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突き付けられていたようです

続きです。


( へ;_ _)へ{芋虫ペースで更新中


「お前を捕縛する前に聞きたい事がある」


黒騎士に向けていた槍をゆっくりと下に向ける騎士団長ドレル。

ただし、その目線は黒騎士をしっかりと睨み付けている。


「お前が拐った少女は何処へやった?正直に答えろ」


槍先は下に下ろしているが、それを持つ右手は、程良く脱力した状態になっていた。

もしも黒騎士が隙を付いて突進して来たとしても、直ぐに槍を振り回せる……と、ドレルは思っていた。

周囲の騎士達も、それぞれ武器を構えながら、いつでも動ける様に気を張っている。

だが、それに対して当の本人……とでも言う黒騎士はと言うと


「……?」


『何の事だ?』と言いたげに首を傾げている。

疑問になった時、いつもリリーがやっている行動だ。

首を少し右に傾ける、小柄な少女であるリリーがやれば、『こてん』と言う擬音が聞こえてきそうな愛らしい行動だが、大きな体の鎧姿がそんな事をやったとしても似合わない。

寧ろ、怒りを増長させるだけだ。


「……ふざけているのか?」


現に、額に青筋を立てて怒るドレルからは、一段落低い問いかけが帰って来た。

周囲を囲む騎士達からも、同じく様な怒りの気配が漂って来る。

そこで、怒りに任せて突撃を指示する程ドレルは愚かではない。

軽く息を吐くと、再度問いかける。


「数日前、お前がバストラ市内で騒ぎを起こした事は分かっている。何でも、裏道に幼い少女を連れ込んだらしいな?」


ドレルの元へと送られて来た書類には、辻褄合わせをした後の『物語調』になった報告書が来ていた。


曰く、『黒い鎧姿の騎士崩れが、幼い少女を裏道に連れ込んだ。理由は不明だが、性的なモノか人身売買の可能性がある。それを偶然にも通りかかった良識ある冒険者が発見。阻止しようと動いたが返り討ちに合う。その冒険者が、トドメを刺されそうになった所、駆けつけたバストラ警備隊の活躍により、不審者である騎士崩れは、幼い少女を人質にバストラ郊外へと逃走』と言うモノであった。


「その時に連れ去った少女はどうしたと聞いている。この場にいないと言う事は、何処かに置いてきたか、或いは……殺したか、さぁ、白状しろ。返答によっては罪が軽くなるかもしれんぞ?」



ーーー

ドレルから語られた言葉を黒騎士の鎧の中から聞いていたリリーは、盛大に焦っていた。

まさか、そこまで尾ひれが付いてしまうとは予想していなかった。

しれっとバストラの街に入ってしまえば、怪しまれる事はあっても捕まるまではいかないだろうと楽観視していた。

そこに、リリー的根拠は無かったのだが……十日も過ぎれば大丈夫だろうと思い、バストラへと戻る様に黒騎士に指示を出していたのだった。


「これは……私が出て行って、ちゃんと説明しないと」


この際、黒騎士の秘密がバレる事より、ここから先の旅に支障が出そうな現在の状況をどうにかしようと言う思いしかなかった。

『黒い鎧の大男』と言う目立つ存在に『性的犯罪者』等と言う『尾ひれ』処か『背びれ』や『胸びれ』まで生えてきそうな内容を抱えたまま、国境越えは到底無理だろう判断した。

判断したのだが……


「何のつもりだ、それは?」


鎧の外からは、ドレルの困惑した声が聞こえて来た。



ーーー

罪状を伝えたドレルの目の前で、黒騎士は暫く考える仕草をした後、自分の鎧の中心を右手でトントンと指で指し、鎧表面を撫でる。


「まさか?!」


冷や汗を流しながらもドレルはそう呟く。

目の前の大男が指差す位置は胸当て部分、それも鳩尾に近い所だ。

そして、そこを撫でると言う事は……


「もう一度聞く、お前の指差す所に少女が居る……と言う事か?」


僅かに震える声で聞くドレルに、『何を当たり前の事を?』とでも言いたげに頷く黒騎士。

ドレルは怒りで震えていた。


黒騎士の指し示す場所は胃、。

つまり、この怪しい大男は、幼い少女は自らの腹の中、つまり『食らった』のだと。

その瞬間、凄まじい殺気が黒騎士へと向けられる。



ーーー


「あっ、これ、絶対マズイやつだ」


黒騎士の鎧の外から聞こえてくるドレルの声を聞きながら、リリーはそう判断した。

喋れない黒騎士が、どんな行動をするか予想が付かないが、それでも、この相手の声の調子から、絶対に『ろくでもない事』になっている、そう思えた。


だからこそ、慌てたリリーが鎧を内側から叩いて出してもらおうとした瞬間、鎧越しからもハッキリ分かる殺気を当てられ、思わず気が遠くなったとしても、それはしょうがなかったとしか言えない。


遠退きそうな意識を何とか繋ごうと、鎧の中でフラフラしながら必死に頭を振るリリーだったが、そんな変化を感じ取った黒騎士は、直ぐ様行動した。

即ち……


ドレル達に対して『臨戦態勢』を整えたのだった。



ーーー

その変化に、ドレルの目が細められる。

目の前に居た黒騎士は、ドレルの殺気を受けると、直ぐ様、左足をほんの僅か後方に引き、両膝を少し曲げ、臨戦態勢を整える。


「ほう?」


前屈みになった上体に、両手はダラリと垂れ下がっているが、左右どちらから攻められても対応出来る様、手刀が作られていた。


『これ程の力量を持ちながら悪に染まるか……残念な事だ』


心の中でそう呟く。

目の前の黒騎士は不思議な存在だ。

何しろ、気配を探れば、まるで子供の様な『小さな気配』しかしない。

しかもその気配は、とてつもなく『怯えて』いる。

それなのに、此方が殺気を向けた途端、体の方を臨戦態勢へと変える。

まるで『心と体が別々の生き物』の如く、真逆に働いている様に。


「前衛部隊、前へ」


槍を黒騎士に向けると、長剣と盾を装備した騎士が二人修すつ、前に出る。

その後方に槍を構えた騎士が、馬一つ分開けて二人ずつ付く。

更に、馬二つ分開けて短弓を構えた騎士が一人ずつ、後方に付く。

新人騎士五人一組とし、どんな敵と出会っても対応出来る様にと、それぞれ近接、中間、遠距離と武器を揃えている。


そんな小部隊が三つ、合計十五人が、黒騎士を半包囲し、突撃の合図を待つ。


「今一度聞く。投降する気は無いのか?」

「……」


眼光鋭く睨み付けるドレルに無言で返答する黒騎士。


「そうか……残念だ」


持っていた槍を頭上に掲げ、振り下ろす。


「全軍突撃、目標黒騎士、手加減無用、生死は問わん!!」

「「「おう!!」」」


馬の腹を蹴り、その場に居た全騎士が、馬蹄を轟かせ一気に走り出す。



ーーー

同時刻、黒騎士達の居る場所から少し西側の森の中を五人の騎士達が東に向かって走っていた。


「おい急げ!!早くしないと団長達に手柄を持ってかれる!!」

「でもよカルン、俺達、足止め役だっただろ?十分役に立ったハズだし、少々遅くなっても問題な」

「何言ってるんだよヤン、アイツは、黒騎士は俺の……俺達の手で捕まえないと意味無いだろ!!」


同じ騎士団のヤンが、息も絶え絶えに色々言うとってくるが、カルンと呼ばれた青年は、苛立たしく答える。

彼ら五人組の小隊だが、各小隊の隊長は月毎の持ち回り制度だ。

後何日かしたら『小隊長』の位置から下ろされる、そんなの嫌だ。

上昇気質に溢れるカルンは、良く言えば『貪欲に上を目指す若者』だが、悪く言えば『他者の上に立ち見下す性格』部分が見え隠れしている。

同じ部隊の四人に対しても、常に上から目線で接してくるカルンは、能力があっても嫌われ気味だ。


『くそ、どいつもこいつも俺の邪魔をしやがって!!』


他の四人が、互いに連携し合って慎重に進もうとするのに対し、カルンは先行しがちだ。

その度、仲間達から心配の声が掛かる。

しかし、上を目指すカルンにすれば『余計なお世話』処か『自らの出世の邪魔』にしか思えてこない。


常日頃から団長に『どんな時でも慎重になれ』と言われているハズなのだが、焦るカルンの耳には一切届かない。


「いいから早く行くぞ!!どうせ団長相手に追われているハズだ。そこを後ろから一気に押さえる」

「……」


普段よりもギラギラさせた目で言ってくるカルンに、後ろに付き従っていた仲間達は互いに目線を合わせため息をつく。

『慎重ささえあればカルンは良い騎士になれるのに……』と、ここ数年の付き合いである仲間達は、全員同じ様に考えていた。


そうやってお喋りしつつ進んでいた彼らだったが、森の切れ目から進み出た瞬間息を飲む。


そこには、騎士団長を含む十五人の騎士達が倒れ伏していたからだ。


「そんな馬鹿な!!」


騎士団長は、この世界基準で言えば高齢だ。

だがそんな団長に、自分達騎士見習いの腕ではでは敵わない。

訓練でも、十人掛かりで何とか対等と言う所だ。

その団長が白目を剥いて倒れている。

団長を除く全員が、一撃の元気絶させられていた。


「そんな……馬鹿な……」


カルンの弱々しい呟きだけが森の外へと響く。

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