回り込まれていたようです
リアル事情により、大変遅くなり申し訳ありません。
( へ;_ _)へ
森の中を『ガサガサ』と草を掻き分ける音が響く。
「このっ!!」
年若い男の声と共に『ひゅん』と風切る音が続く。
「くそっ、避けられた!!」
「下手くそ!!ちゃんと狙えよ」
「お前が言うな!!」
『どすっ』と地面に何かが刺さる音と罵声が響くが、ガサガサと草を掻き分ける音は途切れない。
「ちょこまかと動きやがって!!ヤツは猿か?!」
「あんなバカでっかい猿が居てたまるかよ!!」
膝丈より上にある草を掻き分けながら走り出して来たのは、真っ白い鎧に草の汁や土埃を付けた騎士だ。
兜は付けておらず、その素顔は少年から青年への間という所だろうか。
そんな彼らが必死に追いかけている相手はというと、数メートル先をヒョイヒョイと跳び跳ねる黒い塊だった。
「追い付けない!!」
「だ、誰だよ、平地より速度が落ちるって言ったヤツは!!」
「うるせぇ、多少は落ちてるだろうが!!」
追いかけていた仲間の騎士から愚痴を言われながらも槍を構えて投げる。
狙いは黒い塊の着地点。
だが、まるで『そこ』に来るのが分かっていたかの様に足を動かし避ける。
「何でだよ!!」
「後ろに目でも付いてるのか?!」
口々に文句が出るが、それでも槍を投げ続ける。
足元に槍が刺さる事で、少しだけ速度が落ちる、そうでなければ当の昔に振り切られていた事だろう。
「くそ、逃がさんぞ、黒騎士!!」
黒騎士と呼ばれたそれは、後ろを振り返る事無く走り続ける。
木々の隙間から漏れる光にも反射しない黒い鎧は、草木の隙間の僅かな地面を蹴り上げながら草木の間を飛び越えて行く。
そんな彼、黒騎士の鎧の中では……
「ひえぇ?!痛い、痛い、跳び、跳ね、ない、で、黒騎士、さん!!」
コの字型の荷物の中に埋もれる様に座っていたリリーの体が上下にシェイクされていた。
一応、頭の上に何やら色々入っている袋を掲げ、顔に鎧が当たるのを防いでいる。
だが、だからと言って痛みが全く無いと言う訳では無い。
「痛、痛い、顔、潰れ、る!!」
頭の上に頭巾の様な感じで被っていた袋に何度も鼻先が埋もれる。
上下に動く度、ズレた袋の表面が顔の方へと押し掛かる。
どんなにしっかり両手で持っていたとしても、握力の無いリリーでは、どうしようもなかった。
「もう、嫌、あぁぁ」
黒騎士の鎧内部で跳び跳ねるリリーの叫び声は、誰にも聞かれる事は無いまま進んで行く。
ーーー
ガサガサと森の奥から聞こえてくる音に、その場に居た全員が武器を構える。
「来たか」
白い騎士の鎧を来た男性が馬上でそう呟くと、馬の腰に吊るしてあった槍を手に持つ。
茶色い髪をオールバックにし、髪の毛のサイドに白い物が目立つ様になってきた男性は、目線を森へと向ける。
「ドレル団長、全員配置につきました。いつでも行けます」
「そのまま待機だキース、目標には私が話をする。ジョンにも同じく『指示あるまで待機』と伝えろ」
「はい」
キースと呼ばれた青年騎士は馬首を返すと、ドレル団長の左側へと馬を走らせ、そこに居た騎士に何事かを伝える。
それを聞いた騎士は一つ頷くと、後ろに居た仲間へと声を掛ける。
それを見届けるとキースは、逆の方向、ドレルの右側の騎士達の元へと馬を走らせる。
キースが右側の騎士達と合流すると同時に、目の前の森から黒い塊が飛び出して来た。
数枚の葉っぱを散らせながら、土埃を立てて停止する。
「ほう、あれが報告にあった黒騎士……か?」
ドレルが誰に聞かせるとでも無く呟くと、馬の腹を蹴り前へと出る。
「私はバストラ領騎士団団長ドレルだ。警告する。黒騎士、お前には、バストラの街での少女誘拐に冒険者への暴行事件で捕縛命令が出ている。申し開きの類いは取り調べの際に聞く。無実を証明したければ、今ここで大人しく我々に従え」
ドレルの目の前には、飛び出した勢いを消す為に出した左半身をゆっくりと戻す黒騎士が居た。
こちらを見ても慌てる事も無く、かといって怒り等の感情を見せる事無く、鎧に付着した埃を払う仕草までする程余裕だった。
ただし、それはこの『黒い鎧の騎士』のみであり、その内部では……
「うそ……バストラの騎士?捕縛命令?何それ?何それ?何それぇぇぇ?!」
鎧の向こう側から聞こえてくる言葉に、黒騎士の鎧の中のリリーは、真っ青な顔をして呆然とするだけだった。