止められませんでした
あかん、気分がノッたら一気に書いてました。
ジーンは目の前の状況に困惑していた。
ギルドマスターへの報告が終わり、アベル達と……13歳に見えない少女と、怪しい黒騎士を案内する為に受付へと戻って来たのに……
「……これは何事ですか?」
受付前には5人の冒険者がブリッジしながら倒れていた。いや、ブリッジって……器用な……
そして、1人の冒険者が、例の怪しい黒騎士に胸ぐらを捕まれ、額に右手中指を親指で弾く様に構えた状態……所謂『デコピン』直前で止まっていた。
「……誰か説明してくれませんか?」
眉間に皺を寄せ額に手を当てているジーンに
「ち……違うんです……あの……すみません……その……これは……」
っと、黒騎士の右手にぶら下がった状態でリリーが必死に説明しようとするのだが……
「俺が説明してやろうか?」
酒場奥から長身の男性が出て来る。年は30代半ばだろうか?背中に大剣を背負っている。
「ベンノさん?」
「ようジーン、今日も可愛いな」
ベンノと呼ばれた人物は、カラカラと笑いながら近づいてくる。
「ベンノさん、私もう30前なんですから、可愛いとか言わないで下さい」
「まぁまぁ、そう言うなって、女性はいつまでたっても可愛いもんだしな」
冷めた目で見てくるジーンをあしらいつつ、黒騎士の側へと寄ると
「そんな訳だ、そいつを下ろしてやんなよ黒い兄ちゃん?」
軽く籠手を叩く。一瞬、黒騎士の視線がベンノの方へと向くが、何も言わず、冒険者を離す。
それを見て『ほっ』とするリリーの頭を軽く撫でながら
「よく頑張ったな~可愛らしいお嬢ちゃん」
「……」
急に誉められて耳まで真っ赤にするリリー。
「まぁ、そこで倒れてる連中がだな~」
しかめっ面をするジーンに、さっきまで何があったかをベンノが説明しだす。
ーーー
ジーンが戻って来る少し前、ギルドに入って来たのは6人組の厳つい男達だった。全員が戦士というバランス無視、むしろ打撃特化パーティーとでも言うべき……か?
ちなみに、ギルド側から『最低でも弓使いを入れろ』と何度注意されても聞かない連中だったりするのだが……
「おいてめぇ、邪魔なんだよ!!」
後ろからの怒鳴り声に全員……黒騎士とリリー以外が振り向く。その先に居る連中を見て「げっ!!」とか「あいつらかよ!!」っと言う声が酒場の方から聞こえて来る、どうやらギルド内でも問題あるパーティーらしい……
「聞こえねえのか、おい、お前だよ黒いの!!」
受付前に居る黒騎士に向かって3人の戦士が怒鳴り散らす。肝心の黒騎士は、チラッと後方を見ると何事も無かったかの様に前方へと向き直る。
「おいこら、無視してんじゃー」
「出来た!!」
怒鳴る戦士の声に被せるように話だしたのはリリーだった。にこやかな笑顔で振り向き、手に持った書類を見せる。
「黒騎士さん見て、これならジーンさんも大丈夫って言ってくれるよ!!」
普段と違い、黒騎士にスラスラと話し掛ける笑顔のリリーを見て、アベルは
『なるほど、親しい人とはあんな感じで喋るのか~』
などと、変な方向で関心をしてたりするのだが……
「こらガキ、邪魔すんじゃねぇ、売り飛ばすぞー!!」
真ん中に居た、冒険者と言うより山賊とでも表現した方が良さそうな男が、リリーに向かって近づき、そして……
『カン』
甲高い音を立てながら後ろに倒れていた……ブリッジしながら
「「「「はぁ?!」」」」
その場の全員が戸惑う、それもそのはず、ただ飛ばされた『だけ』なら、パンチなり何なりと言えるのだが……その場にあったのは、黒騎士の手、それもただ開いた状態、見方によっては『突飛ばした』かのようにも見える……
「なっ……?!何しやがった?!」
倒れた男の左右に居た二人が剣を抜く……と
『カン』
再度甲高い音がして、左側の男がブリッジ状態で倒れていた。
「はぁぁぁぁ?!」
右側の男が視線を前に戻した瞬間、そこに見えたのは、黒く巨大な中指が、自分の額に向けて近づいて来る所だった。そして
『カン』
と、甲高い音が響く。
『あぁ、あの甲高い音は、俺の頭蓋骨が鳴る音か』
黒い指が当たった瞬間、頭蓋骨から鳴り響く音に、妙にスッキリした顔を後ろへ反らしながら、男の意識は遠退いていった。
仲間の3人が目の前でブリッジしている……そんな馬鹿な事あるかぁ!?!
彼らのリーダー角の男が怒気を振り撒きながら、背中に担いでいた斧を構える……っと同時に
『カン』『カン』
と、2つの甲高い音がした。そう、自分の左右に居た仲間がブリッジした音。その音先を確認するまでも無く斧を振りかぶると、自分の前へと振り下ろ……せなかった。
斧を持つ手は振りかぶった状態で止められていた。黒い籠手が斧の柄に添えられていた、それだけでびくともしない。
『がしっ』
「?!」
気が付くと胸ぐらを巨大な手が掴んでいた。190あるハズの自分の体が宙に浮いている。
『掴み上げられている?!』
宙に浮く男の額に巨大な右手が近づいてくる。思わず
「ひぃぃ?!」
っと、情けない声を上げてしまうが
「だ……ダメ黒騎士さん!!」
その右手……肘にぶら下がるようにリリーが抱きつく。そして……
ーーー
「って訳で、そこのお嬢ちゃん達は悪く無いんだ」
「いや、悪く無いって……」
この状況を見て言うのかと……そう非難めいた目線を向けられたベンノだったが
「ギルド内で武器を抜いたのはアッチだぜ?こっちの黒い兄ちゃんは素手だ、どっちに非が有るかは分かるだろ?」
そう言われると、確かにと納得してしまう所もあるのだが……
「あ……あの」
「ん?」
ベンノが声の方へと目線を向けると、黒騎士の前に居るリリーが
「助けていただき……ありがとう……ございます」
っと、頭を下げていた。
「まぁ~気にすんなって、それに、あのままでもお嬢ちゃんは無事だったと思うぜ、なぁ、黒い兄ちゃん?」
「……」
黒騎士に向かって手を上げるも反応は帰って来ない、やれやれと一言言うベンノだった。
「で、コイツらどうする?」
ニヤニヤした顔のベンノが指し示すのは、床でブリッジ状態の5人の男達だったのだが……
「どんな理由であれ、このまま放置する訳にもいかないでしょ?」
ジーンは、そうベンノに返すとブツブツ言いながら
「えっと……気付け薬と回復薬……低級ポーションで良いかしら?後は……って、この料金は誰が払うのよ、まったく……」
その呟きを聞いてしまったリリーは
『もし、黒騎士さんが原因だから払えって言われたら……』
っと、真っ青な顔になってしまい
「あ、あの……私が回復……させます……」
思わず手を挙げて言ってしまった。
こ……今度こそ土日で……