温泉
「お疲れ様でした~。」
社へと戻ったフレデリカたち三人を、まるで戻ってくるタイミングが分かっていたかのようにヒルメが出迎える。
「師匠ー!!」
ピィピィと泣きながらヒルメに駆け寄るアイア。
「蛇に噛まれたぁー!!」
「あらあら〜。二人は大丈夫ですか~?」
そんなアイアに手早く治癒魔法を施しながら二人に尋ねる。
「はい、先生。私は大丈夫です。」
「私があの程度の相手に手傷を負うなんて有り得ないわよ。」
サッポーとフレデリカが無事であると、そう返答する。
「無事で何よりです~。それじゃあ、一日の汚れを落としましょう~。」
二人の返答を聞き、ヒルメはそう言って笑った。
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「アイア、アンタまた大きくなったんじゃない?背は全然伸びない癖に…」
服を脱ぎ、丁寧に畳みながら、隣で裸体となったアイアに向けて言うサッポー。
「そ、そうかな…僕は、サッちゃんみたいに背が高くてスラッとしたいなぁ…」
恥ずかしそうに大きく育った胸を隠すアイア。
「チッ…死ね!!殺してやろうかしら…」
そんな二人のやりとりを、少し離れた所で聞きながら、フレデリカは舌打ちしながらそう言葉を漏らす。
「フレデリカちゃん、ダメですよ~。そんな乱暴な言葉を使っちゃあ〜。」
そんなフレデリカの隣で衣服を脱ぎ始め、一枚ずつ丁寧に畳むヒルメ。
「フレデリカちゃんは今でも十分可愛いですよ~。フレデリカちゃんにはフレデリカちゃんの良さがありますから〜。」
フニャっとした声でそう言ったヒルメは、その巨大な胸を押さえつけていた布を取り払った。
デカい、とか、大きい、とか、そんな表現が生温い、デカ過ぎる、とか、大き過ぎる、という表現でさえ不足する程のそれが正体を表した。
「アンタが最大の敵ね…」
その瞬間、フレデリカがアイアに向けていた殺意、その全てが一斉にヒルメに向かった。
「大きくても良いことは無いですよ~?」
持つ者は、持たざる者の心など分からない。残酷なヒルメの言葉に、フレデリカは拳を強く握った。
「ふにゃぁ~…生き返るよぉ~…」
身体と髪を洗い、湯に浸かったアイアは、緩んだ顔になり、自然と声を発する。
サッポーやヒルメも、アイアの様に声は出さずとも、フニャりと顔を緩ませて湯船に肩まで浸かっている。
「熱っ!!それになんかヌルヌルする!!」
そんな三人とは対称的に、湯に入れずにいるフレデリカ。
「温泉なんだから、独特のヌメりとか匂いはあるわよ。お湯に浸かるのって、初めは抵抗あるけど、良いものよ。」
リラックスしきった表情でそう言うサッポー。
「アイアも最初は怖がって入れませんでしたね~。今は一番の温泉好きになりましたけど〜。」
長い黒髪を束ね、手拭で纏めた姿で湯に入ったヒルメは、アイアを見ながらそう言う。
「温泉に出会えた。僕にとって一番の幸福だよぉ。」
へニャとした表情でそう答えるアイア。
「ほら、風邪ひくわよ。早く浸かりなさい。」
拒むフレデリカを湯に引きずり込もうとするサッポー。
「離しなさいよ!!」
抵抗なくするフレデリカ。
「あら?怖いの?」
「はぁ!?怖くなんかないわよ!!見てなさい!!フレデリカ様に怖いものなんてないわ!!」
サッポーの言葉に激高し、勢いよく湯船に浸かるフレデリカ。
不快な表情を一瞬浮かたが、直ぐに緩んだ表情になる。
「フレデリカちゃんも気に入ってくれたみたいですね~。」
そんなフレデリカの様子を見て、ヒルメは満足そうに頷いた。
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「メヌエール・ド・サン・フレデリカ…」
あちこちで山積みとなった本、散乱した紙や道具。
足の踏み場もない程に物で溢れ返った空間。そんな障害物を避ける様に高く吊るされたハンモックに横たわる女は、真っ白な表紙の本の、これまた真っ白なページを捲りながらそう呟く。
「纏めるにはまだ早いか…」
結局、表紙も中身も全て白紙の本を床に放り、小さく欠伸をする。
「チェチェリミナ・ロジオーノヴナ・セラフィマ…」
そう女が呟くと、一冊の本が彼女の手に収まる。
「近々、『終わり』を記さねばならぬのか…こればっかりは、何度やっても慣れぬな。」
悲嘆の表情で本を捲る女。
「『終わり』となることを望むと思っておったが、結局、他の者たちと同様、『終わり』を望むのだな…」
疲れた表情で本を閉じる。
「ダル…寝よ。」
ゆっくりと瞼を閉じようとした時、ふと閉じ込めている弟子を思い出し、声を聞いてみる。
「クソババアっ!!」
相変わらず悪態をつく元気があるようで安心し、更に厳しいお仕置きを課すことを決めると、大きく欠伸をして微睡みに沈むのだった。
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ヴェージマ、ヘクセ、ソルシエール、マギサ、ストレガ…
様々な呼ばれ方をする女。
魔法使いの始祖とされ、伝説上の人物とされる彼女は実在し、今尚生き続けている。
彼女がいつから生きているのか、本当の名は何なのか…最早彼女自身でも曖昧になる程の永い年月を生き続けている。
彼女に関して唯一、明白に分かってるいるのは、歴史上『最果て』の更に先に辿り着いた唯一人。
『最果て』の先、『終わり』へと至った魔女であるということだけであった。




