覚悟
もうもうもたちこめる煙。
符術による十字砲火の凄まじい威力を物語っていた。
これで無事なわけがない。
2人の思いは一致していた。
「今の内に逃げよう」
「いや、死に体ならちゃんと仕留めた方がいい」
相反する主張。
「もし無事なら煙の中でこっちの隙を窺ってるかもしれない。近付くのは危険だ」
「だけど、気絶でもしてるなら、確殺できるチャンスだろ」
どちらも一理がある。
手っ取り早いのは煙を晴らしてしまうこと。
「....~!わかった、備えろよ。符術・『群青』!」
水の術で煙の中に攻撃する。無事なら追撃。負傷してるなら追い打ちだ。
煙を散らしながら水の弾丸が煙を貫いていく。
そうして煙が晴れると、ゆらりと男がそこに立っていた。
多少の手傷はあるがそれだけだ。
「確かに当たっていたはずなのに、どうして....!!」
「戦場で『なぜなに』は命とりだな」
瞬く間に詰められたら間合い。
ぞぶり。
そして腹を貫く凶刃。
「ヤマト!」
「友の名を呼ぶ間に術を使えよ」
「符じゅ」
「遅い」
投げつけられたのは腹を貫かれた相棒だった。すぐに『月白』を使い止血する。
「ぐふっ、げっほ....」
血を吐き、息を整えようとする。しかし、痛みと衝撃がそれを許さない。
「やばいな」
「黙ってろ!」
「いい、血は止まった」
「動いたら死ぬぞ。黙ってろ」
「あいつに『刀』取られたら、誰の手にも負えなくなる」
「......」
「お前だけでも、『刀』持って逃げろ」
「ふざけんな」
「術を撃ちまくれ。俺も時間稼いでやるから」
「お前は....!どうするんだよ」
「勝ったら、英雄だな」
「お前はそれでいいのか?」
「死なないように頑張るだけだな」
「.....わかった」
苦渋、しかしそれしかないのも事実。
2人で殺されて『刀』まで取られるか、どちらかだけでも生き延びて『刀』を守り情報を伝えるか。
相棒の恐らくは最後の思いと覚悟がこもった言葉。
叶えられなきゃ友だちじゃない。
「頼む。符術『群青』『花緑青』『百塩』」
水の弾丸が、風の刃が、砂塵の鑢が、まるで壁のように包囲する。
「ほう、いい判断だ。自らを礎にするか」
「ここであんたを倒せれば、俺も生きられるしね『修羅』」
瞬間、男が吹き飛ぶ。
そしてヤマトが血煙をあげる。
身体強化系『修羅』の念。効果は、至極単純にして明解。
使用者の身体能力を脳のリミッターすらはずして強化する。しかし、リミッターなくして稼働する体に筋力が追いつかず、遠からず自壊する。
決死の覚悟を持ち、更にすぐに治癒魔法をかけられる前提で使う念を、自壊するままに力を振るおうとしているのだ。
男は感嘆する。そこまでする男の覚悟を。
「見事」
和刀と大剣が火花を散らす。速さと鋭さに勝る和刀と、重量故の力強さと頑丈さに勝る大剣。一合の剣戟の後、
倒れ伏すヤマト。
男も脇腹に大きな傷を負った。
そして、男は倒れたヤマトに剣を突き立てた。




