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下町の……だそうです

さらっとした普通のほのぼの生活を書くハズが……どうしてこうなった?!

西方最大の都市『オルボア』、その中央の大通り北側を二メートルの黒い鎧を着た男が、左肩に少女を乗せながら人波を歩いている。


この大通りではすでに名物となってしまった光景である。この二人は、中央から北側に住む貴族や豪商にパンを届ける冒険者、まぁ……その姿がアレ過ぎて……


「おやリリーちゃん、こんにちは、お使いは終わったのかい?」

「おばさんこんにちは……これからギルドに……報告する所です」

「リリーちゃん、何か食べてかないかい?」

「ありがとうございますおじさん……じゃあ串焼きを……二つ下さい」

「やあリリーの嬢ちゃん、またデボラさんのお使い?大変だね~」

「あはは……大丈夫です……よ」


どう見ても10歳以下に見える少女が、自分の二倍近い大男と冒険者をやっている姿に、ついつい街中の人が注目してしまう。

当然、リリーと共に活動する黒騎士にも


「よう黒い兄さん、今日も無愛想だな」

「……」

「おう黒いあんちゃん、相変わらず力持ちだな~」

「……」


無口な黒騎士もリリーと居れば注目の的になってしまう訳で……返事を返さない……いや返せない黒騎士の為に


「あぁぁ……ごめんなさい、クロノ兄はいつもこうで」


っと、あちこちに頭を下げまくるという忙しい状況に。もちろん最初から『こんなにフレンドリー』だった訳では無かった。



ーーー

最初の一日目は、通行人から店員まで、皆が二人を避ける様な態度だった。


二日目、通行人は避けるが、店員は奇妙な目で見るだけだった。


三日目になると、避ける通行人の数がぐっと減り、黒騎士の歩みを少し落とさなければならなくなった。


四日目、周囲の一般人は黒騎士とリリーに何の危険も無いと判断し、逆に興味を持って話し掛ける様になる。


そして問題の五日目……


「おいおいテメェ、どこ見て歩いてやがんだ!!」


黒騎士の足元に蹲る人、その後ろには二人の人物が大声を上げていた。

彼らは下町のゴロツキ、余りにも素行が悪過ぎて冒険者ギルドに登録すら出来ずにいた。


そんな彼らの稼ぎ方は『当たり屋』、護衛すら付けられないような貧乏貴族や小金持ちの商人に目を付け、脅しては金をせびる。

それだけでは飽きたらず、町中でクエストを実行する初級の冒険者からも金を取ろうと待ち受ける。


そんな彼らには、リリーと黒騎士の様な目立つ冒険者は格好の獲物に見えた……のかもしれない。


「おいこら、返事しろテメェ、人にぶつかっといて挨拶も無しか?!」


『ぶつかるも何も、そっちがぶつかりに行ったんじゃないか』と思う周囲の状況も知らず、黒騎士に詰め寄るゴロツキ二人。


黒騎士は二人を一瞥するも微動だにせず立っている……が、何の行動も起こさない、そこに


「す、すみません……お怪我はありません……か?」


肩に乗るリリーが声を掛ける。それは彼らの望む答え、彼らにすれば、この台詞の後はどれだけ獲物から金を取れるか、それしか無かった……今までであれば


「おいガキ、テメェは人に怪我させといて『すみません』で済むとでも思ってんのか?」

「っと言われても……困ります」


本気で困り顔のリリー。



ちなみに、冒険者ギルドでやった回復スキルは


「街中での使用は禁止だ!!これは命令だ小娘!!分かったな?」


っと、ギルドマスターにキツく言われており、もし破ると『冒険者資格の剥奪』と言う処罰が待っている。その為リリーは、どうにかして穏便に済ませたかったのだ。



「ぶつかったんだから誠意を見せろってんだよガキ!!」

「せ……誠意ですか?」


えっと……誠意ある謝罪方法って言ったら何があるんでしたっけ?

貴族のカタリーナからの教えを思い出しながら悩んでいると


「いいから有り金全部出せっつってんだよ!!」


シビレを切らしたゴロツキがナイフを取り出す……が


『ゴキッ』


っと鈍い音が周囲に響き渡る。

ゴロツキの一人、ナイフを出した方が手元を見ると……


『石畳にめり込んだナイフと、自分の手首が下に向かって力なく垂れ下がる光景』だった。


「う……うわぁぁぁー俺……俺の手がぁぁぁぁー?!」


大騒ぎをしながら手首を押さえるゴロツキ、その隣に居たゴロツキ……恐らく、彼らの中でのリーダーは


「て……テメェ、何しやがった?!」


っと、声を荒げながらナイフを抜き出す……が


『ゴキッ』


再度、あの音がした。そして……


「ひぃぃぃぃー?!」


リーダー各の男の手首も、力無く下を向いていた……当然ナイフは石畳にめり込んだ状態で。


「あ……アニキぃー?!」


蹲っていたハズの男が起き上がり、手首を押さえる二人と黒騎士を交互に見る。黒騎士は一歩も動いていない、なのに……

蹲っていた男の目は恐怖の色に染まっていく。


「あ……あの?」

「ひぃぃー?!」


リリーが声を掛けると、男は一目散に逃げ出した。残された二人も、


「ちくしょう!!」

「お……覚えてやがれ!!」


っと、捨て台詞を、吐きながら逃げていく。


周囲の人々は、何が起こったのかすら分からずに居た……が、この辺では悪名高いゴロツキがやられた事だけは分かり


「おぉ~アンタらすげぇな」

「何をやったんだい?」

「アイツら、力だけはあったんだよな?それをこんなにアッサリ」


っと、黒騎士の回りに集まりだし口々に讃え出した。

突然の事に目を白黒させるリリーだったが……


「えっと……その……お騒がせして……申し訳……ありません」


黒騎士の肩から精一杯の声で、謝罪の言葉を出す。


「あ~いいんだよ、気にしなくて」

「アイツらのせいで、この辺の治安を悪くなる一方だったからな」

「ホント、警備の連中は何してんだよ?」


ゴロツキ達はこの街の生まれの為、地形を良く知っていた、その為、警備兵になかなか捕まらず、街の住人は困り果てていた。



ーーー

そして6日目の今日……


「昨日、俺の部下に嘗めた真似したってのはテメェか?」


リリー達の近くに居た人達が一斉に道の端へと移動する。

そこに居たのは昨日のチンピラ……二人程手首に包帯を巻いていた。


「親分、アイツらです、あの黒いヤツがそうです!!」


包帯の男、昨日のリーダー各の男が、無事な方の手でリリー達を指差す。

親分と呼ばれた男は、下街のチンピラの元締めだった。とはいえ、複数あるグループの中の1つで、規模としては上から三番目と、そこそこの大きさだった。

親分と呼ばれたその男は、シミターと呼ばれる南方系の武器を腰に吊し、髭だらけの顔でリリーと黒騎士を睨み付けていた。


「えっと……?」


リリー達の目の前には三十人以上のゴロツキが集まって居た。

こっちを指差してる人は覚えがあったが……その後ろの人達は?


リリーが考え事をしてる間に、ゴロツキ達は黒騎士を包囲するように動いていた。もちろん、本人達は『逃がさない為』だったのだろうが……この場合は


「俺達『下街のカサンドラ一家』を敵に回して無事でいられるとでも思ったのか?」

「下街のカサンドラ?」

「……」


リリーが右頬に人指しを当て、首を『こてん』と音が出るような仕草で傾ける。


一応、彼ら『下街のカサンドラ一家』は、下街の……さらに下、スラム街と呼ばれる地域では『有名なチーム』ではあった……が、この街に来て6日程度のリリーが知るハズも無い。


そんなリリーの仕草に青筋を立てて怒り心頭の男、親分と呼ばれた髭の男は左手を上に上げただ一言


「男は殺せ、ガキの方は捕まえて奴隷商にでも売っぱらえ!!」


と指示し、上げた手を振り下ろす、その瞬間……


彼の前に居た数人の部下の手首が……武器を持つ手が『折れていた』



ーーー

『ゴキッ』と音が聞こえる。

すでに何度目だろう。リリーの顔に当たる風が強く目が開けられず、横にあるハズの黒騎士の兜をギュッと握る。

また『ゴキッ』と音がした。その音が10を越えた辺りから、リリーは数える事を止めた。


『何だか分からない……けど、絶対また黒騎士さんがぁぁぁぁぁー!!』


心の中の叫びは外に漏れず、ただ黒騎士の動きが止まる瞬間をリリーは待つしかなかった。



ーーー

黒い暴風、そうとでも言うしか無い状況が目の前にあった。

30人を越える部下が一人、また一人と吹き飛ばされる。

吹き飛ばされた部下は手首を押さえ、呻き声を上げるしかなかない。立ち上がって再度武器を持とうとした者は、無事だった方の手首も折られた。


「なっ……なっ……なんっ……?!」


咄嗟に手が動いたのは長年の勘のお陰だったのかもしれない……が、その男……チンピラの親分は、自分の手首から聞こえた『ゴキッ』と言う音に動きを止めていた。


「て……テメェ?!」


右の手首が下に向かって『だらり』と垂れ下がっている。持っていたシミターは石畳に突き刺さり、辛うじて指に柄が掛かっている状態だった。

そんな自分の右手首の上に、黒い『手刀』があった。

部下と自分の手首を折ったモノは武器ではなく『ただの手刀』だった。


「テメェはいったい……」


『何者』と言う言葉は、後方から乱入して来た兵士の足音に消されていった。



ーーー

騒動が起こる少し前に一人の男が兵士詰所を訪れていた。

背中に大剣を背負い、顔には人の良さそうな笑みを浮かべて。


「こ……これはベネティク……」

「ベンノだよ衛兵隊長」


背筋を伸ばし直立不動の体制を取る『衛兵隊長』と呼ばれた男を『冒険者ベンノ』がジッと見る。


「これは失礼を……ベンノ様」


一介の冒険者に様付けはダメだろ?っと笑うベンノだったが


「例のゴロツキ供が派手に動き出している、捕まえるチャンスだぞ?」

「なんですと?」


ベンノの言う『例のゴロツキ』とは、リリー達と対峙している『カサンドラ一家』の事だった。下級とは言え、度々貴族を襲う彼らを衛兵達は苦々しい気分で追いかけていた。

テリトリーがスラム街と言う事で、どうしても捕まえ辛く、大量の人員を動員する事も出来ずにいた。

警備をする側にも『色々なしがらみ』がある為であったが……


「今すぐ兵を集めろ、そうすれば最低でも頭ぐらいは捕まえられるさ」

「畏まりました、急ぎ行動します」


隊長と呼ばれた男はベンノに一礼をし、部屋の外へと早足で去って行く。

室内に、一人残されたベンノは


「ははは、あの二人は面白いな、良いも悪いも色んな者達が引かれて来る……」


窓の外から先程の隊長の号令が聞こえる、恐らく、この詰所に待機していた兵士を、召集しているのだろう。


「さてさて、次はどんなモノを見せてくれるのかな……リリーに黒い兄ちゃん?」


ベンノの言葉は、詰所の窓から外へと、誰に聞かれる事も無く消えていった。

次は水曜までには仕上げます。

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