二人は仲良しさんでした?
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お昼の忙しい時間を過ぎた『白鳥の安らぎ亭』、そこでは今、デボラとケーテが睨み合いをしていた。その二人を遠目に見ながら遅い食事をしているレオナとその仲間達、片手にエールを持ちながらニヤニヤしている。
「ですから、私は行かないと言ってますでしょ?」
ケーテが顔を真っ赤にしながら叫ぶ。
「だから、アンタしかいないって言ってんだよ!!」
同じく、真っ赤な顔をしながらデボラが叫ぶ。
最初はお互い、冷静に話し合いをしていたのだが……相手が聞いてくれない状況にイライラが募り、ついには酒場と厨房を挟んでの睨み合いとなった。
「あの……今……帰りまし……た?」
そんなギスギス空間に空気を読まずに入って来るリリー……そして、クルリと回れ右をして出て行こうとし、
「あ~待ちなって!!」
デボラに肩を掴まれる、これがここ最近のやり取りなのだが……
ーーー
「何故……毎回喧嘩……してるんですか?」
「いやいや、毎回じゃないよ?うん」
「ここ二~三日ですわ」
うんざり顔のリリーに対して、顔の前で手を振って否定するデボラと、腕を組み『ふん』と言う声が聞こえそうな態度のケーテ。
「この娘が折角持って来た依頼をイヤだって言うから」
「私に対する指名依頼で無いなら断る権利がありますわ」
お互い睨み合い状態へ移行する。それを見て『はぁ~』っと小さく溜め息を付くリリー。
「リリーも大分ココに慣れたねぇ~」
そう言って『ぐびっ』と音を立ててエールを煽るレオナ、そっちに目を向け
「レオナさん……何で止めて……くれないんです?」
不満顔で『む~』っと唸りなからレオナを睨むリリー。
「はっはっは~良いの良いの、その二人はジャレてるだけなんだから」
「「ジャレてない(ですわ)」」
ハモる二人を見て笑うレオナ達だった。
「にしてもリリー、今日はえらく遅かったじゃないか?」
「はい……その……変なのに絡まれまして……」
そう言うと、『下街のカサンドラ』とのイザコザを一から説明する。全てを聞き終えた面々は
「あぁ~そいつは災難だったね~」
っと、労いの言葉をかける。
実際は、黒騎士がゴロツキ全員の手首の骨を折った為、過剰防衛になりそうな所を兵士に色々説明しなくてはならず、リリーの疲労が溜まる一方だった。
そんな状況を見かねた住人や店員が、リリー達に比が無い事を証言してくれたお陰で、何とか解放してもらえたのだが……
「また……クロノ兄の暴走で……」
テーブルの上で頭を抱えるリリーだった
「何言ってんだい?クロノが居たから無事だったんだろ?」
デボラはそう言うが、リリーにしてみれば『毎回毎回相手をとんでもない目』に合わせているという感覚なのだが……
「まぁ、過保護だとは思うけどね、でも良いじゃないか、甘えられる相手が居るってのは」
そう言って遠くを見るデボラの目は『何かとても大切なモノ』を思い出すかのような寂しい眼差しだった。
『デボラさんも、迷惑掛けられる様な何かがあったの……かな?』
さすがにそれを聞くのは野暮……っと思った所で、自分的には大問題の用件を思い出し、
「あの……これ、フリーデ様から……です」
あぁぁ……本当は出したく無いんですが……出さないと私の冒険者登録が……などと心の中で葛藤する。
「フリーデからアタシにかい?」
珍しい事もあるもんだと呟きながら、リリーの差し出した手紙を受けとる。裏に書いてあるサインを確認し中身を出して読む、何やら険しい顔付きになり……
「はぁ……」
っと、溜め息を1つしケーテに向き直ると
「アンタへの依頼はキャンセルだよ」
「やったぁ~」
大喜びするケーテ、そして聞いてた内容と違う事に戸惑うリリー。
今度はリリーの方を向いて
「あ~すまないねリリー、ケーテの代わりを頼むよ」
「へっ?」
代わり?それはどう言う意味?っと考えていると
「それってどういう事ですの?私への依頼がキャンセルされたと言う連絡ではないの?」
「ケーテ、落ち着きな!!」
急に激昂したケーテを宥めるデボラだったが、フリーデからの手紙を見せて説明する。
「つまり、あっちの面々がアンタとリリーを勘違いしてたらしい」
「……」
「で、すでにリリーの寸法で衣装を用意しちまったから、キャンセル料を払うんで中止にしてくれって事だよ」
「でしたらリリーは……」
「そっちはリリーへの指名依頼に切り替えるんだとさ」
「……」
まさか、例の、サプライズの依頼がケーテだったとは思いもよらず、リリーは突然の成行に、ただ呆然と二人のやり取りを見てるしかなかった。
「とりあえず、前金で貰った銀貨の半分をギルドへの依頼解除資金に、残り半分をアタシとケーテで分ける事で全て終了さ」
冒険者ギルドに依頼を行う際、諸事情が無い限り、急な依頼中止は違約金が発生してしまう、特に今回の件は、デボラが引き受けた後だった為、かなりな金額になってしまう。
「な……納得いきませんわ!!」
顔を上げデボラを睨むケーテだったが
「アンタがさっさと受けなかったからだよ、それに本当に大変なのはリリーの方さ」
急に話を振られて慌てるリリー
「すまないね、なんだか巻き込んだ形になっちまって」
「え?い……いえ……その……」
言い淀みながらもケーテを横目で見る。
行きたくなかった依頼がキャンセルになった喜びよりも、自分の後輩とも言うべきリリーに、全てを押し付けた感じになった現状を苦々しく思い、何とも言えない顔になる。
「指定日まで後4日、大変かもしれないがよろしく頼むよリリー」
「あ……はい」
小さく頷くが……酒場内の空気の重さにクラクラするリリーだった。
次は木曜までに仕上げます。