煙と閃光でした
盆休みが終了です。
;´・ω・){もう一話ぐらいは書きたかったです
バストラの街に到着して一刻(二時間)程、バストラにある冒険者ギルド内の丸いテーブルにリリーは突っ伏していた。
ーーー
バストラの街西門から中央へと歩いて行くと、大きな十字路に差し掛かる。
そこはオルボアと同じ構造になっており、それぞれ北西側に商業ギルド、そこから時計回りに鍛冶ギルド、魔法ギルド、そして冒険者ギルドと並んでいた。
案内してくれたナルルスによると、大抵の大きな街では、同じ様な通りとギルドの並びになっているんだとか。
「初めて来た人でも分かる様にって、この聖王国なりの……コンセプト?」
「そう……なのですか?」
ナルルスの言葉に、何となくと言った返事をするリリー。
都市計画というモノに疎いリリーだが、そんな考えの元、建設した人々は凄いな~等と呑気に考えていたのだった。
そして到着した冒険者ギルド……だったのだが、やはりと言うかお約束とでも言うのか、オルボアの時と同じ様に黒騎士が絡まれてしまう。
前回……一月チョット前の話……と違うのは、相手を気絶させる前にポーリーナが穏便に済ませてくれた事だった。
絡まれた黒騎士が手を出す前、受付嬢に
「オルボアのギルドマスターからの『直接』の依頼で来たの『ニャ~』。バストラのギルドマスターさんを呼んで欲しい『ニャ~』」
と、少し大きな声で言うと、黒騎士に吊り上げられていた一人を除いた冒険者達が一歩後ろに下がる。
さすがに『ギルドマスターの直接の依頼』を受けている者達に突っ掛かるのはマズイと考える思考能力はあった様だ。
そんな中表れたギルドマスターは、細身の男性だった。
神経質っぽい顔をした中年男性、魔法使いの様なローブを着た人物が、隈の浮いた顔をしながらリリー達の前に来た……のだが
「荷物の運搬ご苦労様、でも、受け取りは拒否するから。あっ、依頼に関しては修了証を出すから安心して欲しい、以上」
そう一息に言うと、取り付く島も無くそそくさと部屋に戻ろうとする。
そんな彼を
「ちょっ?!ちょっと……待って下さい!!荷物を……荷物を受け取ってくれないと……私」
「は、離しなさい!!僕は受け取らない!!オルボアから来たんだろ?中身は分かってるんだからな!!」
「分かってようが……何だろうが……私には知った事では無い……です!!」
「僕が苦労するって分かってて受け取る訳無いだろ?!ちゃんと『受け取った』事にしてあげるって言ってるんだから、そのままオルボアのバカギルマスに突っ返してくれよ!!」
「それこそ……そちらでやって……下さい!!」
バストラのギルドマスターの左腕に、半泣き状態でしがみつくリリー。
流石に、そんな状態の女の子を無理に振りほどく事も出来ず、アタフタとするギルドマスター。
そんな二人のやり取りを我に返った受付嬢が引き離し、奥の部屋へと連れて行く。
後に残ったのは、何が起こったのか分からない冒険者達と、何故かその場に取り残された黒騎士、その黒騎士に顔を鷲掴みされて気絶している冒険者だけだった。
別室での話し合いだが、結局、バストラのギルドマスターが荷物を『一応』受け取る事で合意する事となった。
そこで知った事なのたが、このバストラのギルドマスター、オルボアのギルドマスターゲイルの実の弟だった。
しかし、兄と違って体の弱かった彼は、早めに冒険者を引退し、バストラのギルド職員として働き、気が付けばギルドマスターにまでなっていたと言う事だった。
「あの『バカ兄貴』までギルドマスターになってるとは思わなかったけど……」
と、遠い目をしながら語っていたのだが……
そんな中、今回送り付けられて来たモノはと言うと、聖王国に提出する予定の正式な書類だった。
運搬して来た箱の中に、四百枚近い書類が入っていたのだが、それを見たバストラのギルドマスターが
「兄貴……」
っと、暗い目付きでボソリと呟いたのが印象的だった。
ちなみに、リリーがバストラに来る二日前と四日前に、同じ様な書類が届けられていたらしく、ギルドマスターの机の上には、大量の書類が鎮座していたのだった。
こうして、書類の入った箱を渡した後も、兄に対するギルドマスターの愚痴を散々聞かされ、フラフラとしながらも、何とか仕事を終わらせる事が出来たのだった。
ちなみに、リリーが戻って来ると、黒騎士が周囲の冒険者達と仲良くなってたのだが……何故そうなったのかは謎である。
ーーー
丸テーブルに突っ伏していたリリーだったが、ゆっくりと顔を右側に傾ける。
そこには、石像の様に微動だにせず立つ黒騎士が居た。
「みんな……遅いです……ね」
リリーが黒騎士に向かってそう呟く。
今現在、ナルルスとポーリーナは、自分達が請け負った依頼業務修了証をギルドの受付に提出している所だった。
それと同時に、このバストラで暫く滞在する予定との事なので、受付嬢に色々と情報を貰っている所だ。
途中まで一緒に行動していたケーテは、この街にある教会へと向かっていた。
何でも、このバストラでの教会関係者の状況を知りたいんだとか……
『ケーテは……そのままこの街に居着いてくれれば良いんですけどね』
リリーが、『はぁ~』っと深いため息を付いたその瞬間、冒険者ギルドの入り口から何かが放り込まれる。
それは、透明な液体の入った二つの瓶だった。
瓶は大きく弧を画くと、ギルド入り口から二メートル程の床に落下、と同時に強い閃光と白い煙を室内に撒き散らした。
「ひっ?!」
「げふっ?!何だ?!」
「ぐぉぉ!!目がー!!」
閃光に目をやられた何人かが、顔を押さえながらテーブルの上でのたうち回り、さらに、閃光を受けなかった冒険者達は、煙から逃れようと、我先に窓際へと殺到する。
「げほっ……な、何?!何が……起こったの?!」
周りの怒声に顔を上げたリリーは、目の前に広がる煙を吸い込んで盛大に噎せる。
そんなリリーへと黒騎士が手を伸ばした瞬間、リリーの身体が煙の中へと消え去る。
白い煙によって視界を塞がれた黒騎士だったが、ギルドの入り口方向へと走る足音と、リリーの小さな悲鳴を聞きつけ、何の躊躇も無く前進する。
途中、太腿の辺りに硬い物、恐らくテーブルの類いと思われる物が当たるが、逆に弾き飛ばしながらも前進する。
吹き飛ばしたモノの中に男の声も混じっていた気がするが、全て無視して煙の中を進む。
ギルドの外では、暗くなり始めた街中で突然広がった煙に、近隣住民が遠巻きに騒ぎ出していた。
そんな住民の前へと白い煙を切り裂く様に表れた黒騎士。
桶に水を入れた住人が、突然目の前に出現した黒騎士に驚いてしまう。
彼らは、火災でも起きたのではと思い、消化活動をしようと寄って来た所だった。
目の前で慌てふためく住人を無視し、周囲を見回す黒騎士だったが、左側の細い路地へと入り込む人影を見つけると、集まって来だした住民の頭上を一足飛びに越える。
住民達には、黒騎士がいきなり消えた様にしか見えなかっただろう。
そうして黒騎士が消えると同時に煙の中から、冒険者達と受付嬢達関係者が噎せながら出て来る。
そんな彼らを助けようと動いた住民達は、もう黒騎士の事など頭の中に無かった。
ーーー
小脇に抱えられたリリーは、裏道を進んでいた。
「む~!!」
口を押さられている為、叫び声を上げる事も出来ず、ただ唸るだけだった。
チラリと顔を上げるが、建物の影のせいで相手の顔も見えない、ならばと
『黒騎士さんがきっと来てくれるハズ』
そう思いながら、逃げ込んだ場所や道筋等をできるだけ覚え、逃げる隙を探していた。
「ふ~ん、思ったよりも冷静なんだな。これは予想外だったよ」
っと、軽い感じの声が頭上から聞こえてくる。
その声には覚えがあった。
ほんの数時間前に別れた人、このバストラに来るまでの間、何度も話し掛けて来た人物。
裏道にある少し開けた場所に入ると、月明かりにその顔が見える。
『あ、貴方は!!』
口元を布で覆い隠していたが、その目には覚えがあった。
ディトラス商会御用達の護衛冒険者、ハンターのウィル、その人だった。