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踊りだした様です

少し遅れてしまいました。申し訳ありません。

( ノ;_ _)ノ

「落ち着いた様ですわね、カタリーナ様」


カタリーナが振り向くと、そこには笑顔のベッティーナが立っていた。


「えぇ、予想よりも簡単に引いてもらいましたわ」


カール王子が周囲の貴族達を扇動して来る可能性を考慮していたのだが、先程の出来事から、裏で手を回す事も無く行き当たりの行動だった事が分かる。

恐らく、去年の騒動と同じく騒ぎを起こせば、何人かの貴族が乗ってくると予想していたのだろう。

しかし結果は……


「去年、騒ぎに乗じた貴族が一人も出ないとは……何かしたのかしら?」


カタリーナの問いかけにベッティーナは軽い笑みを向ける。


「そんな難しい事はしてませんわ、ただ、一部の貴族とお話をしただけですわよ、去年の事で」


その答えにカタリーナは


『まぁ……ベッティーナ様なら、去年の騒ぎの件を弱味として脅しに使う可能性はあるのよね』


そんな事を考える。



ーーー

去年の騒ぎとは……

ベッティーナが、自分の親戚の若い男の子に女装をさせ、社交界へ出した件。


ただし、ベッティーナ本人は、領主への挨拶が済むと同時にネタばらしをして、着替えさせる予定……だったのだが

それをややこしくしたのが、とある伯爵家だった。

もっと正確に言うなら、現伯爵では無く『前』伯爵が絡んでいた。


ベッティーナの親戚側が領主への挨拶を済ませた所に、前伯爵がやって来た。


「素晴らしい女性だ、是非我が孫の嫁に」


前伯爵との名の通り、四十代の息子に家督を譲って隠居していた老伯爵は、同じく社交界デビューをした孫の為にと口を出したのだ。


ベッティーナにすれば、まさかのタイミングに焦り、その場はちょっとした騒ぎになってしまった。

ベッティーナとその親族達は、マンネリ化する社交界を盛り上げようとの心意気だったのだが、今回は相手が悪かった。


件の前伯爵は、社交界では『堅物』で『融通の利かない』人物と有名だった。


そんな人物故、洒落など分かるハズも無く


「なんと無礼な事をするのだ!!」


と、叫び出してしまう。

前伯爵を止めようと、彼の息子の現伯爵や領主が仲裁に入った際、丁度社交界デビュー待ちをしていた十番目のカール王子が割って入る。


「この様な場で、これ以上の醜態は無意味、ならば国王の元で話し合ってはどうか?」


カールがこの様な提案をしたのは、別に善意と言う訳ではない。

単純に「面倒」だっただけであった。

だが、丸投げされた国王は後日、この件で頭を悩ます事となる。


っと言うのも、この前伯爵に同調する貴族が現れたのだ。

国王にすれば、ベッティーナ側から謝罪が出ていたので、穏便に済ます気でいたのだが……

前伯爵以下同調者の勢いが強く、数日間国政が止まる事態にまでなってしまった。


そこでベッティーナ自らが、処罰を申し出て老伯爵の溜飲を下げようと動いた。

そして出されたのが


『一年間の大きなパーティーの禁止』


であった。


貴族にとって、社交界等力関係を示すパーティーを禁止される事は、かなりの大事であった。


ただし、国王は逃げ道を用意していた。

『大きなパーティー』の定義を曖昧にしていた事だった。

つまり、百人規模のパーティーだろうが千人規模のパーティーだろうが、ベッティーナ側が


『この程度は大きなパーティーではない』


と言えば、今まで通り出来ると言う事だった。


だが、ベッティーナは一切のパーティーを行わず一年間静かにしていた。

貴族の間では有名だったベッティーナのパーティーが開催されない事は、貴族社会の中でも娯楽に飢えている婦人からの不満が上がる一方だった。

それぞれの婦人から、


「小さくても良いので是非、パーティーをやって欲しい」


と、懇願されたのだが、


「国王様よりの罰である以上無理です。それに一部の方々は、小さなパーティーであってもお許しにならないでしょう」


と、懇願してきた婦人へと、わざわざ返答の手紙を出していた。

案に


『老伯爵と便乗した貴族が見張ってる』


と匂わせる内容にしながら。


その後、老伯爵と便乗した貴族達は、自分達の家庭内で、妻や息子の嫁、さらにはパーティーを楽しみにしていた孫娘にまで『楽しみを奪った元凶』として冷たい視線を受ける事となる。


結局、その様な事態を引き起こした老伯爵と便乗した貴族達は、妻や娘達によって、参加を辞退させられる羽目になる。


この事態と後の国政混乱、更に国王の狼狽っぷりを見たカール王子が、『父親への嫌がらせ』に使えると判断し、無意味な敵意を持ってベッティーナの周囲を調べる様になったのだ。



ーーー

問題を起こしそうな貴族達が、軒並み自らの家族によって参加させられない事が、リリーの事での防御策へとなっていた。


「相変わらずの策士ぶりですわ」


カタリーナが若干引き気味の笑顔で話すが、


「偶々ですわ、私はただ、王命に従っただけですわ」


ベッティーナの涼しげな顔だけが全てを語っていた。


「程々になさい」

「あら、私は程々にしてますわ」


ベッティーナとカタリーナは、お互い顔を見合せて小さく笑う。


「でも、お陰で良い社交界となりましたわ」


カタリーナの呟きと視線の先には、優雅に踊るクルトとステップが微妙にズレてるリリーの姿があった。



ーーー

「あの……リリー、大丈夫ですか?」


先ほどから足元を気にするリリーに声をかけるクルト。


「え……えっと……その……」


口ごもるリリーは、ターンするたびに『フワフワ』と浮き上がるスカートを押さえようと必死だった。


リリーの着ているドレスは、最初に着ていたドレスよりも生地の多いので、少しの事では問題無かったのだが


『ひぇぇ~やっぱり捲れる?!』


リリーが動きやすくなる様に突貫で調整した為、膝辺りまで捲れてしまっていた。


遠目に見ていた男性貴族は、リリーの膝が見え隠れするたびに目線を反らし、女性貴族は扇で口元を隠しながら『なんと淫らな』と小声で囁く。


さすがにおかしいと思ったクルトがリリーを見ていると、スカートが上がるのを小さなステップで誤魔化そうとしている事に気付く。

クルトは顔を赤くしながら


「リリー、もしやスカートに何か?」

「?!」


気付かれたリリーも真っ赤な顔になる。

しばらく躊躇いながらも、溜め息をつき


「す……スカートが軽いものですから……その……勢いを付けると……捲れ上がってしまい……」


うつ向きながら、耳まで真っ赤にしたリリーの言葉に自然な笑みを向けたクルトは


「では、これならどうでしょう?」

「えっ?」


先ほどとは違い、ステップの幅を半分に、さらにターンも半周では無く五分の一程度に変更。結果


「あっ……あれ?」


リリーのスカートは、足首までしか上がらず、見映えも良くなる。

その変化に気付いた貴族達は、驚きの表情を向ける。


「この位なら大丈夫ですよね?」


クルトの言葉でリードされている事を悟ったリリーは素直に


「は……はい、ありがとうございます……クルト」


作り物ではない自然な笑顔と呼び掛けに、クルトは年相応の笑顔で返す。


『あぁ……やっと……やっと出会えた、僕が望む人に』


その感情が『友』なのか『愛』なのか、微妙な線だったが、幸せそうなクルトを柱の影からそっと見守る老執事は、我が事の様に喜んでいた。

ω・`)ノシ{次こそ早めに……

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