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『最果て』の先、『終わり』を望む魔女  作者: まるまるくまぐま
一級魔導士フレデリカ
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可愛がり

「お戻りになられたようね…」

 師の魔力を感じたセラフィマが呟きに、

「サロメちゃん以来、二千と数百年ぶりの妹弟子ですね〜、フレデリカちゃんに耐えられるでしょうか~?」

 おっとりと笑うヒルメ。

「サロメよりも手の掛かる妹はごめんだわ。」

 溜息を漏らすセラフィマに、

「でも、セラフィマ姉さんは手の掛かる子程可愛がりますよね?」

 ふふっ、と笑うヒルメ。

「ヒルメは冷淡過ぎるのよ…『極東の慈母』、とんでもない皮肉としか思えないわよ。」

 慈愛の魔女と称される妹弟子の実質を知る彼女は、そう呆れた様に言う。

「お師匠様の願いを叶える…それが私たち弟子の使命であり、悠久の時を生きる私たちの支えでしょう?」

 それに対し、『最果て』に到った魔女らしい歴戦の猛者の目で言った後、

「何一つ恥じることはしてませんよ~。」

 穏やかな表情と垂れ目に戻り、おっとりと笑う。


 そんなヒルメの姿と言葉に、セラフィマは肩を竦めながら溜息混じりに言う。

「メヌエール・ド・サン・フレデリカ…新たな妹への祝盃を用意しましょう。」

 

 セラフィマがパチン!と指を鳴らすと、氷の机とグラスが本の散乱した部屋に現れた。




−−−−−−−−−−−−−−−−−

−−−−−−−−−−−−−

−−−−−−−−−



 ぐるぐると真っ暗な世界が回る。

 正確にいえば、真っ暗なので本当に回っているのか分からないのだが、なんとなく回っている…そんなグワングワンと頭が揺れる気持ち悪い感覚の中にいた。

 魔法の祖、始祖アフロディナ。

 魔法の初等教育、基礎の基礎よりも先に学ぶ創造者。

 あらゆる魔法使いにとって、魔法を悪と捉える神を崇める教会の教えよりも貴い存在が始祖アフロディナである。

 

 人の歴史の始まりから存在し、『終わり』の魔女と称され、世界を調整を行うと謂われる魔法の女神。

 そんな神話の存在が実在し、二度も自身の眼前に現れ、二度とも叩きのめされた。

 『シラクサに行く』、そう夢見るフレデリカにとって、その事実は受け入れられなかった。

 

 アフロディナの住むといわれる場所こそ伝説の聖地『シラクサ』であり、広義的見れば、彼女の存在している場所が『シラクサ』であるのだから。



−−−−−−−−−−−−−−−−−


「…!!」

 真っ黒な夢の世界から瞼を開いたフレデリカは、反射的に起き上がろうとした。

 …が、柔らかくも弾力のある何かに弾かれた。

「そんな急に起き上がった駄目ですよ~。」

 聞き覚えのあるおっとりとした声と弾かれた衝撃でフレデリカの意識が覚醒した。

「お師匠様の魔力に当てられたんですよ~、もう少しゆっくりしてましょ〜。」

 優しくフレデリカの頭を撫でる手と、後頭部に伝わる柔らかな感覚…そして何より目の前に広がる乳の壁。

 フレデリカは自身の置かれた状況を悟る。


 銀髪の魔女、あの女の魔力に当てられ意識を失った。そんな自分を『最果て』の魔女ヒルメが膝枕しているのだと。

 

「泣かなくてもいいんですよ~、お師匠様は特別ですから〜。」

 ヒック、ヒックと泣きじゃくるフレデリカ。そんな彼女の胸を、赤子を寝かしつけるように鼓動と同じ間隔で優しく叩きながらヒルメは囁く。

「魔力酔いしても仕方ありませんよ~。」

 ヒルメの続く言葉に、フレデリカは嘔吐した。


−−−−−−−−−−−−−−−−−


 『魔力に当てられる』

 それは魔法使いにとって最大の屈辱である。

 彼我の魔力差が余りにも圧倒的な時、魔法を使わずに気力を奪われる現象である。

 これをされたら、どうやっても勝てない相手という格付けが済んでしまう。

 そんな魔法使いのプライドをズタズタに切り裂く程の力量差を示す者である。

 そんな『魔力に当てられた』屈辱に泣き崩れたフレデリカに、ヒルメは容赦無い言葉を放った。

 『魔力酔い』

 『魔力に当てられる』の数十倍酷い、魔力さえ持たないに等しい評価。

 魔力を持たぬ故に魔力に抗えなかったという、魔法使いにとっての最高レベルの貶し。


 自尊心の塊であり、自分こそ最高の存在と信じて止まぬフレデリカにとって、受け入れ難くも、回避出来ぬ突き付けられた現実に嘔吐した。

「あらあら…袴が汚れちゃいました~。」

 フレデリカの吐瀉物に汚れた袴を見て、ヒルメは笑う。

「弱いですね~、フレデリカちゃん。」

 一瞬光を放ったヒルメの手刀にフレデリカは弾き飛ばされる。


「クフッ…天才のザコちゃんだぁ。」

 そんなフレデリカの頭を踏みつける褐色肌の女。

「ッ…ァァッアーーー!!」

 激痛にフレデリカが泣き叫ぶ。

「良い声で鳴くね…もっと泣き叫べよザコ!!」

 死なない最低限度の攻撃でフレデリカを甚振るサロメ。

「ほら、泣き叫んで謝れ!!ごめんなさいサロメ様ってさ!!」

 サディスティックに嘲笑うサロメに切り裂かれ、打たれ、絶叫するフレデリカ。

「安心していいよ、殺さないから。」

 激痛と絶望に悶えるフレデリカの髪を掴み、サロメは邪悪に嘲笑う。

「殺さない…でも、殺してくれと叫んでも殺さない。サロメちゃんは絶望や諦め、未練…その先の表情が欲しいの。」

 サロメの言葉にフレデリカは青ざめ、込み上げた胃酸を吐き出す。

 

 狂気的な笑みを浮かべ、残虐に暴力を振るうサロメによって血みどろに切り裂かれ、殴打により砕けた骨が皮膚を突き破り、見るも耐えない姿となったフレデリカ。辛うじて繰り出す反撃も、サロメの前には無意味だった。

「やだ…もういや…痛いのはいや…」

 フレデリカは虫の息で言葉を紡ぐ。

「じゃあ、死ぬ?」

 その言葉を聞き、セラフィマ氷の槍をフレデリカの喉元に突き付けた。

「セラフィマ様…」

 死を直前にしたフレデリカは、憧れの魔女の姿を前に、泣き叫んだ。

「嫌…死にたくない!!」

 ボロボロと涙を零し、砕け、血まみれの身体を必死に動かし槍の矛先から逃れようとする。

「死んだ方が楽よ?ここで死んだら、アナタは史上最年少で一級魔導士となった天才。生き残れば無様な敗北者。それでも生きたいの?」

 芋虫の様に這うフレデリカの喉元に演りを突き付けながら、セラフィマは汚物を見る様な冷淡な瞳でフレデリカを見下ろしながら言う。


「一級魔導士なんか通過点…死んでたまるかっ…『最果て』に辿り着き、最強で最高なフレデリカ様に世界が跪く…それまで死ねないのよっ!!」

 底をついた魔力を絞り出し、自身に回復魔法をかけながら、息も絶え絶えに言うフレデリカ。

 生きようとする彼女の執念と自尊心に、セラフィマが槍を再びフレデリカに突き付けると同時に、ヒルメとサロメも同様に刃の切っ先を突き付けた。


「お師匠様、御判断を。」

 『最果て』に到った魔女三人に刃を突き付ける状態でセラフィマは師に問う。

 そんな一連の光景を、ハンモックの上から眠気眼で眺めていた始祖アフロディナは、銀色の髪から粒子のような光を撒き散らしながら伸びをした。


 それと同時に、フレデリカの致命傷ともいえる傷が一瞬で癒え、三人の『最果て』の魔女が跪く。

「『最果て』が貴様の望みか?志しの低い小娘だ。」

 大きく欠伸をしたアフロディナ。


「貴様の望みは叶えてやる。故に我が望みを叶えよ。」

 突如眼前に広がる銀色の髪と真紅の瞳。

 フレデリカにとってアフロディナが、認識することの出来ない速度…それこそ、光よりも早く動いたとしか思えなかった。

 漏れ出す魔力やそこから感じられる圧力、『最果て』が有象無象に感じられる程の格の違いに、フレデリカは押し潰され、自身が消え去ったかの様な感覚に苛まれ、息を吸うのも、吐くことも出来ずに、涙を流し必死に尻餅をついた姿勢で後退る。


「うわぁ、汚ったなぁーい。天才フレデリカちゃんは十四歳にもなってお漏らしするんだぁ~。」

 呼吸困難に陥り、涙と涎、鼻水でぐしゃぐしゃになりながら、逃げ場を失ったフレデリカの姿をサロメが嘲笑う。

 サロメの言葉通り、フレデリカは恐怖の余り無意識に失禁していた。

 普段なら、そんな嘲りや失態を我慢出来るフレデリカではないが、この時、フレデリカにとって目の前の恐怖以外見えていないし、何も聞こえていなかった。

 

 そんなフレデリカの動きを押さえ付ける様に、フレデリカの影が動き出し、彼女を縛る。

「恐れるな、すぐに終わる。」

 ヒューヒューと呼吸出来ずに苦しむフレデリカの顔に、アフロディナが顔を寄せた。





 




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