涙腺崩壊しました
すみません、仕事が忙しくて続きを書くのに手間取りました。
( ノ;_ _)ノ
「貴女のお名前をお聞きしても良いですか?」
銀髪のか細い男の子に話し掛けられました。
えっと……ベッティーナ様、貴賓室に入ったら周りの人達は『知らない人に話し掛けててこないから大丈夫』と言ってましたよね?この子……その……王族の男の子が目をキラキラさせて話し掛けて来たんですが何故?
こんな場合はどうすれば良いの?ねぇ、久しぶりに教えて、お爺さん直伝「旅の注意書」さん!!
ーーー
貴賓室に続々と貴族が入って来る。彼ら彼女らは今回の社交界の主役達であった。全員が胸に白い薔薇を付けている。
彼らは貴賓室に入ると周囲を見渡し、知り合いを見つけては近づき世間話をする。
しかし、そんな彼らはテラス側を見て固まる。
そこには、背中に垂らされた黒髪と暗闇でも目立つ白いドレス、腰には少し大きめの赤いリボンを付けた女の子が背を向けて立っていた。
貴賓室に入って来た貴族は、それぞれが知り合いに「あの子は誰だ?」「何処の者だ?」など気になって仕方がなかった。
ただ……
「かなり前から此処に居たらしいから、何処かの下位貴族の令嬢だろう?」
誰かの一言でその場の空気が代わる。
貴賓室にて待機する際のマナーとして、下位の貴族程、先に来ていなければならないとされている。
当然、誰よりも早く来てたと言う話になれば『何処かの貧乏貴族の娘』だろうと結論付ける訳で……実際には貴族ですら無い『一般人』なのだが
『気になるな~』的視線がチラチラとコチラに向かって来るのを感じながらリリーは
『は……早く始まってくれないかな……そろそろ立ってるのも疲れてきましたし……何より』
「黒騎士さん大人しくしてるかな……」
ポツリと呟く。
『離れていて心配』と言うよりも『何を仕出かすか分からなくて心配』なのだが……
そんな思考中に
「デトラニア辺境伯家ブラトリア様ご入室」
先ほどまでとは違い、案内役の執事が入り口にて名乗りを上げる。
今までは騎士伯や男爵など下位貴族の子息だった為、名乗りが無かったのだが、伯爵クラスになると子供であってもそれなりの対応をしなければならない。
当然、室内に居る面々も立ち上がって腰を折り礼をする。
深いお辞儀では無く、失礼に当たらない程度の礼ではあるが……
テラス側に居たリリーもゆっくり振り向き、ドレスの裾を持ち上げ礼をする。終わると元の位置へと戻す。
その一つ一つの動作が、室内の貴族達の目線を引き寄せる……が、肝心のリリーは必死であった。
『ひぃぃ~捲れる、捲れちゃう~!!』
ーーー
この日の為に用意したハンナ特製ドレスは、ごく一般的なドレスと比べて生地が薄いモノを使っていた。
ハンナの作るドレスは、本来であれば、複数の生地を重ね合わせてふっくらとした見た目を演出するものだった。しかし、力の無いリリーには……
「は……ハンナ様……これ……重い……です」
生地を重ね過ぎてリリーには鉄鎧のようなモノになっていた。
「う~ん……これでもかなり軽い方なのに……困ったわね~」
「ご……ごめんなさい……」
ハンナの呟きにションボリ顔をするリリー。
「あぁ~違うのよ、リリーちゃんが悪い訳じゃないのよ」
大慌てのハンナであったが「仕方がないわね」と言うと、リリーの着ていたドレスのスカートの中、重ねた生地を次々と剥いで行く。
「あの……ハンナ様?」
「これでどうかしら?」
気がつくとスカートの中の生地が二枚にまで減っていた。
「残った生地でスカートを形付けしてっと」
最初のに比べれば、スカートのふっくらとした形こそ劣るが、リリーでも余裕で動ける程軽いドレスに仕上がった。
「う~ん、少し不満ですが……まぁ、許容範囲でしょう」
そう言うとハンナは少し離れた所からリリーの全体像を見て、「うんうん」と満足げに頷く。
「あの……少しヒラヒラしてる……んですけど?」
リリーが軽く動くだけでスカートが『ふわり』と浮いてしまう。
そのためスカートの端を押さえながらチョコチョコと小さく動く。
「そうね、生地の重さが無いからすぐ浮いちゃうかもしれないけど……気を付けてね」
ハンナの笑顔に固まるリリーは半泣き状態だった。
ーーー
『一応、ダンスしても大丈夫なように、ちょっとだけ重りを付けてもらいましたが……』
よく見るとスカートの端々に小さな宝石が取り付けられていた。どうやら重り替わりらしいのだが……
『と……兎に角、ダンスは出来るだけ避けないと』
そんな事を密かに誓うリリーだったのだが……
「ローライダル伯爵家ワンスランダー様ご入室」
あれから三人程貴族が室内に入って来た、その度に『ひぃぃ~捲れるぅ~』っと必死にスカートを押さえながら振り向くリリーだったのだが……
『このままだと絶対どっかで見えちゃうかも……うぅぅ……だったら』
キッと覚悟を決めた顔をし、体を室内の方に向ける。
『振り向くからスカートが捲れる……ならば』と考え、後何人かの貴族が入って来るまで、正面を見ておこうと考えたのだった。
『確か最後の入室者は王子様でしたっけ?』
頭の中で記憶を辿りながらうつ向くリリーを周囲の貴族が遠慮無く見て来るのだが、本人はその視線に全く気づいていなかった。
その後、二人の伯爵家の貴族が入り室内がざわめいていた所に
「フォーエンローゼン王がご子息、クルト王子ご入室」
室内の空気がピーンと張り詰める。この国の王子が入室する。その場の全員が出入口へと体を向け頭を下げる。今までの様な曖昧なモノでは無く正式な挨拶であった。
当然リリーも深く頭を下げ、片足を後ろに下げ淑女の礼をする。
カタリーナから
「王族に会う際は、向こうが面を上げよと言わない限り、顔を上げてはいけません」
と言われていた。さらに、この状態での維持を何度も練習していた為、今のリリーなら5分程なら楽に出来るようになっていた。
室内の貴族全員が静かに王子が入って来るのを待つ。10秒……20秒……しかし、いくら待っても「面を上げよ」の言葉が来ない。
流石に一部貴族が焦れ始めが、勝手に顔を上げて不敬罪に問われる訳にもいかず……ジッと我慢をする。
リリーも『まだかな~そろそろ足が痛くなって来たんですけど?』などと軽く考えていたのだが……
「面を上げよ」
あれ?王子様の声大きいわ、何故?
そんな事を思いながら顔を上げたリリーの目の前に『銀髪の王子様』が立っていた。
「?!」
「……」
驚き固まっているリリーの顔をジッと見る。
周囲の貴族も、そんな二人をジッと見ており、室内には異様な緊張感が漂っている。
『えっと……勝手に声掛けると不敬罪なんでしたっけ?』
必死にカタリーナに習った宮廷マナーを思いだしつつ、少し涙目になりながらも耐えるリリーだったが
「……」
「……」
「…………」
「…………」
「あ……あのぉ……」
根負けし、つい声を掛けてしまう。周囲の貴族達が息を飲む音が聞こえたのだが……
『ひぃぃ~やっちゃいましたカタリーナ様、どうしましょう、声掛けちゃいました、これって逃げた方が良いのてすか?』
もはやリリーの頭の中はお祭り状態だった。
「貴女……」
「ひぃっ?!」
王子に声を掛けられ一歩後ろに下がってしまう。
「貴女のお名前をお聞きしても良いですか?」
「へっ?」
なんともマヌケな声を上げてしまう。怒られると思ったら名を聞かれたのだ。もはやリリーの頭の中は大パニックに突入していた。
「あ……あの……その……」
キラキラした王子の目線に耐えきれなくなったリリーは、ついに涙腺崩壊し、ポロポロと涙を流しながら
「ご……ごめんなさい……」
っと一言叫んで駆け出す……出入口へと
スカートが捲れるのも気にせず全力で駆け抜ける。
王子を含めた全員が、呆気に取られてる間の出来事だった。
出来る限り早め更新する予定です。