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お助けしました

今週末までに続きを出すと言ったな?

あれは嘘だ。

目の前で起こった事をどう表現すれば良いのか?

人間、現実離れした状況に合うと呆然としまうって先輩冒険者が言ってた気かした。

彼の名は『アベル』、護衛クエを中心に受けているパーティーのリーダーだった。


彼の前には巨大な黒い鎧の騎士、その騎士が左手を差し出した状態で止まっている。

左手には、少女が腰掛けていた。彼女は頬を染め、恥ずかしそうに呟く。


「あの……お願いが……あるの……ですが」



ーーー

大陸東から西へと伸びる道、南側に深い森、北に大草原を持つ。

この街道を西に行けば、人口百人程度の村が複数存在していた。

街道を東へ向かうと、この西方では最大の街がある。


辺境に住む人々にとっては、生活に直結する大切な道であった。

しかし、森が近い為、当然ながらモンスターも湧く。一般的なゴブリンと森林狼の群れなどがそうであった。


西の辺境では、羊毛と麦が盛んだった為、商人が行き来する事になる。

その商人を守る為、冒険者にも需要が増す。

辺境では、よくある事だった……そう、その日も



ーーー

「くそっ、前後を挟まれた!!」


パーティーメンバーの弓使いが、馬車の屋根上から叫ぶ。

護衛隊のリーダーアベルは、その報告に焦っていた。

何時もの護衛、馬車2台に3人ずつメンバーを分けて進んでいた所、ゴブリンの襲撃を受けた。


最初は5匹、2台目の馬車の横っ面に飛び掛かって来たが、弓使いとレンジャーの投げナイフで2匹を、魔法使いのファイアウォールで3匹仕留める。


そう、普段であればそれで終了のハズだった。油断していた。

馬車の先頭に居た戦士の叫び声で振り返ると、そこには10匹以上のゴブリンに滅多打ちにされる仲間の姿だった。


彼は先頭の馬車で周囲警戒をしていたハズだった。

だが、横からの襲撃者が倒されたのを見て安心してしまった、それが生死の別れだった。

首筋に矢を受け、振り向いた先にあったのは、醜悪な顔をしたゴブリン達……それが彼の見た最後の光景だった。


アベルは、仲間の戦士が肉片になっていくのを後方から見ているしか出来なかった。

彼らのパーティーは戦士3人、弓使い、レンジャー、魔法使いの6人で構成されていた。左右から襲撃された場合は、前後を戦士が一人ずつ警戒する、それが彼らのセオリーだったから……今回はそれが仇となった。


『先頭の守りが崩された以上、最善の作は……』


アベルは、即座に指示を出す。


「先頭の馬車は棄てる、商人も御者も後ろの馬車へ」


今の状態では生き残るのが先決、そう判断しての事だったが


「後ろからもゴブリンが!!」


後方に待機させていた戦士の声が聞こえる。

アベルが振り向くと、やはり10匹以上のゴブリンが森から溢れて来た。


「くそっ、固まれ、防御体勢だ!!」


ゴブリンが挟み撃ちをする、あり得ない事では無い。普段であれば、ゴブリンリーダーやゴブリンキングと言った上位個体があってこそだった。


『見えるのはノーマルのゴブリンだけだ、何故?』


アベルを混乱させたのは、『下位のゴブリン』しか現れていないからだった。

もし上位種が居れば、集中攻撃で一気に始末すれば集団は崩壊するハズ。なのに上位種が見当たらない……それが撤退のタイミングを逃す結果となった。


「不味い、矢か尽きる!!」


弓使いが叫ぶ。


「すまん、魔法も打ち止めだ……」


さっきまで、ファイアーランスを唱えていた魔法使いの声も聞こえる。

ゴブリンの数も3分の1減らした、だが、撤退しようとしない、本来あり得ない事だった。

ゴブリンは弱い、仲間の数が減ると即座に逃げだす、そんな生態のハズだった……なのに


「コイツら、何でこんなに死に物狂いなんだよ?!」


そう、何かに取り付かれたかのように襲いかかって来る。全てがあり得ない状態。


「このままでは……」


アベルは最悪な状態に歯噛みした……少女が森から表れるまでは



ーーー

最初に見つけたのは、馬車の屋根上に居た弓使いだった。

彼と同じ目線の先に少女が居た。

黒髪黒目、白いローブを着た少女、木の枝にでも座って居るのか、こんな場面でなければ『森の妖精かエルフ』と見間違うだろう、それくらい不思議な光景だった。


「女の子?!」


弓使いの呟きを聞いたアベルが森の方を見て『ぎょっ』とする。


冒険者の鉄則の中に、ゴブリンに対して『女、子供』を出してはならないと言うのがある。理由は簡単、ゴブリンにとって、子供の肉は最高級に当たり、女性に関しては言うまでも無く、孕ませる為だけに狙われ続ける事となる。


そして今、この異常なゴブリンの群れの中に女の子が現れる、これ程最悪な状況は無い。

突然現れた女の子の姿に興奮したゴブリン達が襲いかかる。


「そこの君、逃げるんだ!!」


アベルは叫びながらゴブリンの群れへと飛び出そうとした、最悪な状態をこれ以上は……

だが、アベルは足を止めてしまう。

女の子に飛び掛かったゴブリン2匹の頭部が、目の前で飛び散ったのだから。



ーーー

少女の目の前でゴブリンの頭部が弾け飛ぶ。

少女側に肉片が飛ばない様、左から右へと飛び散って行く。

その光景を何の感情も無く見ていると、更に10匹以上のゴブリンがこっちに走って来た。

少女の体がゆっくりと前進しだす……いや、足を動かした訳では無く、腰掛けた何かが動きだしていた。



ーーー

アベルとその仲間たちは唖然としていた。

少女の姿を確認した全てのゴブリン達が、こっちを見向きもせずに襲い掛かる。

それと合わせるかの如く、少女の影が動く……前へ前へと……それは黒い騎士姿へと変化していった。


肩に少女を乗せた全長二メートルの騎士が、ゆっくりと森から出て来る。

少女に向かって複数のゴブリンが飛び掛かり……そしてアベル達は見た、黒騎士の手刀がゴブリンの頭部を粉々に飛ばすのを


『さっきの2匹はこれで死んだのか!!』


残ったゴブリン達が、低い姿勢で黒騎士の足元へと殺到する、数で押し倒すのか噛みつく気なのか……だか


『ひゅっ』


風切り音が聞こえ、足元のゴブリン達は肉片へと代わった。

黒騎士が軽く足払いをした……ただ、それだけで7匹のゴブリンが飛び散ったのだ。


残ったのは5匹のゴブリン、だが


「えっと……ファイアーボール」


少女が小さな声を呟き左手を前に出す……と、拳大の炎が空中に表れる……その数10個


「詠唱破棄で並列起動?!」


仲間の魔法使いの声が聞こえた。

ファイアーボールと言えば、魔法使いなら初歩の魔法で、素質さえあれば子供でも使えるのだが……それを複数出すなど、効率の悪い使い方としか思えない事だった。

普通なら即『魔力切れ』に陥ってしまうのだから、だが


少女の手から放たれたファイアーボールが残ったゴブリンに放たれる。


『ゴッ』


凄まじい高熱と衝撃の後には、消し炭となったゴブリンだったモノが転がっていた。



ーーー

アベルは呆然としていた。

いくら弱いと言われるゴブリンであっても、20匹以上をアッサリと片付けた腕前に……


だからこそ、目の前に黒い騎士が立たずんでいる事に気付いた時は死を覚悟した。


『殺される?!』


汗が流れ落ち、喉が渇く、身動きが取れない……そんな彼の前に少女の顔があった。


黒騎士が膝を付き、左手に少女を腰掛けさせて、アベルの前へと差し出す様に構えていた。

あまりにも場違い……そんな中彼女は、頬を染め恥ずかしそうに呟く。


「あの……お願いが……あるの……ですが」



ーーー

「……本当にそれだけで良いのかい?」


アベルは目の前の状況に困り果てていた。

彼女、『リリー』と名乗った少女の願い、それは


「パン美味しい~」


保存食のパンを一個、涙を浮かべながら少しずつ噛む。


『パン一個で良いんです、貰えませんか?』


あり得ない、何々だよコレ……普通なら全財産寄越せとか荷物全部とか言われる案件だろ?!


他の冒険者が助ける、それ自体あり得ない事では無い……が……


美味しい美味しいと連呼しながら涙目の少女リリーを見てると……どうでも良くなってしまった。


「パン美味しいよぉ~」

次こそ今週末までに続きを……

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