指名業務中です
少しだけ早めに完成しました。
皆さんこんにちは、リリーです。この街に来てもう6日立ちました。冒険者として毎日依頼業務をこなしてます。まぁ、初級冒険者なのでお使いばかりですが……
「こんにちは……ベッティーナ様宛ての荷物を届けに……来ました」
目の前にある大きなお屋敷、ここは、この街の中心から少し北側、デボラさん曰く「ちょっとお金持ち」の方々が住む所だそうです。商人ギルドの偉い人とか下級貴族と呼ばれる人とか……だそうです。
ちなみにココ、ベッティーナ様は、この辺では有名な貴族様だそうです。顔役って言うんですか?上級貴族様も一目置く程だそうで……
それにウワサでは「前領主様の三男坊」様もこの辺に住んでる……らしいです。レオナさんの仲間で魔法使いのエッバさんて方が
「絶対見つけて玉の輿よ!!」
っと叫ばれてましたから。レオナさんも呆れ顔……いえ、夢は大きい方が良いって言ってました……誰かが。
屋敷入り口で警備の方に取り次ぎをお願いして待機です。初日に来た時は、黒騎士さんを見たとたん、剣を構えられましたが、流石に今では……
「……」
何故でしょう、左側に立ってる警備の人に睨まれてます。
やっぱり、黒騎士さんの肩に乗っているのがよろしく無いのでしょうか?
でも、私の足だと黒騎士さんの歩幅に合わないので、時間がかかってしまうんですよね……あれ?目的地に到着したんだから降りても問題無いような?ってか、むしろ降りないと失礼かも?!
「あらあら、リリーちゃんいらっしゃい、お兄さんもようこそ」
黒騎士さんから降りようってタイミングで、ベッティーナ様が来ちゃいました。
「あ……あの……デボラさんからの荷物です……確認お願いします」
ここに来るのも六回目、いつものやり取りです。
「まぁ~御苦労様、じゃあ何時ものようにね」
ベッティーナ様の後ろに控えてたメイドさんに荷物を引き渡してお仕事終了……のハズなんてすが
「そうそう、調度お茶会してたのよ、リリーちゃんもどうかしら?」
「あの……まだ配達途中……ですし」
「そんな事言わずに、ちょっとぐらい大丈夫でしょ?」
「え……えっと……その……」
「さぁ、こちらへいらっしゃい、みんな居るのよ」
笑顔を絶やしちゃいけないってデボラさんから言われてたので頑張ってますが……いつも頬がピクピクしちゃいます。
そう、ここへと配達に来ると『必ず』お茶会に参加させられるんです、何故?配達時間が悪いのかな~っと思って昼頃に行ったり、早朝に行ったりとしたんですが……何故か毎回捕まります。
「えっと……黒騎……クロノ兄?」
助けを求めて黒騎士さんを見たら、無言で地面へと下ろされました……これってどういう事?
「今日はね、ハンナ様が南方のお菓子を持ってきて下さったのよ、珍しい味なんですって」
そう言うと私の手を取りグイグイと引っ張って行く、あの……人の話をですね?
庭の方へと進むベッティーナとリリー、その後ろを静かに着いていく黒騎士。
ーーー
「リリーちゃん、いらっしゃい」
「こ……こんにちは……じゃなくて御機嫌好うカタリーナ様、エマ様、フリーデ様、ハンナ様」
「はい、良くできましたねリリーさん」
今誉めてくれたのがカタリーナ様、元は良い所の貴族の御令嬢だたったらしいけど、下級貴族だった今の旦那様に惚れて嫁いで来たらしいです。貴族としては異例らしく、実家からは勘当されてるそうで……
「でも教えましたわよね、挨拶する時は……」
「あっ……カーテシー……」
スカートの裾を上げる事忘れてました。
「次は忘れないように、いいですね?」
「は……はい」
えっと……出来るだけ次がない様にしたいのですが
「ちょっとカタリーナ様、そんなにリリーを苛めないで下さいまし」
そう言ってくれたのがエマ様、商人ギルドのギルド長の奥様。ギルド長よりも『やり手』らしいです……優しい顔してるんですけど
「苛めてなどいませんわ、淑女としての最低限のマナーを教えてるだけですわよ?」
いえあの……私は一介の一般人ですから、お気遣い無用で……
「それに、これくらい出来ないと社交界デビューも出来ませんわ」
そんな大層なモノに参加する予定はありません!!
「そうそう、社交界と言えば領主様主催での会までもう少しですわね?」
ニコニコしながらそう言ったのはフリーデ様、この街を守る騎士団の団長の奥様だそうで、当然領主様とも顔見知り……って言うか、領主様の部下じゃないですか?!
「じゃあ、リリーちゃんのドレスも急いで作らないと」
何か不穏な事を言われたのがハンナ様、この中では普通の仕立屋さん……なんですが、貴族御用達らしく、その知り合いの幅広さは……ってか
「えっと……ドレスって……何の事でしょうか?」
「あら、もちろん貴女の社交界デビューの為のドレスよ」
すみません、意味が分からないのですが……
「あの……私は一介の冒険者……です……社交界はその……別世界と言いますか……」
その場の全員が目をパチパチしながらこっちを見てますが……
「あら、誰も話してなかったのかしら?」
「おかしいわね、説明したと思ったのだけど」
「そうよね~私も聞いた覚えがあるわ」
「デボラちゃんから何も聞いてないの?」
エマ様、カタリーナ様、フリーデ様、ハンナ様の順で一気に摘めてこられましたが……はい?デボラさん?何故デボラさん?
「デボラちゃんに私達が依頼したのよ、今度の社交界に変わった事……えっと、サプライズって言うのかしら?……をしたいのって、そしたら『面白い子を送るわ』って言ってくれたのよ、そしたらまあ~鍛えが……可愛らしい女の子が来ましたし」
今『鍛えがい』とか言いそうになりませんでしたか?ってか、ベッティーナ様嬉しそう……っじゃなくてですね
「そんな話……聞いてません……が?」
いえ、そもそもサプライズって一般人を送り込むようなモノじゃ無いのでは?
「ん~リリーちゃん、デボラちゃんからの依頼書は持ってますの?」
ハンナ様に依頼書渡しましたが……
「あら?おかしいわ、こちらで出した依頼書とは違いますわ」
「えっ?」
いやいや、6日間も来てたのに今更違うって言われても……
「デボラさんへのパン配達依頼だけですわね?」
カタリーナ様、私的にはそれで合ってますから……、そう、今回の依頼は『指名業務』と言うらしいです。
何でも、この辺りの人達には、デボラさんの『焼きたてパン』が結構有名なんだそうで。
パンに使用する小麦粉の等級は三段階あるんだそうです。
王族や上位貴族の方々が食べるパンは一段階の小麦粉製、下町や保存食に使われているのが三段階の小麦粉製、デボラさんの所は二段階の小麦粉を使用しているのに、一段階以上の味を出すパンなんだそうです。
その為、ちょっとお金のある人達は、デボラさんに『パンの配達依頼』をすると、そうカタリーナ様が教えてくれましたから。
で、私のような駆け出しの冒険者に、デボラさんが配達仕事を廻してくれるんです。
指名業務って、通常より沢山のお金が貰えるんですね~。
ちなみに私は、黒騎士さんと二人で運んで一日銀貨二枚貰えます。普通の運搬業務の四倍です、凄いです、ホクホクです。
「だったらこうしましょう、デボラへの依頼を一旦取り止めて、リリーへの指名業務に変更すれば良いのですわ」
「なるほど、そうすれば今作ってるドレスも無駄にはなりませんわね」
あぁぁ……エマ様、何て事言うんですか?後、ハンナ様も一緒にならないで下さい。
「でしたら、私の名で指名し直しましょう」
ちょっと待って下さいフリーデ様、フリーデ様の執事さんも、早速書類を用意するのは止めて下さい。
「さぁ、楽しくなってきましたわね?」
ベッティーナ様ニコニコですね、本当に楽しみなんですね?でも、私が引き受けるとは限らないんですけど?
「あら、リリーちゃん知らないの?指名業務を断ると、最大一年はギルドでの仕事が出来ないのよ?」
「えぇぇー?!」
「何ですか、大声を出して、淑女としては失格ですよリリーさん?」
ままま……待って下さいカタリーナ様、ベッティーナ様の言った事の衝撃がですね……私的には死活問題です。
お願いですから止めて下さい。
次は月曜までには仕上げますので ノシ