何とかなった様です
少々駆け足気味に進めてしまいました。
申し訳ありません。
( ノ;_ _)ノ
『金色の……獅子?!』
リリーは目の前に立つ人物の姿に釘付けになっていた。
祖父から聞いた事のある人物、ここ西方の国王にして「金獅子」の異名を持つ英雄。
金色の髪を後ろに靡かせ、威風堂々とした立ち振舞い、眼光は鋭く射ぬくが如く。
祖父が常々そう言っていた。
違いがあると言えば、祖父が言ったイメージより年齢が自分と変わらない所だったが……
「どうされたのですかカール王子?」
オルボア領主バルトルトが一歩前へ出ると軽く頭を下げる。
「あぁ、どうしても気になる事があってな」
カールは小さく頷き、ゆっくりと目線を変える。
バルトルトの後ろにいるベッティーナを見、次にリリーの方へと向ける。
「ひぃ?!」
静まり返ったホールに、リリーの小さな悲鳴が響き渡る。
カールの鋭い眼光に思わず声が出て、さらにはガタガタと見て分かる程震えていた。
「……?」
カールは困惑していた。
別にリリーを睨み付けた訳ではなかった。
リリーの後ろに居たカタリーナに視線を向けたつもりだったのだが……立ち位置から、リリーへ鋭い眼光を見せた様になっていた。
有り得ない程怯えるリリーを見た周囲の貴族達が
「カール王子は何故あれ程お怒りに?!」
「あの娘に何があったの?!」
「あんな小さな娘に何て酷い……」
カールは十四歳にしては背が高く、大人でもその迫力に圧迫される程だ。
そんな王子が自身より頭二つ分も小さな娘……っと言うより女の子と言う感じのリリーを『睨み付け』ている格好は、流石に黒髪黒目に悪意を持つ人達さえも、眉根をひそめてしまう。
『いや……俺はこの……リリーとか言う娘に対してじゃなく……』
心の中であたふたしながらも、表面的には冷静さを取ろうと必死になる……が、ホール内の雰囲気は何とも自分に不利な方向へと向く。
「ごほん……そこの娘、リリーと言ったな?貴様に聞きたい事が……いや、後ろの……カタリーナ婦人に聞こう、この娘の姓は何だ?」
その質問にホール内のざわめきが収まる。
何人かの貴族は気付いていた、彼女、リリーが『名』を言ってはいたが『姓』を語っていなかった事を
本来、この様な席であれば、『名』と『姓』を語る、それによって爵位が分かるハズなのに、リリーはそれをしなかった。
カタリーナは、少しだけ考えると
「これは失礼いたしました、この娘は私の遠縁にあたる者です」
その言葉にカールの眉が動く。
「ほう?では、爵位は騎士伯か?」
「……」
暫し沈黙が流れる。
話を聞いているベッティーナは、カール王子の狙いが分かっていた。
伯爵家の者の登場が終わり、次に王族が出る、その間に出て来たリリーの爵位が『騎士伯』であれば、これ程無礼な事は無かった。
爵位の階級、その上下で言うならば……だが
『でも、その為の策はあるわ』
ベッティーナには、この質問があると想定しての手を考えていた、そして、それはカタリーナの方も同じ
「カール王子はリリーの爵位に興味がおありでしたか?」
カタリーナの声が室内に響く。
その輪とした声に
『ふん、女狐の取り巻きが』
カールが小さく呟く。
その声は、誰にも聞こえる事は無かった。
だが、遠目にカールを見ていたカタリーナには、何を考え、何をしようとしていたのかが良く分かった。
この少年は、この場で因縁を付け、この国に嵐を起こそうとしている……と
「俺が聞きたいのはその娘の姓だ、さあ、答えろ!!」
先程とは違い、勝ち誇った顔。
恐らく彼の中では、騎士伯の娘がカタリーナの名声を借り、無理矢理この場に出たと思ったのだろう。
だが
「待ってください!!」
中央の階段から急いで降りて来たのは、十一番目の王子クルトだった。
ーーー
カールが詰め寄る少し前、階段上、回廊で待機していたクルトは、階下のざわめきに耳を傾ける。
ベッティーナからのお願いは
『あの黒髪の少女リリーをクルト王子の紹介の前に出す事、それを許可して欲しい』
と言うものだった。
もちろん、クルトは許可を出し、さらにそこで発生するであろう全責任も自分が取るとまで言い出す。
流石に責任問題に関しては、老執事が反対したが
「そもそも、彼女に迷惑を掛けたのは僕だから!!」
っと、無理矢理押しきったのだった。
これには老執事も口を閉じ、仕方がないと諦める事になる。
そのクルトが階段下の騒ぎを耳を澄ませて聞く。
聞こえて来るのは良く知った声、
「この声……まさか?!」
そしてクルトは階段へと飛び出す。
老執事がクルトに「お待ちください」と呼び掛けるが止まらない。
下から聞こえて来る声の主、自分の異母兄弟の元へと
ーーー
カールは息を切らせて階段を降りてくるクルトへと視線を移す。
「クルト……お前何故?!」
「カール兄さん、その娘を責めないで下さい、全ては僕が悪いのです」
階段をかけ降りて来る弟の姿を見てカールは歯軋りをする。
『くそ女狐め、最初からこれを狙っていたのか?!』
王族と伯爵の間にリリーが登場し、それに『誰か』が文句を言ったとしても、王族であるクルトが『許可した』とすれば、それは不敬に当たらない。
つまり、これ以上、問題を拗らせる事が出来ないと言う事だった。
「く……クルト……お前」
憎しみを籠めた目でクルトを見るカールだった……が
「……ふん!!」
踵を返して出口へと向かって行く。
「お……王子?!」
何人かの貴族がカールへと声を掛けるが、それらを全て無視して去って行く。
その後ろ姿を見ていたクルトだったが、バルトルトへと体を向けると、軽く会釈をする。
「バルトルト公、お騒がせして申し訳ない」
「いえ王子、その様な事はありません」
「会場の皆様も、折角の会に申し訳ない」
クルトの優しげな声にホール内の雰囲気が変わる。
先程までのギスギスした雰囲気とは違う、柔らかな感じに。
ベッティーナが音楽団の方に軽く合図をすると、ホール内に軽やかな曲が流れ出す。
貴族達の視線が全て外れた事を感じたリリーは、「ほっ」と息を吐く。
後ろから
「ふふふ、お疲れ様リリーさん」
後ろからカタリーナの声が聞こえて来る。
ゆっくりと後ろを振り返り、カタリーナと目を合わせると、とても楽しそうな顔をしていた。
「えっと……何か楽しい事でもありましたか?」
「ええ、去年の鬱憤を晴らす事が出来たわ、貴女のお陰よ、有難うリリーさん」
「えっ?」
カタリーナの言葉に何だか分からないと言った顔を向けるリリーだったが
「あ……あの」
「はい?」
掛けられた声に振り向くと、そこに居たのはクルト王子だった。
「あ……あの王子様……その……」
「貴賓室ではすまなかった」
そう言うと頭を下げようとする、それを慌てて止めるリリー。
「あぁぁ、王子様……止めて下さい……私になど……頭を下げてはいけません」
「でも僕は、危うく君の社交界デビューを潰す所だった」
『いえいえ、これは依頼ですから、今後はありませんし』
などと心の中で呟きながらも、
「お……王子様……その様なお心遣い……私には勿体無き事です」
ベッティーナから習った言葉遣いと、可愛く見える(らしい)笑顔を振り撒く。
「そう言って貰えると有り難い」
心底ほっとした顔をするクルトが手を伸ばして来る。
「そのお詫びと言う訳ではありませんが、僕と踊ってもらえませんか?」
「えっ?」
まさか、このタイミングでダンスに誘われると思ってなかったリリー、
「良い機会です、いってらっしゃいリリーさん」
「か……カタリーナ様?!」
「お義母様でしょ?」
「は……はい、お義母様」
つい素で喋ってしまい、カタリーナに冷たい目で釘を刺されるリリーだったが
「ははは、仲の良い事で」
カタリーナの冷たい目に微妙に冷や汗をかくクルトをチラリと見て、そっと手を出す。
「それではお願いします王子様」
「エスコートはお任せを……えっとリリー嬢?」
そう言えば、この王子に自己紹介してなかった事を思い出し
「リリーと申します……王子様」
「そうか、リリーと言うのか、僕の事はクルトで良いよ」
「分かりました……クルト王子」
「違う違う」
「え?」
クルトの否定の言葉に、一瞬思考が止まったリリーだったが
「僕の事はクルトだけで良いよ、だって僕達は同い年じゃないか?」
そう言うと、ふっとリリーから視線を外す。
銀の髪から覗かせる耳は、真っ赤になっていた。
「えっと……分かりました……では、私の事も……リリーと呼んで下さい……クルト」
呼び捨てにされた瞬間、リリーの方を振り向くと、貴賓室で見せた『完璧な笑顔』ではなく、年相応の子供らしい笑顔を見せたクルトだった。
次で貴族編は終了予定です。
ω・`)ノシ