表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/121

初めての……でした

ちょっと遅れました、すみません。

窓の外から差し込む光が弱まり、街には夜の暗闇が落ちてくる。


宿屋の周辺は飲み屋も兼ねている為、店先のランタンの灯りが街路を照らす。その灯りに誘われるように人々が店の中へと消えて行く。


リリー達の居る宿屋『白鳥の安らぎ亭』も、一応飲食出来る様になっている為、客がチラホラと入って来る、もちろん普段であれば……



ーーー

暗い部屋の中、布の擦れる音が聞こえる。

黒騎士が顔を上げると、先ほどまで背中を向けていたリリーがコッチを向いて寝ていた。肩ヒモがズレ、白い柔肌が暗い部屋の中で際立っている。


「こんこんこん」


その時、小さなノック音が響く、暫く扉とリリーを交互に見ていた黒騎士だったが、再度


「こんこんこん」


とノックが響いた事で足音を立てずに扉へと近づく。扉を少しだけ開けると、酒場側からの灯りが室内へと入り込む。


「おっ、黒い兄ちゃん起きてたのか、丁度良かった、あのお嬢ちゃんと一緒に来てくれないかな?」


そこに居たのは、身長170の細身の女性冒険者だった。洗濯物騒動の時、デボラの後ろにいた人物だった。

そこまで確認した後、どうやって『返答』したら良いのか黒騎士は考えていたのだが……


「ん~黒騎士さん、何かあったの?」


肩ヒモのズレたキャミソール姿のリリーが、寝惚け眼で近づいて来たのだった。

女性冒険者は


「あらごめん、寝てたの?」


っと、少し慌てていたのだが


「ん~と……確か……昼間の?」


目を擦りながら女性冒険者を見るリリーだったが、どうやら服騒動の件は覚えていたようだった。


「あぁ、そうだよ、私はレオナ、今貴方達の歓迎会をやってるんだ、是非参加して欲しいんだ」

「歓迎会?」


『こてん』と首を傾げるリリー、どうやら酒場の方では、リリー達を肴に宴会の様な状況になっているようだった。


「あぁ、今日は珍しくみんな揃ってるんだ、どうかな?」

「えっと……その……」


リリーとしては楽しそうな雰囲気に心引かれている様だったのだが……黒騎士の方を見上げると


『ぐいっ』


何も言わず、リリーの方を見る事無く、その背中を廊下側へと押しやった。


「黒騎士さん?」

「……」


リリーを扉の外へと押しやると小さく頷き、扉を閉める。


「あっ、黒い兄ちゃんもどう?……って、もう聞いちゃいないか」


ポリポリと頭をかくレオナ、


「あの……クロノ兄はその……こういうの苦手で……ごめんなさい」

「え?あぁ、いいのいいの」


ひらひらと手を振るとリリーを押して


「さぁ、今夜はデボラの姉さんが腕によりをかけた料理らしいから、早く行かないとね」


そう言ってリリーの背中を押し、食堂へと進んで行く。



ーーー

リリーの家は別に貧乏だった訳では無い。むしろ、普通の家庭よりは裕福だった……ただ、食事に関しては『壊滅的』であった。

食事を作っていたのは祖父であった……が、彼は


「メシなんぞ腹に入れば良い」


との考えから、毎日朝晩は保存の効く硬いパンと、刻んだ野菜と塩を入れた『だけ』のスープ、たま~に手に入る肉を豪快に焼く『だけ』と……正直、リリーの成長不足の原因ではないかと思われる食生活であった。


そんな食料事情のリリーに大きな街の料理を見せれば……


「うわぁぁぁ~」


口を大きく開け、ただただ呆けた顔をしている、目の前のテーブルに置かれた色とりどりの料理の山。


ボールの中に盛られた新鮮な野菜、香辛料たっぷり使った肉料理、皮もパリパリになる程しっかり焼かれた川魚、そして焼き立ての白いパン、どれもこれもリリーには初めて見る代物だった。


「さぁさぁ、そんな顔してないで、さっさと食べな」


デボラがどんどん料理を運んで来る、それを物凄い勢いで消化していく冒険者達。


今夜集まったのは、朝リリー達と会ったレオナとその仲間達三人、リリー達の騒動に立ち会えなかった二人が属するパーティー三人、そして、モンクのケーテと女将のデボラ、総勢十一名の女性達であった。


彼女達はみな冒険者らしく、豪快に食事をしていく、いや……二名ほどドタバタと忙しそうにテーブルの間を行ったり来たりしていた。

料理を作るデボラと、何故か手伝いをさせられているケーテだった。


「ほら、これも食べなさいよ」

「あ、はい……ありがとう……ございます」


ケーテがリリーの前に、小皿の盛り付けられたポテトサラダを置いていく。

それをスプーンですくい口へと運ぶと


「~~~?!」


今まで味わった事の無い料理を食べながら、目尻に涙を溜めてかぶりつく。


「泣くほど美味しいの?」

「は……はい、こんな美味しい物……生まれて初めて食べました」


その言葉を聞いた面々は、『ど……どんな生活だったのよ?!』と

やはりギルドの時と同じく、哀れな娘を見る目になっていた。


「まぁ、今日の所はどんどん食べな、そして明日から冒険者として頑張りなよ」

「は……はい」


デボラの優しい言葉とは裏腹に、目の前にどんどん積まれていく料理。


「あの……こんなに沢山は……」

「いいからいいから、どんどん食べな、大きくなれないよ?」


手加減無く置かれていく料理、それを見ていた他の冒険者達も


「はいこれ、美味しいよ?」

「ほら、口開けて?」

「甘い物もあるニャ~」


寄って集ってリリーの口元へと食べ物を運ぶ運ぶ。


「あ……あの……自分で」

「ほらほら、こっちも美味しいのよ?」


誰も聞いてない……っと言うより


「エールのお代わり頂戴」

「もぉ~レオナ、あなた飲み過ぎでしょ?」

「ケーテちゃ~ん、こっちにもお酒~」


どうやら酔っぱらってる様だった。

リリーが見渡すと、人族の面々は盛大に酔い、ちょっと離れた所に居たエルフと獣人族の二人はほろ酔いと言う感じだった。


「あ……あの~……皆さん酔って……ます?」


リリーはお酒を飲んだ事が無かった為、酔っぱらいと言うモノを理解していなかった。結果


「ん~何?お酒に興味あるの?」

「子供はまだ飲んじゃダメよ~」


レオナとその仲間と思われる女性が、ケラケラと笑いながら止めるが


「果実酒なら良いにゃ~」


獣人族の女の子がニヤニヤしながらコップを持って来ると、リリーの前に置く。


「こ……これは?」

「果実酒にゃ~甘くて美味しいにゃ~」


猫の獣人族の女の子はそう言うと、リリーへと「飲め飲め」と勧めて来た。

流石にそれはマズイと感じたエルフが


「お……おい、それは待て!!」


っと注意したのだが……


『ごくっごくっごくっ』


「おぉ~いい飲みっぷりにゃ~」


好奇心から一息で果実酒を飲み、そして……


「きゅぅぅ~」

「危ない?!」


顔を真っ赤にしながら後ろへと倒れていった。


その場の全員が駆け寄ったのだが、そこで出た声は


「何でこの娘、下着着てないの?」


キャミソール『しか』着てなかったリリーは、色々女の子としてはどうかと言う体制で気絶する事となった。

アルコール中毒にはご注意を

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ