お義母様と呼びました
少々遅れてしまいました。申し訳ありません。
( ノ;_ _)ノ
階段下、領主の後方に居たベッティーナの元へ執事が近付くと、その耳に何事かを伝える。
暫く聞いた後一つ頷くと、何かを指示して下がらせる。
その一連の動きを『ジッ』と見ていたのは、会場内ではカール王子だけであった。
『何だ、動きがあった?!』
目の前では、何処ぞの伯爵の息子が緊張した顔で無理矢理笑みを張り付かせながら口上を述べていた。
『次が最後……クルトの番か』
カールは頭の中で配られていた名簿を思い出す。一人急遽出られないとの話だったが、名も知らない下級貴族の子の事なぞ、彼にはどうでも良かった。
「さぁ動け女狐、俺が全部ぶっ壊してやる!!」
小さく呟くと、鋭く暗い目線をベッティーナに向ける。
ーーー
口上を述べ終えた伯爵の息子が階段を降りてくる。会場内全員の視線が集中するその場、階段横には『全長二メートル越えの真っ黒い鎧』が立っていた。
社交界がスタートした際には、騎士伯を中心とした武門の人々が
「ほほう、これはまた武骨な鎧」
「いやいや、飾り気も無い実用的な代物で」
「ふむ、会場には似合わぬ鎧ですが、飾りとしては……」
と、大きな黒い鎧を『場に似合わぬ飾りの一つ』と思っていた。
その鎧が静かに動き出すまでは。
ーーー
会場となっているフロアー、部屋の中央に階段がある。
階段を中程まで上がると、社交界でデビューをした貴族達が口上を述べているデッキがある。
そのデッキ部分から左右へと、二階へと続く階段があった。
左右に延びる階段の先に、今回のメインである貴族の子供達が半分に分かれて待機していた。
伯爵の息子が領主とのあいさつを終え両親の待つ場所へと移動する。
次は最後の参加者でもあるクルト王子の出番……のハズだったが
「出て来ない?」
「何かあったのか?」
何時まで経ってと王子が降りてくる気配が無い。
会場内の貴族達を徐々に騒ぎ始める……その時
『ガチャリ』
と音を起てる。階段下、東側に当たる大扉前で、黒い鎧が片ヒザ立ちで待機していた。
すぐ近くに居た貴族が
「何だ、倒れて来たのか?!」
と、心配顔をしながら一歩下がる。
その動きに合わせる様に、大扉がゆっくりと開いて行く。
大扉の向こうから現れたらのは、真紅のドレスを着たカタリーナと、水色のドレスを着たリリーだった。
ーーー
扉が開く少し前……会場からの声を聞きながらリリーの緊張は頂点に達しよつとしていた。
『えっと……扉が開いたら、大きな声で挨拶……の前に、非礼を詫びて……あれ?挨拶が先?えっと……違う、頭をゆっくり下げてから非礼を……あぁ~そうじゃなくて』
「落ち着来なさいリリーさん」
凛とした声が前方から来る。
顔を上げるとカタリーナが体半分をコッチヘと向けていた。目はダンスレッスンをしていた時の目、真剣な目線。
ゴクリと喉が鳴る……が、緊張で口の中がカラカラの為、唾液の一つも通らない。
「は……はい……カタリーナ様」
「違うでしょ?」
そう言って否定するカタリーナの顔を見ると、先程とは違い優しい目でリリーを見ていた。
「あ……お……お義母様?」
「はい、良く出来ました」
笑いながらリリーの頭を軽く撫でる。
現在のリリーは貴族、一時的な貴族としてこの場に居た。カタリーナの考えた『社交界を潰さない』為の方法として。
「良いですねリリーさん、これから会場に入りますが、絶対に気を緩めてはいけません。この会場に居る貴族達は皆、海千山千の人達、少しでも侮れば貴女だけでは無くベッティーナ様や領主様にも迷惑を掛けるのです。良いてすね?」
「は……はい……気をつけます……お義母様」
胸の前で『ぐっ』と握りこぶしを作り気合いを入れるリリーを見て「ふふっ」と微笑むカテリーナ。
その微笑みを見たリリーが不思議そうな顔を向けると
「ごめんなさいねリリーさん、貴女を見てると、もう一人ぐらい居ても良かったかしらって思えて」
「えっ?」
「私にはね、子供が二人居るの。今は王都で騎士をしてるわ。二人共良い子だけど……本当は女の子が欲しかったのよ」
「カタリーナ様?」
リリーの頭から手を離し、視線を扉へと向ける。
「娘を見守り、大きくなったら社交界デビュー、色々おめかしさせて、いろんなお店に一緒に出掛けて……そんな事を夢見てたの」
「カタリーナ様……」
「だから今夜だけ、その夢を見させて欲しいの」
「……」
扉の前で背筋を伸ばしたカタリーナを見ていると、扉の向こうから大きなざわめきが聞こえて来る。
「どうやら時間の様ね、リリーさん、準備は宜しくて?」
こっちを見る事無いカタリーナの背中に向かって
「もちろんです……カタリーナお義母様」
出来るだけ心を込めてそう伝える。今だけ、今宵限りの母親。
リリーが気合いを入れると同時に、目の前の大扉が開く。
ω・)ノシ{次は、もうちょい早く上げる予定です。