の稼業に「シーフ(盗賊)」や「アサシン(暗殺者)」をと使い分ける様になった。
国としても、所謂「グレーな存在」として黙認する事となる。
アベルのパーティーは、弓使いとレンジャーの二人を使った索的能力を中心に、護衛クエを行って来た。
能力的には『弓使い>レンジャー』だったが、二人の索的能力により、他の冒険者パーティーよりもメンバーの死亡率は低かった。
一年近くやって来て、前回の戦士の死亡が初めてだったのだから……
「そんなに『あの娘』の事が気になったのか?」
「なっ?!リリーちゃんの事は関係無いだろ?!」
茶色い髪の青年アベルは、顔を真っ赤にして反論する。
「『あの娘』とは言ったが、『リリーちゃん』とは言ってない。ったく、分かりやすいヤツ」
「……」
リリーと別れた後、六日程オルボアの街で休養したパーティーだったが、急遽、三つの商隊が一緒に行動する事になり、慌ててメンバー全員を招集する事になった。
その六日間、新しい仲間を探していたのだが、結局見つかる事も無く、いつもより一人少ない人数で護衛する事となった。
そこでアベルは、リリーに一時的な参加を打診しようとしたのだが……生憎と『指名業務』中だったらしく諦める事になる。
そして現在……
「俺達が欲しいメンバーは『前衛』だ、分かってるのか?」
「分かってるよ、だからリリーちゃんに」
「彼女は魔法使い……いや、魔道具師だ、完全に後衛だろ?」
「……黒騎士さんがついて来るだろ?」
「アベル……」
弓使いとレンジャーの視線がアベルへと向けられる。
何とも言えない憐れみの視線で。
「な……なんだよ?」
「聞いていいか?あの魔道具師を雇うと黒騎士がついて来るってのは分かる……が、二人雇ってどうすんだよ?雇用費は?二人分?そんなの商人さんがOKする訳無いだろ?じゃあ、一人分で二人を雇うか?向こうが嫌がるだろ?」
「……六人分のお金を七等分」
「俺達がOKするとでも?」
「……」
『恋は盲目ってヤツか?』
弓使いとレンジャーが視線を合わせ、二人して溜め息をつく。
「アベル……お前、俺達のリーダーなんだからしっかりしろよ」
そう叱咤してきたのは、馬車の右側を歩く戦士だった。
アベルと違い、背中に両手剣を背負った戦士、鎧も鉄の胸当てを中心にした重装備。
ーーー
重装備の戦士と弓使い、そしてアベル、前回死亡した戦士イーリスの四人は、冒険者ギルドが経営する訓練所の出だ。
訓練所とは、冒険者に基礎を教える学校であった。
銀貨10枚で三ヶ月間訓練を行い、それが終わると冒険者登録がされる。
余程、素行がおかしくなければ必ず冒険者登録される為、普通の人達は訓練所へと行く。
能力が有る者、自信が有る者は直接登録に向かう。
ただし、直接登録する者の合格率は半数にも充たない上に死亡率も高い。
それに、訓練所に行く事でパーティーメンバーを集め易くなるメリットもある。
本来であれば、訓練所のツテを使い新しいメンバーを向かい入れるのだが……
ーーー
「アベル、お前が小さな女の子好きだったってのは、まぁ……メンバーとして目を瞑るが」
「ち……違う、そうじゃない!!」
慌てて否定するアベルだったが、
「兎に角だ、あの娘は忘れろ。オルボアに定住してる訳でも無いんだ。無理しても短期間で別れる事になるんだぞ?」
「ぐっ……」
そう、リリー達は東へと行く途中なのだ。
ここでパーティーに入ったとしても、旅費が貯まれば去って行く。
それでも
「もしかしたら残ってくれる……かも」
「「「……」」」
そっぽを向いたアベルの横顔を見ながら、弓使いとレンジャーと重戦士の三人は、盛大な溜め息をつく。
『『『ダメだコイツ』』』
ω・`)ノシ{次は木曜から金曜辺りに出す予定です。