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AI彼女

絵に描いたような青空だった。


白い雲が流れている。


見渡す限りの草原。


黒髪のセミロングを揺らしながら、一人の女性が目を覚ました。


年齢は二十五歳ほど。


どこにでもいそうな、ごく普通の女性だった。


「……ここ、どこ?」


私はゆっくりと上半身を起こした。


見覚えのある景色はどこにもない。


道路もない。


電柱もない。


人の姿も見えなかった。


胸がざわつく。


慌てて立ち上がる。


夢だろうか。


そう思った。


だが。


吹き抜ける風も。


足元の草の感触も。


妙に現実的だった。


「何がおこってるの……」


喉が渇く。


遠くに石造りの城が見えた。


周りには誰もいない。


他に手がかりもない。


私は城へ向かって歩き始めた。


やがて城門へたどり着く。


そして。


掲げられた紋章を見た瞬間、私は息を飲んだ。


「え……嘘でしょ」


見間違えるはずがない。


ラディエッタ王国。


何度も訪れた場所だった。


大人気オンラインゲーム『フロンティアクエスト』に登場する王国。


顔から血の気が引く。


心臓が大きく跳ねた。


「どうして……ゲームのラディエッタ城が目の前にあるの?」


◆◆◆


【 一か月前 】


フロンティアクエスト開発室。


イベント直前ということもあり、オフィスにはまだ多くの社員が残っていた。


タクミもその一人だった。


机の上のスマホが震える。


画面にはヒナの名前が表示されていた。


タクミは通話ボタンを押す。


「もしもし?」


『タクミ、ねえ、少しだけ話せない?』


ヒナの声はどこか元気がなかった。


だがタクミはモニターから目を離さない。


「ごめん。今ちょっと無理なんだ」


『そっか』


「納品終わったら休み取れるから」


『うん』


短いやり取りだけで通話は終わった。


タクミはすぐに仕事へ戻る。


次に時計を見たときは既に22:00を過ぎていた。


後輩のレンが遠慮がちに声をかけた。


「先輩、まだ帰らないんですか?」


「ああ、今日は泊り確定だな」


タクミは少しだけ笑う。


「お前こそ帰れよ」


「え?」


「最近、彼女でも出来たんじゃないのか?」


「そんなに分かりやすかったですか?」


レンは視線を逸らした。


「こそこそ、スマホばっかり見てるからな」


レンは申し訳なさそうに頭をさげた。


「ここは任せろ」


「はい、すみません」


レンは頭を下げ、会社を出て行った。


タクミは再びモニターへ向き直る。


気付けばオフィスは自分だけになっていた。



翌日の夜。


タクミは疲れ切った体を引きずりながらアパートへ帰宅した。


「ただいま」


部屋は真っ暗だった。


「ヒナ?寝てるの?」


ベッドの方に声をかけながら電気をつける。


タクミは狭い部屋を見渡すが、ヒナの姿はなかった。


そしてテーブルの上の紙を見つけた。


――なんだこれ?


タクミは首を傾げながらその紙を手に取った。


そこには短く書かれていた。


『さようなら。出て行きます。ヒナ』


「……は?」


もう一度、部屋を見回す。


そして、タクミは固まった。


ヒナの荷物がない。


服も化粧品も、いつも使っているマグカップも消えていた。


「嘘だろ……」


慌ててスマホを取り出し電話をかける。


出ない。


メッセージを送る。


返事はない。


もう一度電話する。


何度かけても繋がらなかった。


タクミは、昨日のヒナとの電話を思い出した。


『少し話せない?』


きっとあれで怒らせたんだ。


そうに違いない。


しばらくしたら帰ってくるかも。


そう思いながら、タクミは玄関に座った。


時計の針だけが進んでいく。


気付けば朝になっていた。


タクミは玄関にもたれかかったまま眠っていた。


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