嗚咽、でも立ち止まらずに
申し遅れましたが、新しくブックマークしていただいた方、ありがとうございます!
「はっ、はっ、はっ」
片腕を無くし、涙と汗で顔をぐしゃぐしゃにして少年は走る。
相棒の覚悟に報いるためにも、自分は生き延びなければならない。
そして情報を、『刀』を、なんとしても持ち帰る。
しかし、そんな思いとは関係なく遺跡の怪物たちはやってくる。
「きあぁぁぁ!」
羽人間と呼ばれる種類だ。
特徴として空を飛べる。そして群で餌を取る。
風系の魔法を使う。
「はっ、くっ....『山鳩』!」
風が集まる符を投げる。そしてその符を中心に竜巻が発生した。
空を飛ぶ羽人間だが、気流を乱してやればすぐに墜落する。飛ぶのは狩りをする時のみ。
更に走る。符術で風を起こして背中を押し、かろうじて使える念の強化をして、連盟までひた走る。
途中で遭遇する怪物は符術をばらまいて足止めしたり、時にはすれ違い様に体に符を貼って直接爆砕する。
そうしてやっと狩人の連盟に戻ってきた。
「ぜっ、はっ、うぇ.....」
はじめは汚い小僧が来た、と遠巻きにしていた周りの者達だったが、次に続く言葉は無視できなかった。
「討伐、指定、に、遭遇......ごぼっ...相棒が、うっ...やられて、情報を、持ち帰り、ました」
途切れ途切れの呼吸と、途中からは嗚咽も混じり聞き取りやすいものではなかったが、確かにそれは周りに聞こえた。
「ほれ、水飲んで落ち着け。落ち着いたら、話してくれ」
「あ、い.....」
友の思いを守れたこと。生き延びたこと。自分だけが生き延びてしまったこと。様々な思いがグチャグチャになってしまった。
そうして水を飲んで落ち着いて、あったことを話す....というより見せた方が早い、ということでその場にいた狩人たちも含めて壁際に集まった。
「これから、自分の記憶をお見せします。瞬きなどもありますが情報としての確度は高いと思います。『錫』」
灰色の符が壁に貼られる。少年に起きたことをありのままに、残酷に、周知された。
「よくやった」「えらかったなボウズ共!」「立派な狩人だ!」たまたま近くにいた大人たちに励まされる。
「あとは大人に任せとけ」
その言葉には背筋が凍った。
「仇を取りたいか?」
「はい」
「なら私たちと来なさい」
雑踏に紛れるようでいて、その言葉は確かに聞こえた。
声の方に顔を向ければ、狩人における最強の一角たる2人が待っていた。
「疲れてる所悪いけど、よろしく頼むよ」
「お前さんだけの問題じゃなさそうだしなぁ。仇を討ちに、ではなく共に狩人として動こうじゃないか」
「.....せっかく仇討ちでその気になったのに」
「相棒に逃げろと、生きろと、言われたんだろう?仇を取って終わりにするわけにはいかんだろう」
狩人には珍しい男女の2人組。背の高い女性で『虎徹』を持つ水鈴と引き締まり強靭な身体を持つ男性で『獅子王』の伊角だった。
「さっそく打ち合わせをしようか。回復もしておくれ」
「連盟主人には伝えておこう」
未だ残る人垣を後にした。
「さて、お互いに出来ることを明かしておこうか」
「うむ、それとその、なんだ。そこまで気負わなくていいぞ」
「は、はぃ」
それは無理だ。狩人の中でも英雄と呼ばれる2人。話すこと自体が奇跡のようなもの。ヤマトも憧れていた。
「まず私からだ。『刀』である『虎徹』を使う。近距離・中距離が得意だ。遠距離は牽制程度にしか使えないからあまり期待はするな。『虎徹』の能力は『剣閃刺突』。簡単に言えば多少の距離は問題なく射殺す機構だ」
「俺も『刀』を使う。銘は『獅子王』だ。俺は近距離専門で、腕力には自信があるぞ。普段ならば俺が怪物を押さえて水鈴が仕留めるっていうのが定石だな。『獅子王』の能力は『咆哮装甲』といって、まぁ鎧のようになって全身を武器にできる。あぁ、抜刀する時は気をつけろ。『獅子王』の駆動音は特殊でな。周囲を威嚇してしまうんだ」
「私は符術師です。地水火風の術が使えます。遠距離しかできません。あとは、この『刀』.....銘は『九字兼定』。術を吸収したり刀身から解放することができます。あの、よろしくお願いします!」
がばっと頭を下げた。
「ああ、いい、いい。むしろまた命を落とすかもしれん所に行こうとしてるしな」
「狩人としての基本的な心構えは問わない。行けるか?」
「はい。装備は先ほど補充しましたし、魔力も体力も8割ほどは戻っています。『月白』....初級治癒でもかけていれば大丈夫です」
狩人にとっては身体の異変を早期に把握することも必要だ。客観的に、無理をすれば他人に迷惑をかけ自分も死ぬ。
「では向かおうか」
やっと明かせたトップランカーの能力!いつも能力とかは思いついても人名に悩む黄野です。
一応、実在の人物・団体とは無関係です。と言っておきます(刀を振り回す団体って.....)




