再度、洗われました(汗)
あけましておめでとうございます、今年もチマチマ頑張っていきます。
( ノ;_ _)ノ
『初めて見た黒髪の少女、あの娘はどうしただろう……つい声を掛けてしまった……自分の立場も忘れて』
二階の通路から一階の御披露目の場へと続く階段、その手前でクルトは悩んでいた。
貴賓室でつい声を掛けてしまった事、本来王族であればあり得ない失敗だった。
「自分の立場が王族だって事を忘れてた……」
彼自身、王族としての振る舞い教育はほとんどされてなかった。今回の社交界デビュー直前になり、宰相が慌てて教育係りを付けた程、彼の存在は忘れてられていた。
だからこその失態……
「じぃがどうにかするって言ってたケド……大丈夫かな?」
自分に仕えていた老執事が領主への報告へと向かっていたのだが……彼はまだ帰っていない。その為、クルトは集中出来ずに居た。
丁度その頃、彼の居る場所の真下、一階の小部屋でリリーが衣装直しをしてるとも知らず。
ーーー
社交界のフロアー隣の小部屋では、メイド達がリリーを取り囲んでいる所だった。
この小部屋は、体調の悪くなった貴族(簡単に言えば、酒飲み過ぎた酔っ払い)などを一時的に休ませる(隔離する)為の場所だった。
「あ……あの……」
部屋の中を不安そうに見回していたリリーに対し、
「では、リリーさんの湯浴みをお願いね」
「かしこまりました、カタリーナ様」
「汚れを簡単に落とすだけでいいわ、時間も無いし」
カタリーナがメイド達に指示を出す。
「カタリーナ様お待たせ、持って来たわよ」
ハンナがメイドに大きな鞄を持たせ、室内へと入って来た。
「待ってましたわハンナ様」
「予備を持って来てて良かったわ」
そんな二人をボーっと見てる間に
「ではリリー様、失礼します」
「へっ?」
気が付くと大柄なメイドによって、脇に手を入れられ持ち上げられていた。
左から来た別のメイドが、リリーの腰のリボンを緩めドレスの背中側の止め紐を解く。
間髪入れず、左右から来た別のメイドがドレスの胸の部分に手を入れ、一気に下げる。すると「スポーン」と良い音が鳴りそうな勢いでドレスが脱げ落ちる。
ドレスが落ちると同時に、背中のリボンを解いたメイドがコルセットの止め紐を外す。
それに合わせて、正面に立った一番年若いメイドがコルセットと紐パンを一気にずり下ろす。
この間、僅か三十秒の早業だった。
「えぇぇ?!」
リリーの頭が状況を理解した時には、既に湯槽へと漬かった状態だった。
「リリー様、髪を整えてます」
髪にお湯を掛け、櫛を使ってゆっくりと透く。
今回は『汚れを簡単に落とすだけ』と言われていたので、表面を流すだけと心掛けていた。
髪の毛を整えるとリリーを浴槽から立ち上がらせ、タオルケットを体に巻き付けていく。
昼間の様に『香油』を塗りたくる時間が無いので、直接お湯に香油を垂らし、全身に染み込ませる方法を取った。この方法だと、時間短縮になるが、残念な事に匂いが長持ちしない。
今回は、お風呂上がりにそのまま会場へと行ってもらう為の苦肉の策だ。
リリーの髪の毛の水分をタオルを使って優しく拭い去りながら、大鏡の前へと連れて来られる。
鏡の前では、ハンナがドレスを取り出して待ち構えていた。
ーーー
「クルト王子、ただいま戻りました」
後ろから声を掛けられ振り向くと、そこには老執事が立っていた。
「じぃ、どうでした?彼女は?」
「落ち着いて下さい王子」
老執事が焦った顔でクルトを宥める。
「黒髪の少女は無事保護されました」
その言葉に『ほっ』とし、安堵の表情をする……が
「少女は今回の社交界のみのゲストだったそうで、領主様も預かり知らない事だったそうです」
「えっ?!」
領主が知らない?ゲスト?それはいったい……
「彼女の事は、領主婦人の妹様であるベッティーナ様預かりでした。そのベッティーナ様から伝言があります」
ベッティーナと言う貴族名には覚えがあった。兄であるカールが『もっとも危険で油断ならない人物』と言ってた御婦人。そんな人から伝言?
「『今回の件は此方の不備によるもの、王子のお気になさる程の事ではありません』との事でした」
老執事の言葉に「そうなのか」と納得しかけたが、
「では、彼女は来年、社交界デビューをし直すの?」
社交界デビューの失敗は前例が無い訳ではない。例えば『直前に大病に掛かった』とか『国外に居て参加出来なかった』とか。
その場合、次の年にやり直す事が多いのだが……
「残念ながら、彼女はこれが最後のチャンスだったそうです」
「最後?!何故?」
「彼女は来年国外へと赴く事になっているそうです。詳しい事は教えていただけませんでしたが、次に帰ってくるのが何時になるのか分からないそうです」
その言葉を聞いたクルトの表情が真っ青になる。国外に行く?!次が何時になるか分からない?!そんな事情の少女の社交界デビューを潰してしまうなんて……っと。
貴族にとって『社交界デビュー』は、自身の生命線とも言える事だった。それは王族ですら代わらない。
どれ程有名であれ、賢く強い存在であれ、その身が貴族であれば『社交界デビュー』をしていなければ、何処の貴族からも相手される事は無い。
「野蛮な一般人」或は「社交界デビューすらさせてもらえない問題のある貴族」という扱い。
「そんな……僕はなんて事を……」
頭を抱えるクルトを老執事は横から支え、
「そのベッティーナ様からの提案なのですが……」
何故か少し言い淀む老執事に怪訝な顔を向けると
「彼女の為に王子のお力をお借りしたいとの事です」
その言葉に目を見開く、彼女の為?それなら出来る限りの力を貸したい。老執事の腕を掴むと
「それはどんな事ですか?」
揺さぶりながら必死の形相で聞く、あの黒髪の少女の為にと。
ω・)ノ{お餅美味しいです、醤油と海苔は最強です(異論は認めます)