スキルがバレました
少々遅れました。
ギルドマスターの膝の上で、ぐったりしてる少女……
「まぁ、からかうのはその辺にしといてやれよ」
そう言ったのは、ひじ掛けに頬杖付いたベンノだった。
「あぁ?俺の遊び心に文句つけてんじゃねぇ、ってかベンノ、何でお前がそこに居るんだよ?」
ギルドマスターのゲイルが鋭い眼光をベンノに向ける。
その眼光を軽く往なして
「そりゃ~関係者は着いてこいって言いながら、そのお嬢ちゃんを小脇に抱えて走り出したのはお前だろ?ゲイル」
ヘラヘラとした顔を向け、身振り手振りで説明するベンノだったが……
「取り合えず、そこの黒い兄ちゃんの牽制に、お嬢ちゃんを使うのは止めてやれって」
顔は笑っているが目は笑っていないベンノと、ムスッとした顔になったゲイルが睨み合いをする室内に……
「お……お願い……ですから……離して……下さ……」
色々触られ過ぎて、息も絶え絶えなリリーが、震える手を上げる。
ーーー
「結局……私を離しては……くれないの……ですね……」
「あぁ?お前を手放したら、あの黒いのが突っ込んで来るだろうが、そんな事も分からんのか?!この馬鹿小娘!!」
さっさきから馬鹿馬鹿と連呼されてますが……本当にこの人、ギルドマスターなんですかね?
「……おい小娘、何か失礼な事考えてただろ?」
「そ……そそ……そんな事無いですよ?」
体縮ませてガードです、はい。
「ふん、じゃあ続きだ、小娘と黒いの、お前らが冒険者登録したいって言ってたヤツだな?で、あの妙な魔法の掛かった紹介状を出してて来た……っと」
「魔法?」
思わず素で返事してしまいました。
ーーー
『この小娘、あの紹介状に掛かっていた魔法に気付いてないのか?』
足を組み顎に手を当て考え込むゲイル、その足と手……肘の辺り……の間に挟まれ身動き取れなくなるリリー。
「あ……あの……ちょっと?」
「ふん……まぁ、その話はいいか」
「?」
悪そうな笑みを浮かべながら、ジーンに合図する。すると、ジーンは一礼して退出する。
「あ……あの、ジーン……さん?」
「仕事の指示を出したんだよ」
ゲイルの言葉に「なるほど」と思いながらも、出て行くまで助けてくれなかったな~っと思うリリーだった。
「お前ら……黒いのと小娘がこのギルドに来るまでの事は分かった……が」
語尾の最後に力が入り、アベル達と髭面の戦士が体を『ビクッ』とさせる。
何事かと恐る恐る顔を上げるリリーだったが……
「さっきの妙な光は何だ?魔法……じゃねぇな?」
リリーに顔を近づけ、鋭い眼孔で睨み付けてくるゲイル、その瞬間
『ごっ』
っと、床を蹴る音が聞こえ、ゲイルの後方に黒いモノが立っていた。黒騎士が高速移動した……ように見えたのだが
「くだらねぇ」
ゲイルの頭部に向けられた拳の先には、首筋を掴まれたリリーが盾の様にされていた。
「くぁっ?!」
首筋を軽く掴まれて息が出来ない、声すら出ないリリーは一瞬の出来事に目を白黒させる、アベル達も声を出せず固まっていたのだが……
「だから~そこまでにしとけって、両方とも……な?」
リリーの体は、横からスッと伸びて来た腕に絡み取られるように外れ、今度はベンノの膝の上に座らされていた。
「え?え?」
不思議そうな顔で周りを見るリリーだったが、我に変えると
「く……黒騎士さん、大人しくして下さい、じゃないと……」
涙目ながらも黒騎士に指示を出す、すると、構えを解きベンノの背後に立ち位置を替える。
「ふん、忠実な番犬だな、その黒いのは?」
「ば……番犬なんかじゃありません、大事な商……親戚です!!」
ゲイルを睨むリリー、その肩にそっと手を添えて
「お嬢ちゃん落ち着けって、な?」
ベンノに軽く頭を撫でられ、少々落ち着いたリリー
「さっきのアレは……魔法では無く……回復スキルです」
「ほう」
その言葉にスッと目を細めるゲイル。
明らかに先程とは違う目線、スキルの件に関しては、祖父より『秘密にしろ』とは言われていなかった……だから使ったのだが……
「一般的なスキルじゃねぇな?お前の一族固有か?」
「……はい」
『この人、良く知ってる?!』あれだけ派手に使った以上、隠してもしょうがないですし……っと諦めたリリー
「祖父から聞いた話……なんですが……私達の一族……女性のみに発生する……固有スキルだ……そうです」
「ふ~ん、固有スキルねぇ~」
「……」
『何々でしょう、その言い方……何か知ってるんでしょうか?』
「自分の知らない何かを知ってるのか?って顔だな小娘」
思わず顔を手で触るリリー、さらに意地悪そうな顔で見るゲイル。
「ふん、まぁ、俺が知ってるのは、かなり昔にあった実験の話だ」
その場にいた全員が不思議そうな顔で静かに話を聞く。
「今から数百年前、世界中で『スキル』を持つ者達を集め、互いに掛け合わせて更なるスキルの開発をしようとした連中が居たのさ。住む地域も言葉の壁も関係無く……な。酷いのになると、実の親子や兄妹姉弟、祖父母と孫ってのもあったって言うな。」
その内容に、何とも言えない顔をリリーへと向ける面々。
肝心のリリーは、
「そ……そんな話……聞いた事も……無い……です」
っと、顔を真っ赤にして否定する。
「あ~落ち着け馬鹿小娘『数百年前』って言ったろ?詳しい記録が残って無いからな、口伝のみだから正確な時期は分からんが、少なくとも、お前の世代の話じゃねぇよ」
そう言うと、まるで興味を失ったかのような顔つきになるゲイル。
「他にお前らの一族の持つ固有スキルはあるのか?」
そう言うと後ろに控えていた黒騎士へと目を向ける。
「……黒騎士さんは、相手の意識外を駆け抜ける事が出来……祖父は、魔力制御が……簡単に出来るスキル……だったハズです」
「ふん、羨ましい一族だな」
通常のスキル『足が速い』『力が強い』『体力がある』と言った、普通の人より少々勝った能力は、どんな場所でも何人か居るのだが、固有スキルとなれば、数千人あるいは数万人に一人程度でしか発生しないと言われている。
特に、戦闘向きスキルであれば、冒険者にとっても最適な能力とも言える。
「で、お前の回復スキルは、どんな効果があるんだ?」
「効果……ですか?」
さて、ドコまで話すべきなんでしょう……考え込むリリーだったが
「自分の意志で……スキルを発動すると……数刻の間……回復力が上がります」
「どのくらいだ?ヒールに比べるとどうだ?」
「通常の回復魔法の……十分の一程度の速度での回復だったと……思います」
「なるほどな……」
半分は本当の事を言ったんですが……信じてもらえたんでしょうか?
「じゃあ、さっきのは何だ?」
さっきのとは、下で絡んで来た人達を回復した事でしょうかね?
「アレは……私のスキルを魔法で……無理矢理繋いだ……のです」
「繋ぐ?」
「はい……私の血を使って……魔力で擬似的に繋いで……スキルの拡大をやりました……その……魔力操作に失敗して……範囲が広くなり過ぎましたが」
話を聞いて考え込むゲイルだったが……
「ふん、まぁ、戦闘には使えないスキルだな、だが使い方を変えれば役に立つか」
「?」
何やら不穏な事を呟くゲイルだったが、目線を変える。
リリーの隣で縮こまっている髭の戦士に。
「おいゴンズ、言い訳はあるか?」
「まっ……待ってくれゲイルさん、あれは違うんだ、ちょっとしたイタズラ心だったんだよ!!」
顔に脂汗をかいた髭の戦士ゴンズが、必死に釈明するが……
「次騒いだら、痛い目に合わすと言ったよな俺?当然、これからどうなるか……覚悟出来てんだろうな?」
長椅子の端でガタガタ震えだすゴンズであった。
次は木曜までには仕上げる予定です。