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スーパードクター現る!

アーブ国内の僻地の牧場で、家畜がモンスターに襲われる事件が発生。

調査に乗り出したリヒト達探査隊だったが、現場に先乗りしていたのは医療隊名物隊員であるピーター=ディスコ・ファンケンシュタインであった!

ピーターのエキセントリックな言動に振り回されるリヒトとイーライ、果たして事件を解決できるか?

 アーブ王国の国営対モンスター災害組織エクスレイド。

 様々な分野のエキスパートに分割した隊を持ち、特に対モンスター魔術兵器チャリオッツを駆る攻撃隊がその花形とされる。

 そのほかモンスターが起こしたと思われる現象や痕跡などを調べる探査隊、国民からの通報などを受ける通信指令隊、モンスターを倒した後の事を担当する事後処理隊、国民に情報を伝える広報隊などを置いている。


 だがエクスレイドの活動は、なにもモンスターを駆除するだけではない。今回の事件の発端は、そんな案件から始まった。




 アーブ王国の僻地とも言うべき田舎町に、グランドモードのケイが現れた。


「しっかしこんな平和そうな田舎町なのによ、何があったのかねぇ?」

「前みたいに勘違いだったら割に合わないわね」

「でも今回に限ってはエクスレイドの医療隊が僕達を呼んだんだ、何かある事は確かだよ」

「それに勘違いだとしても、我々は動かなくてはならない。それがエクスレイドの義務だよヒオ」

「そっ、そうでした……えへへ」


 探査隊全員は念のため武装してケイを降り、森の方へ向かって進んでいく。


「なんで私達は呼ばれたの?」

「ああ、説明してませんでしたね」


 イーライの元に送られてきた情報によると昨日怪音や閃光が森の方からした後、森に住む無害なモンスターたちの悲鳴が聞こえ、何かと思っていると牧畜の為に飼われていたモンスターの一部が襲われていた形跡があり、これは一大事となって獣医が呼ばれ、その獣医からエクスレイドに通報が入ったという。


「なるほど……森のモンスターと家畜が襲われたと」

「なんだろう、食われたのかな」

「いいや違う、食われたわけではない」


 落ち着いた渋みのある中年の男声がして、リヒトとウェンディ以外の全員が固まった。


「この声は……」

「まさか……」

「居るとは思ってたけど……」


 ヴェルクとイーライとヒオだけではなく、アイリスですら固まっている事に不思議に思ってリヒトは小声で聞こうとした時、ウェンディの楽しげな声がそれを遮った。


「ファンケンシュタイン先生ぇ~っ!」


 さすがに振り返って見てみると、ウェンディが白髪の四十後半ぐらいの男に抱き着いており、その様子をリヒト以外の四人が半ばげんなりしているように苦笑して眺めていた。

 ファンケンシュタイン先生と呼ばれた男は、百八十センチを超えているリヒトと同じぐらいの背丈で、顔は恐ろしく鋭く強面だが笑顔は素敵で、グレイヘアーが似合うような男であった。

 

「ねぇ……誰?」


 リヒトは初めて彼と出会うが、皆は彼を知っているらしい。


「そうか、リヒト君は初めてだね……」

「紹介しますねっ! エクスレイド医療隊の所属で、アマティスタ時代の私の恩師!」

「ピーター=ディスコ・ファンケンシュタインだ、よろしく」


 ピーターはリヒトに手を差し出し、二人は握手を交わした。


「私の顔、栓抜きみたいだろ?」

「栓抜きって……どんな顔ですか?」

「鋭く尖りすぎていて怖い、そんな顔だよ。君は確かタツガミ・リヒト君だね、噂は聞いてるよ」

「良い噂だと良いですがね、医療隊って事は獣医ですか?」

「ああ、今の私は魔法獣医だ」

「へぇ、専門は?」

「腸管寄生虫」


 リヒトは思わず握手した手を見て微妙な顔を浮かべ、それを見たアイリス達四人が「言いたいことはわかる」と言わんばかりに頷き、ウェンディが腰に手を当てて頬を膨らませて言った。


「もう、先生またそれですか? リヒトさん困惑してるじゃないですか」

「冗談だよリヒト君、さあ諸君来たまえ、森の方へ行ってもらうぞ」


 ピーターは森まで探査隊を案内し、傷付いて虫の息のウサギ型モンスターのホップロップの前で立ち止る。


「見たまえ、こんなに傷付いている。生きているのが奇跡だ」


 ピーターが言う通りホップロップは辛うじて生きているといった様子で、もはや長くない事がリヒトの素人目でもわかる。


「だが奇妙な点がいくつかある、わかるか?」


 全員が目を凝らしてホップロップを見回していたが、ヒオが何かに気付いたようにハッとした顔をした。


「食べられてない! 傷付いてるけど、体のパーツは欠損してない!」

「その通りだ、今回被害に遭った家畜やモンスター達は全て捕食されておらず、ただ傷つけられているだけだ。それに傷の形状を見ると良い」


 ピーターがホップロップの傷に触れながら続ける。


「歯形が存在しない。つまり主に爪で傷つけられたと見て良いだろう」

「捕食を目的とせずに、(いたずら)に無害なモンスターを襲った狂暴なモンスターが居るという事ですか」

「ああ、その唾棄すべき凶獣がどこから来たか、ある程度見当がついている」


 森を出てから医療隊の仮設拠点へ向かい、ピーターはクォーツモニターにグラフを表示した。


「何か痕跡が無いかと思って個人的に調べていたのだが、面白いものが検出された」

「……マイナスエナジー!」

「そうだ、数日前に忘れ去られた神がアーブトピアの郊外に出現したと小耳に挟んだ。私が思うにそれでアンダーユニバースの扉が開き、ここに繋がり今回の事件が発生したと見ている」


 もしそんな事になれば危険極まりないだろう、だがそれ以上にリヒトには気になる事があった。

 どうして一介の魔法獣医であるはずのピーターが調査をして、このような見解を出すことが出来たのか。


「どうしてそんなことが出来るのかって顔をしてるな」

「ははっ、バレましたか」

「ファンケンシュタイン先生ってすごいんですよぉ、今は魔法獣医師やってますけど、いろんな分野に通じてて、沢山の資格を持ってるるんです」

「昔取った杵柄だよ」

「すごいな、ただの腸管寄生虫専門医かと思ってました」

「そう褒めてくれるな。これ以上は私でも分からなかったから、調査の専門家である君達を呼んだのさ」


 アンダーユニバースから来たと思わしき凶悪なモンスターの調査が今回の探査隊の任務となったようだ。


「既に無事な家畜とモンスターは医療隊(われわれ)で保護してある、思う存分調査してくれ」


 


 探査隊はアイリスとヒオとヴェルク、リヒトとイーライの二手に分かれ、森を中心に調査する事になったのだが。


「ハァ……」


 イーライは浮かない顔をしている。


「どうしたんだよ」

「だってさ……なんであの人も来るんだよ」


 リヒトとイーライの班に、ピーターが着いてきたのである。


「良いじゃないか、ちょっと変わってるけど優秀な人じゃないか」

「そりゃドクター・ファンケンシュタインが優秀なのは僕も認めますよ。けどねぇ、あの人の変人ぶりに振り回されたことがないからそんな事が言えるんです」


 確かに今も二人の後を付いて来るどころか先導し、マジックギターに似た魔道具を背負って忙しなく走り回って何か調べて回っている。


「あのマジックギター的なやつなに?」

「見てのままマジックギターです。あの人演奏が趣味なんで、自分の魔道具にも組み込んじゃったんですよ」

「おい! イーライ君! リヒト君! 来たまえ!」


 呼ばれた二人が小走りにピーターの元へ向かうと、何かの粘液で地面がひどく汚れていた。


「この粘液に似た液体を今回の現場でいくつか見たが、こんなに濃いものは初めて見た」

「すぐ分析します」


 イーライはワンドライフルで粘液をスキャンし、自分のクォーツパッドを覗き込む。


「これは……体液、それも血液に近い組成をしていますね」

「これが血という前提で考えると、おそらく今回の事件を引き起こしたモンスターが手負いになってここにしばらくとどまったという事になるね」

「それに見ろ、ここの粘液には足跡がない、つまり飛行する可能性があるという事だ」

「確かにそうですね、ここから飛び去った可能性が高い」

「もしくは……」


 リヒトは腰に手を当てて上を眺め、ある可能性についてぼそりと言った。


「何かに吸い込まれたとか」

「例えば?」

「位相の穴とか、丁度あんな感じの」


 イーライとピーターが即座に上を見ると、微かだが空がひび割れて、濃い青の光を放っていた。


「ああ……これは」

「亀裂が小さすぎて検知できなかったのか」

「例の奴が飛べるかどうかは分からないけど、奴は一度別位相に逃げ込んだようですね」

「念のためスキャンを」


 イーライがワンドライフルを向けて数値を計測していると、突然マイナスエナジーの値が跳ね上がった。


「みんな逃げろ! 今すぐに!」


 リヒトとピーターが反対を向いたその途端、空がひび割れて周囲に衝撃が走る。


「わっ!」

「くおっ!」

「チィッ!」


 三人は吹き飛びながらもなんとか体勢を立て直し、倒れた巨木の裏に身を隠す。

 

「どうやら傷を回復したようだな」


 巨木から顔を覗かせて様子を伺うと、いかにも凶悪な顔つきをした六つ目で鋭利な乱杭歯を持つモンスターが位相の穴から顔を覗かせていた。


「モンスターは見た目で判断するなとは言いますが……今回の犯人はあいつでしょうね」

「私も同意する、奴の目には嗜虐と破壊に満ちている」

「とりあえず追い払いますよ」


 リヒトがワンドライフルにアタッチメントを取り付け、目を狙って撃つも保護膜で防御されてしまい、その上こちらに気付かれてしまった。


「気付かれた!」

「だがいい腕だ、今度は口の中を狙うと良い」

「言ってる場合ですか! 逃げますよ!」


 逃走した三人を追うべくモンスターは空間を割って進撃し、長く鋭い爪を振り回しながら木々を揺らしながらこちらへ走って来る。

 

「ええいっ!」

「やっ!」


 リヒトとイーライがワンドライフルで攻撃して牽制し、閃光魔法弾を放ってこの隙に大きく距離を離す。


「洞窟だ! 飛び込むぞ!」


 ピーターの先導で洞窟に向かい、三人は飛び込んで身を隠すのだった。




「ハァ……ふぅ!」


 上がった息を整えつつ、イーライはクォーツシーバーで他の隊員に連絡を取ろうと試みる。


「こちら探査隊イーライ・ゴルドスタイン、聞こえますか? うぅ……ダメだ、マイナスエナジーのせいで魔術通信が上手く行きませんね」

「なんとかここを出て皆と合流出来ないかな」


 リヒトがワンドライフルにつけられた魔法ランプを点灯し、周囲を照らして状況を確認する。


「……静かに」

「え?」

「黙れ! 耳を澄ませてみろ!」


 ピーターの強い口調に思わず閉口すると、どこかから唸り声が聞こえた。


「何かいる⁉」

「そうだ。おそらく全高五十センチ、小型モンスターかあるいは……子供の個体か」


 空気に指を触れさせて口に含むと、ピーターは暗闇に向かって進み出し、慌ててリヒトとイーライが追いかける。


「ほら、私の見立て通りだ」


 リヒトが照らした先には、頭部に結晶体を持つ犬とイタチを掛け合わせたかのようなモンスターの子供の個体が、こちらを睨みつけて唸っていた。


「カーバンクルの巣穴だったのか!」

「ごめんよおチビさん、僕達は決して……おっと!」


 カーバンクルの子供が差し出されたリヒトの手に噛みつこうとし、リヒトは咄嗟に手を引っ込める。


「こりゃ気が立ってるぜ」

「こんなに気が立っているのも珍しい。もしや……」


 ピーターは暗闇の奥へ目をやると、ニッと笑ってカーバンクルの子供を見ながらマジックギターを爪弾き始める。


「何してるんですかドクター・ファンケンシュタイン」


 バラードチックな曲が洞窟の中で響き渡り、ピーターの低く優しい歌声によって徐々にカーバンクルの子供は次第に態度を軟化させていった。


「……すげぇ」

「私は現役の獣医だからな。落ち着かせるぐらい訳ないさ」


 カーバンクルの子供はどこかへ向かって走って行ったが、しばらくするとこちらを振り返って前脚を地面にトントンと叩き付ける。


「ついて来てほしいのでしょうか」

「私の見立て通りだな」


 三人はカーバンクルの子供に導かれて奥へと進むと、その子の親と思わしき大型のカーバンクルが横たわっていた。


「親ですかね」

「うぅ、酷い怪我だ」


 おそらく別位相から現れた先程のモンスターによって傷つけられたのだろう。

 (つがい)と思わしきカーバンクルが怪我を舐めているが、この程度では治らない事は明らかである。


「リヒト君、ランプの光をもう少し強められるか?」

「ええ、イーライも照らせるかい?」

「ああ、はいはい」

「良かった、私の鞄を照らしてくれ」

「一体何を……」

「決まってる」


 ピーターは鞄から医療器具を取り出して宣言した。


「私が助けるんだ!」


 


 ピーターはリヒトとイーライの手を借りつつ傷付いたカーバンクルに治療を施し、番や子供に見守られながら無事に処置を終えることが出来た。


「これでもう大丈夫だ。だが痛みが数日間は続くだろうから、それまで大人しくしていたまえ」


 子供と番のカーバンクルが安らかに寝息を立てる自分の家族を見て嬉しそうに鳴くと、子供のカーバンクルは再び洞窟を進んで三人について来るように促す。


「お、何だろう?」


 暫くカーバンクルについて行くと、なんと洞窟の別の出口と思わしき光が見えてきたではないか。


「恩返しか!」

「おお! いい子だ!」


 カーバンクルの子供はその場で二、三度飛び跳ねると、そのまま家族の元へ帰って行った。


 


「まあ出口は見つかったけど、少し休んでから行動しませんか」

「それがいいな、その間に奴について色々考えておこう」


 例のモンスターはバイオクローと名付けられ、イーライが一瞬の隙を突いてクォーツシーバーで撮っておいた写真を基に取れそうな対策を三人はあれこれ話し合った。


「奴は相当強いですよ、一度撤退したとはいえあれだけの数のモンスターを相手にして被害を出して回ったのですから。僕達三人で奴を倒すのは非常に難しい」

「だからこそ放ってはおけないんだ、モンスターも一つの命に変わりないが、それを徒に傷つけ奪うような者は、人であれ獣であれ神であれ決して許されない。そういった暴虐を振るうものを一刻も早く打倒せんと戦い、傷付く者を減らし癒すために知恵を絞る。それが我々の使命だ」


 ピーターの言う通り、エクスレイドになったからにはいかなる困難も立ち向かわなくてはならない。

 イーライは襟を正し、石の上に腰かけて頭を捻る。


「せめてみんなと連絡が取れれば事態も好転するんだけどね」


 リヒトが漏らした一言で、定期的にしていたピーターのフィンガースナップが止まった。


「そうだ、もう一度通信出来ないか?」

「え? ああ、はい」


 クォーツシーバーを起動するが、やはりマイナスエナジーの影響で通信が出来ない。


「やはりここでも無理ですね」

「イーライ君、通信を遮断しているマイナスエナジーの波形は分かるかね?」

「波形……ですか」


 クォーツシーバーのデータをクォーツパッドに転送したものを見て、ピーターはマジックギターを手に取った。


「なるほど……これで……こうだ!」


 するとマジックギターを中心に光のドームが形成されて三人を包み込み、リヒトとイーライは驚いたように周囲を見回す。


「マジックギターでマイナスエナジーの逆波形の音を出したんですね!」

「古来より音楽と魔法は切り離せない! どうだ? これで通信できるんじゃないか?」


 ピーターの言った通り、もう通信可能な状態になっていた。


『イーライか! アイリスだ!』

「すみません隊長! モンスターに追われていました。僕とリヒト君、ドクター・ファンケンシュタインも無事です!」


 イーライはアイリスがモンスターの性質とそれにバイオクローと名付けた事を伝えると、衝撃的な答えが返って来た。


「なんですって! バイオクローが複数体⁉」

『三十メートル級が複数体出現し、既にベディヴィア小隊が駆け付けて対応に当たっている。だがうち最も巨大な五十メートル級のバイオクローが恐らくそちらの方へ向かった。出来る事ならすぐに合流してくれ』

「分かりました……困ったな」


 一難去ってまた一難とはこの事だ、しかも五十メートル級のバイオクローとなれば、先程リヒト達を追い回したものよりも大きい。


「とりあえず動こう、ケイに行けば何とかなるかもしれない」

「場所はわかるかね?」

「ええ、おおまかには」


 三人は警戒しながら洞窟を出て、動き出そうとした途端、目の前に巨大な四本の棒が突き刺さった。


「うっ⁉」

「野郎! 僕達に気付いて待ち伏せしてたのか!」


 背後を見ると、巨大なバイオクローがリヒト達の行く手を阻むように爪を突き立てており、まるで嘲笑うかのように鳴き声を上げた。


「ドクター! 下がって!」

「何を言う! ハッ!」


 ピーターがマジックギターを構えて爪弾くと、複数の衝撃波がバイオクローへと飛来して怯ませた。


「それそんな事出来たんですか⁉」

「言ったはずだ! 古来より魔法と音楽は切り離せないと! 喰らえバイオクロー! ハァッ‼」


 ギターの音波と共にリヒトとイーライのワンドライフルから光弾が放たれ、バイオクローに命中するも全く効いている様子もない。


「逃げるぞ!」


 逃げようとした途端バイオクローの目から赤い光弾が放たれ、三人は吹き飛ばされて地面へ転がってしまう。


「ああっ……くそっ……」


 言葉を話さなくても分かった、バイオクローは明らかに自分よりも力なき者を甚振って楽しんでいると。


「……まずい!」


 木に頭を打ち付けて意識が朦朧としているイーライに、バイオクローが爪を向けていた。


「イーライ!」


 リヒトがスパークルトランサーを出現させようとした途端、何処かから白い光条が飛んで来てバイオクローの手を撃ち抜いた。


「は……カーバンクル⁉」


 なんと先程のカーバンクルの子供が、頭の結晶体から光条を放って助けてくれたのである。


「おい! 危ないぞ!」


 案の定激昂したバイオクローが爪を地面へ突き立てるも、カーバンクルは小さな体を活かして俊敏に攻撃を加えていく。

 だがしかしついに捕まってしまい、バイオクローの長い爪で摘まみ上げられて目の高さまで吊り上げられ、威嚇して咆えるカーバンクルに対し、バイオクローはまるで嘲笑うかのように鳴き声を上げる。

 

「お前だけは……」


 リヒトの怒りに呼応するように、炎のような輝きと共にスパークルトランサーが出現する。


「絶対に許さん‼」




 いざバイオクローがカーバンクルを潰そうとした途端、上空から猛烈な勢いで光が迫り、バイオクローを吹き飛ばした。


「この……光は……」


 朦朧とする意識の中でイーライが見たのは、こちらに背を向けるラクス・ブリザニングの姿であった。


「ラクス……来てくれたのか」

「おお……あれがルミナス・ギガントのラクスか……なんと美しい姿だ」


 ラクスはその手に乗せたカーバンクルの子供をピーターの方へそっと置くと、彼へ頷いて振り返り、両手を握り拳にして戦いの構えを取る。


「ゼッ!」


 走り出したラクスが思い切りバイオクローへ蹴りを叩き込む。


「ゼフゥワッ!」


 反撃許さず、炎に包まれた拳を連続で叩きつけて一度は大きく怯ませるも、バイオクローはすぐに激昂して自慢の爪でラクスの体を引き裂いた。


「ギィヨワァッ! ヌォアッ……ゼヤァッ!」


 一度は片膝をつくも、ラクスはグリッドスパークを投擲してバイオクローの片手の爪を切断し、そのまま戻って来たグリッドスパークをもう片方のグリッドブレスと合体させて、グリッドスパークランスを生成してバイオクローへと斬りかかる。


「イーライ君、大丈夫かね?」

「ええ……なんとか」

「それにしてもラクスは……相当怒っているようだな」

「えぇ、ラクスもバイオクローの所業は……許せなかったようですね」


 バイオクローの爪をグリッドスパークランスで防ぎ、ラクスはバイオクローを着実に攻めていく。


「ゼラァッ! トゥワッ!」


 リーチの差を活かしてバイオクローを押していたラクスだが、不利と悟ったバイオクローは跳躍して距離を取り、自分の六つの目から光弾を放ってきた。


「ゼッ!」


 ラクスは額の発光器官から螺旋状の冷熱光線であるスパイラルパンチを放って光弾を薙ぎ払い、それによって発生した爆炎に突っ込んで距離を詰め、グリッドスパークランスで何度もバイオクローを打ち据える。


「オオオオオオオッ! ゼヤァッ!」


 バイオクロー渾身の大振りの爪の一撃を弾き、ラクスはグリッドスパークランスの穂先を思い切り腹部に突き刺した。


「おお! 決まったか?」

「いいや、まだだ、奴はまだ生きている」



 ラクスの精神世界ではリヒトの精神を反映してか、ブリザニングの炎が空中で猛り、足元では波が荒れ狂っていた。


「お前みたいな奴は絶対に許してはおけない……お前がみんなに与えてきた苦しみをとくと味合わせてやる」

「スティームサージを使うんだな」

「ああ、息を合わせてくれよ」

「もちろんだ!」


 リヒトが腕を交差すると、右腕のスパークルトランサーに装填されているブリザニングジェムが輝き、周囲の波が一層激しく荒れ始めた。


「「ウオオオオオオオオアアアアアアアアアアッ!」」


 リヒトとソルティアの声が重なり、ラクスの力が高まっていく。



 バイオクローを突き刺したグリッドスパークランスを力の限り持ち上げて空に向けたラクスは、穂先にエネルギーを込めてバイオクローを空中に射出する。


「フッ!」


 ラクスはグリッドスパークランスを地面に突き刺すと、まず腕を交差してから広げて力を込め、全身を液状化させてから跳躍した。


「ゼェイッ!」


 ラクスが全身を液状化させた状態で空中のバイオクローに組みついた直後、バイオクローが苦しみ叫び藻掻き、それと同時に液状化したラクスの胸の辺りがオレンジ色に輝き始める。


「ンンンンンンンンンンンン!」


 ラクスの胸のオレンジ色の光は徐々に全身に広がっていき、バイオクローはラクスを引き剥がそうとするも全く触れることが出来ず苦しみ続けていた。


「ゼェイヤァァァァアアアアアアアッ!」


 オレンジ色の光が一瞬で真紅に変わった直後ラクスの体が大爆発を起こし、バイオクローごと吹き飛ばしてしまった。


「自爆した⁉」

「自爆する技……そんなものも持っているのか」

 

 数秒後、空中の一点に青い輝きが発生し、そこを中心にラクスの姿が再構築され、完全に元の姿へと戻った。


「元に戻る事も出来ると。ラクス、なんと凄まじい存在だ」


 先程の技はスティームサージ。

 全身を液状化させたラクスが相手に組みついた状態で自身の体を内側から炎で加熱し、水蒸気爆発を起こすことで自分ごと相手を吹き飛ばすブリザニングの時のみに使用できる技である。

 五十メートル台になった際のラクスの体重は約二十五万トンに上り、その体積が千七百倍にまで増加する水蒸気爆発は、いかなる相手だろうと容易く粉砕することが出来る。


「アァ……」


 ラクスは崩れて膝をつく。

 スティームサージは自分の体が破裂する程の熱を発生させる技であるため、使用後は体力を消耗してしまう、よって強力ながら多用する事は出来ないのだ。


「自爆技を使ったからか、ラクスも疲れているようだな」


 それでもラクスは立ち上がってイーライとピーターに手を差し出し、乗るように示した。


「乗せて行ってくれるんですね!」

「好意に甘えさせてもらおう」


 イーライとピーター、そしてカーバンクルの子供がラクスの手に乗り、それを確認したラクスは跳躍してケイの方へと飛ぶのであった。




「おいミラ、ラクスだぜ!」

「え? 本当だ! 誰か持ってるみたい」

 

 アルフレッドが目を凝らすと、イーライとピーターの姿が確認できたため、即座にアイリスへと通信を入れた。


「アルフレッドです、ラクスと……彼の手中に居るシュナイダーとファンケンシュタイン先生を確認しました。二人とも無事なようです」

『そうか、良かった! 引き続き我々はバイオクローの掃討、必要によってラクスの援護を行う』

「了解、聞いたな?」

「おう! ジュースティングショットだ!」

 

 マティアスの宣言と共にミラとアルフレッドが魔術砲を展開して各自三体のバイオクローに照準を定める。


「発射!」


 槍の形状のオレンジ色の光弾が伸び、纏めて九体のバイオクローを爆散させてしまった。


「ゼッ!」


 ラクスも飛行したままスパイラルパンチを放って大小関わらず薙ぎ払い、一体を残してバイオクローは一掃されてしまった。


「シュッ!」


 着地したラクスはイーライとピーター、そしてカーバンクルの子供を下ろし、それを見たアイリスとヒオとヴェルクが駆け寄って来た。


「心配かけてごめんなさい! 僕は無事です!」

「済まなかったな。巨大なバイオクローはラクスが退治してくれたからもう安心だ」

「もう心配したんだからね……ってこの子は?」


 カーバンクルの子供はラクスの手を降りた途端にその場を飛び跳ね、ヒオは思わず笑みをこぼす。


「このカーバンクルに助けられたんですよ。でもなんでかついて来ちゃって」

「私とリヒト君とイーライ君が洞窟で迷った時にこの子が道標となり、バイオクローの攻撃を逸らしてくれたのだ」

「そうだったんですか……ん、待ってくださいドクター、リヒトはどこに?」

「ゼッ!」

「ああ、そういえば……」


 皆がリヒトを探し出す前に、残った一匹のバイオクローが空中に向かって割れんばかりの大音声で咆哮し、それと同時に空中に巨大なひび割れが発生して、そこから大量の翼をもつバイオクローが出現した。


「何てことしやがんだ死にぞこないめ!」

「これだけの量! ラウンドナイツ全員集めても足りない!」

 

 皆が驚愕と絶望感に包まれる中、ただ一人立ち上がった者が居た。


「ラクス……」

「流石のラクスでもこの数相手じゃ……」

「大丈夫だ」


 力強い口調だったがどこか諭すような声で、ピーターは皆を落ち着ける。


(ラクス)は我々を信じている。我々が彼を信じないでどうする?」


 ラクスは腕を横に伸ばすと地面に突き立てたグリッドスパークランスを引き寄せ、振り回して構えると、穂先に隠されたギミックを起動した。


「穂先が十文字槍になった!」



「リヒト、我々は既にスティームサージを使った後だ、それをやるのは危険じゃないか?」


 精神世界の内部で語り掛けてきたソルティアに対し、リヒトはニヤリと笑って返す。


「何言ってんだよ、丁度温まってきた所じゃないか」

「ギリギリの環境でこそ笑ってぶつかれ……君のお父上の教えか」

「そうさ、それにサージしてもメテオシンボルが赤くならなかった。今の僕達ならあいつら全部切り刻むなんてわけないだろ」

「フッ……そうだな、今の君と私なら!」

「ああ、行くぞソルティア!」


 スパークルトランサーのブリザニングジェムが、眩いばかりに輝いた。


 

 十文字槍となったグリッドスパークランスにエネルギーを送り込むと、右側の枝刃が氷に、左側の枝刃が炎に包まれ、その状態で槍を脇に挟むと跳躍して単身バイオクローの群れに突っ込んでいった。


「なんて速さだ!」

「うぅ~、私でも見切れない!」


 バイオクローの群れへとラクスが到達した途端、その中でラクスは凄まじい速さで動き回り、オレンジとスカイブルーの軌跡を残しながらバイオクローを次々と切り裂いていく。


「シアッ……ヌゥンッ!」


 着地したラクスはグリッドスパークランスを振り回して穂先を地面に向けると、柄を軽く拳で叩いた。


「ゼヤッ!」


 ラクスが柄を叩くと同時に穂先が直刃に戻り、その背後のバイオクローの群れが連鎖爆発を起こして完全に消滅してしまった。


「……なんつーか、もう言葉が出て来ねぇな」

「光すら置き去りにする速さか」


 全てのバイオクローを一掃したラクスはグリッドスパークランスを収納すると、大きく呼吸するかのように肩を上下させ、空を仰いだ。


「……ゼワッチ!」


 こころなしか少し疲れた声色で、ラクスは空へと飛び立つのだった。




 圧倒的な量のバイオクローに埋め尽くされ一時はどうなるかと思ったが、ラクスによって全て撃破された事でエクスレイドは安堵した。


「まだまだラクスの全容は未知数ですね」

「センパイ、研究が楽しみって顔してますね」

「ああ、地球外生命体なんて、ここでは滅多に拝めないからね」

「まあ無時事態が収束したのは良いけど、な~んか大切な事忘れてるような気がしてならないんだけど……皆もそう思わない?」


 ヒオの言う通り、何かを忘れているような気がする。


「なんだろうなァ? 確かに忘れてるような気がしてならねェな」

「……あ、リヒトだ!」

「ああっ!」


 そう言えばそうだった、リヒトの姿がどこにもない。


「まさか……あの時バイオクローに⁉」

「おぉ~い!」


 皆が振り返ると少々疲れた様子のリヒトがこちらに向かって歩いてきた。


「なんだよ、やっぱ無事だったのかよ」

「無事? こっちは大変だったよ。吹っ飛ばされて二人と逸れちゃってさ、ここまで歩いて戻って来たんだ」

「危なっ! よく無事だったね」

「それでも大して傷がなくここまで来たんだろ?」

「やはり君は不死身だな」


 楽し気に談笑する探査隊を見て、ピーターは笑顔でその場を去った。


 

 

 撤収作業を終え、帰路に就いていると、医療隊の同僚がピーターに話しかけてきた。


「ファンケンシュタイン先生、今日は災難でしたね」

「ああ、しかし位相の穴が開く瞬間や、ラクスを間近でこの目に収めることが出来た。貴重な経験をしたよ」

「そのラクスの事なんですが、ラクスの正体とかって……見たりしました?」


 ピーターは小さく笑い、バイオクローに遭遇した時の事を思い出す。


『お前だけは……絶対に許さん‼』


 自分と同じ現実世界からやって来た青年が、正義の怒りを爆発させて光となって天に昇り、ラクスとなって再び現れた所を、確かにピーターは見ていた。


「いいや、見なかった」

「そうですか、ちょっぴり残念」

「謎は謎のままでいい場合があるのさ。だがいずれ正体が明らかになると良いな」


 リヒトの顔を思い浮かべながら、ピーターはハイポリアの未来がきっと明るいだろうと微笑むのであった。



 

To Be Continued.

ピーター=ディスコ・ファンケンシュタイン先生、実はモデルになった人物が居ます。

個人的にも大好きなキャラなので、いつか再登場すると思います。

ラクスの方も絶好調、まだまだいろんな技がありますよ!

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ではまた来週!

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