色々いただきました
ちょっとだけ、早目仕上がりなるよう頑張りました。
外は夕方、日が徐々に落ちて来て辺りが暗くなり始める。
そんな中、部屋には少女の小さな寝息が聞こえていた。少女はキャミソールを一枚だけ着ていた。この時間でも寒く無いとは言え流石に薄着過ぎなのだが……この一枚のキャミソールでさえも、一悶着の末得られた物だった。
ーーー
時は戻り、もうすぐ昼になるかと言う時間、中庭では3人の人……1人は人と呼ぶべきか悩む所だが……が正座させられていた。
右から黒騎士クロノ、真っ裸で駆け付けたリリー、そして騒ぎの大元の神官少女……では無く修道女、モンクのケーテの順で座らされていた。
3人の前には仁王立ちのデボラが立っていた。その後ろに「何事?」と女性冒険者が4人、興味津々と言った感じで見ていた。
彼女達は、今朝冒険から戻って来た所らしく、これから一休みするハズがこの騒動らしい。
彼女達とは別に2人居たのだが……これからギルドに行かなければならない為、嫌々ながら去って行った。本人達所謂「こんな面白そうな事を拝めないなんて」と歯軋りしていたのだが……
「……で、アタシに何か言う事は無いのかい?」
『ぎろり』と音が出そうな目で3人を見るデボラ、黒騎士は微動だにせず、リリーは真っ裸て頭を下げながら「ごめんなさい」を連呼し、肝心のケーテは……
「私は悪くは無いですわよ、絶対に!!」
っと、胸を張って主張していた。
それを見て「はぁ~」っと、溜め息を着くデボラ。
「アンタ……リリーって言ったかい?……が何で裸なのか説明……は別にいいわ、どうせ着替えも何も無かったって所でしょうし」
「な……何で分かった……んですか、」
何故分からないと思うのかと……その言葉をグッと飲み込み、黒騎士に目を向けるも、全く反応しそうにない態度に再度溜め息を漏らす。
そして、ケーテに目を向け……
「な……何ですの?」
「ケーテ、騒ぎを起こすのって、これで何回目だい?」
「今回のは私のせいではありませんわ、そちらの黒い方の行動が怪しかったからですわ」
そう主張すると「キッ」と黒騎士を睨むケーテ。
確かに、傍目に見れば、この黒い騎士は怪しい部類に見えるだろう……しかし
「アタシは前に言ったよね、何かおかしな事があったら
先ずアタシに連絡するって」
「それはその……」
ケーテがこの宿に来て一週間が経っていたのだが……その間、すでに二回もの揉め事を起こしていた。
1つ目、この宿に来た初日、先に泊まっていた先客と口論になり、相手を投げ飛ばしている。その時は、デボラが締め上げて何とかなったのだが……
2つ目、数日後の早朝、夜を徹してクエを完了したらしく、ぐったりしながら帰って来た所、隣の部屋の冒険者の生活音が煩いと口論になり、やはりデボラに締め上げられている。
その二回の問題行動の後、デボラから
「いいかい、今後何かあったら、まずアタシの所に来る事、いいね?絶対だからね?」
っと、約束していたのだが……
「や……約束は忘れてませんわ、ただちょっとタイミングが悪かっただけと言うか……ですわ」
「ケーテ、アンタねぇ……」
しどろもどろに言い訳をするケーテを眉間に皺を寄せたデボラが睨む。その圧力に押される様に後ろへと身体が反り返ってしまう……が
「あの……うちの黒騎士……クロノ兄がスミマセンでした……」
リリーが頭を下げて謝罪の言葉をケーテに掛ける。
問題の場面をリリーは見ている訳でも無いのだが……
『黒騎士さんだったら、絶対何かやらかしてるハズ』
っと、黒騎士本人が喋れるとしたら『濡れ衣だー』と言いたい様な事を思ってたりする。それだけ色々やらかして来た訳で……
そんなリリーを見て『はぁ~』っと大きな溜め息をついたデボラは
「まったく、ちょっと待ってな」
と言い残して室内へと戻って行く。
その場に残された面々は、何とも不思議な光景に、ある者は『ニヤニヤ』と、又ある者は『やれやれ』と、それぞれの顔をしながら成り行きを見守る。
肝心のリリーとケーテはと言うと……
「ちょっと、いい加減顔上げなさいよ!!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「だから、顔上げてって言ってるでしょ?!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
「んもぉー!!」
居心地の悪そうな顔をするケーテと土下座状態のリリー。
そこに戻ってきたデボラが
「ほら、取り合えずはコレでも着ときな」
手渡されたのはシャツ、大きさからして恐らくデボラの若い頃の代物と思われるグレーのシャツだった……のだが
「いや姉さん……これはちょっと」
後ろで見守ってい女性冒険者が、その大きなシャツを着たリリーを見ながら、笑いを堪えつつ指摘する。
そう、若い頃の代物とは言え、身長150程度しか無いリリーに対して、180有るデボラのシャツ……肩幅も大き過ぎる代物は、似合わないを通り越して『滑稽』な状態になっていた……しかも若い頃のデボラは『胸』が大きかった為
「む……胸元空き過ぎでしょ?」
『ぷっ』と言う笑い声が聞こえたような気がするが……
まぁ、見方によっては『親の服を無理して着る娘』的な感じに見える……かもしれない?
「それよりもこっちはどう?」
デボラの後ろに居た別の女性冒険者が、自分のお古と思われる服を持ってきた、そこからの中庭はカオスであった。
『だったら私も』と、それぞれが自分達の荷物を漁り、着れなくなった服や下着を持ち寄り、リリーの着せ替え大会へと発展してしまったのだから。
無理矢理立たされ、有無を言わさず着せ替えさせられるリリーは、目を白黒させながら「え?え?」っと困惑するだけだった。
周りの面々は、やれ「この服ならここを調整しないと」やら「この服ならこのスカートを」と持ち寄っ衣類の『コーディネート』まで始める始末。
されるがままのリリーに対して、黒騎士は目線を明後日の方向へと向けていた。
「ちょっといい?」
女性冒険者達に囲まれてたリリーの元に、ピンク色の衣類を持ったケーテが来ていた。
「これ着てみて」
手渡されたのは薄手のキャミソールであった。肩をヒモで縛るタイプで調整し易い代物。
されるがままで呆然としていたリリーを引き寄せ、無理矢理着せる、すると
「あら、似合うじゃないの」
最初に着せ替えを始めた冒険者が笑顔でそう言う。確かに胸も腰もピッタリだった。丈の長さも、肩ヒモで調整する事で、どうにでも出来た。
それを見ていたデボラも『うんうん』と頷き
「ケーテ、やるじゃないか」
と声をかけ頭を撫でる。撫でられたケーテの方はというと
「なっ……ちょっと余ってた下着があっただけですわよ!!」
顔を真っ赤にしながら「余り物」の部分を強調していたりする。
結局、リリーが呆然としてる間に、このキャミソールを貰う事になってしまったり、他の冒険者の持ち寄った衣類も、デボラが寸歩直しをして渡す事になったりと、何だか分からない間の大事(リリー的には)になっていた。
「はっ」と我に帰ったリリーが
「こんな高そうな物……受け取れません」
っと、涙目で訴えたのだが、それぞれの意見は
「私の着れない服だから」
「使って無いから良いよ」
「アタイの荷物減らす手伝いだと思って」
「もういらないモノだし」
と、散々。ケーテに至っては
「貴女が着た物を帰されても困りますわ」
などと、自分のお古を押し付けたとは思えない台詞を吐く始末であった。
結局、デボラの
「まぁ、みんながこう言ってるんだから貰っときな、その内、飯でも奢って恩を返してやりな」
との一言で、一応収まる事となった。
後日、この場に参加出来なかった二人の冒険者が
「衣類?余ってる物なら沢山あるわ」
と、さらに持って来る事になるのだが、それはまた別のお話。
次は木曜までには書きます。