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『最果て』の先、『終わり』を望む魔女  作者: まるまるくまぐま
見習い魔法使いフレデリカ
25/45

神蛇討伐

「それにしても、本当に何にもないわね…」

 神蛇こと、変異種の蛇の討伐に向かったフレデリカは、サッポーの誘導の下、泣きじゃくるアイアを引き摺りながら、村から延びる森の中の道を進みつつそんな感想を漏らす。

「何も無いから良いのよ。さっき村長さんも言ってたでしょ。滅多に人が来ないから、私たちが居ても問題にならないんだから。」

 フレデリカの感想に、サッポーはそう返す。

「サグメって、変な国ね。術式にせよ、文化にせよ、他との交流を嫌う傾向の癖に、独自性だけで他と渡り合えるんだから。」

 フレデリカの知るサグメに関する知識では、『最果て』の魔女、アメノ・ヒルメの出身地であり、排他的な文化の癖に模倣からの改良は得意で、独特の技術で世界でも一定の水準以上の国力を維持出来る特異性を持った国家であるという認識だ。

 そんな国で、ヒルメによって保護されている者たちの中には、サッポーやアイアを筆頭に、複数人の異国の者たちがいる。

 そんな彼らが、この排他的な国で隠れて生きていくには、孤立した集落こそが、新天地であるということだろう。

「アンタ、出身は何処なのよ?」

 異国の集落で生きることになった孤児に、フレデリカは僅かながら興味が湧いた。

「ヘレーンのアレティナよ。賊に街が襲われて、パパもママも、目の前で殺されたわ。私は、奴隷商人に売られそうになる直前で先生に助けられて此処に来たわ。」

 淡々と答えるサッポー。ヘレーンとは、フレデリカの出身地であるゴーシュ大陸の南端に飛び出る様にある半島国家。その国家の北端に位置する都市がアレティナである。

「私はランフのパンパール出身よ。まあ、アンタとは違って、両親も兄弟も健在だけどね。」

 サッポーの顔を見ずにフレデリカはそう言う。

「そう、パパとママを…家族を大切にしなさいよ。」

 フレデリカの言葉を羨ましがる様子も、恨ましく思う様子もなく、只、自分が出来なかったことを悔やむ様に言うサッポー。

「大切ねぇ…そう言われても、関わりたくないのよ、お互いに。」

 フレデリカは、遠くを見つめてそう返す。彼女の暮す家にメヌエール家の者はジェルマンとフレデリカしか居ない。

 彼女の他の家族は、別の場所で暮らしている。フレデリカは、ジェルマン以外の家族に会ったのは、四歳の時。

 使用人の様に彼女に媚びへつらう両親と、憎しみの籠もった目で彼女を睨み付ける兄や姉たちの姿。それが最初で最後の家族との面会だった。

「血の繋がりよりも、貴いものはいくらでもあるわ…」

 不機嫌そうに言うフレデリカ。

「そうね…先生に拾われてから、パパやママを思い出して辛いことも多かったけど、今は楽しいわ。アイアやいろんな子のお姉ちゃんnIなれたし、何より、先生に恩返しがしたい。そう思えるのだから、血の繋がりよりも濃い繋がりってあるのよね…」

 しみじみと言葉を返すサッポー。

 二人の耳には、木々のざわめきと、鳥たちの鳴き声。そして、アイアの泣き声だけが聞こえていた。



−−−−−−−−−−−−−−−−−


「この辺の筈なんだけど…」

 村長の言っていた場所に着いたのか、サッポーが辺りを見回すが、それらしき蛇の姿は見えない。

「どの程度のサイズか知らないけど、探せばすぐ見つかるわよ。」

 神蛇と騒がれる程の変異種なら、かなりの巨体となる筈。楽観的に言うフレデリカは、箒から伸ばしたアイアの縄を解き、上空に舞い上がった。

「あの辺りが怪しいわね…それとも…」

 フレデリカが、蛇の習性を考えながら森を眺めていた時だった。


「アイア!!」

 サッポーの叫びが森に響いた。

「あのバカッ!!自分の身くらい自分で守りなさいよっ!!」

 フレデリカは箒を急加速し、急降下する。

「アイア!!…アイアを離しなさい!!化け物!!」

 大蛇の口から飛び出た足を必死に掴み、引っ張るサッポー。

「ぅわーん!!痛いよぉー!!暗いよぉー!!怖いよぉー!!」

 情けないアイアの籠もった声が聞こえる。

「邪魔よ!!退きなさいっ!!」

 アイアを助けようとアイアの足を掴むサッポーを、フレデリカは乱暴に払いのける。

「全力で強化しなさいよ、無駄乳!!」

 アイアに向けそう怒鳴り、フレデリカは天より一閃の雷を落とした。


 大蛇が絶叫した様に口を開き、黒焦げになる。

 それと同時にヌルン、とアイアがその口から落ちてきた。

「うぇぇん!!ヌルヌルするよぉー。臭いよぉー!!」

 大蛇の体液でドロドロになったアイアが泣き叫ぶ。

「アイア…アイアッ!!」

 そんなアイアにサッポーは抱き着く。己の衣服や身体が汚れるのも気にせずに。

「こんな雑魚に情けないわね…」

 そんな二人をフレデリカは呆れた様に見ていた。


「くしゅん!!」

 アイアのくしゃみが森に響く。

「ほら、もっと火の傍に寄りなさい。」

 震えるアイアをサッポーが火の傍に寄せる。

 あれから、大蛇の体液に汚れた二人は森の中の池で衣服共々身を清め、衣類を乾かしつつ、真っ裸で焚き木に当たっていた。

「みっともないわね…」

 サッポーの年相応の、そして、アイアの年不相応の膨らみを見ながら、フレデリカは舌打ちしながらそう言う。

「ねぇ?魔法で服を乾かしたり出来ないの?」

 不機嫌なサッポーがそう問うた。

「出来るわよ。まあ、アンタらにしてやる気は微塵もないけど!!さっさと行くわよ!!真っ裸でも問題無いわよね!?」

 明らかに不機嫌なフレデリカは、真っ裸の二人をそのまま歩かせようとし始める。

「わぁーん!!師匠ー!!助けてぇー!!」

 引っ張られて泣き叫ぶアイア。フレデリカの標的は、当然の如くアイアであった。

「偉そうなこと言って、出来ないってことね。」

 そんなフレデリカにサッポーはそう呟く。

「はぁ!?アンタ、今なんて言った!?出来ない!?このフレデリカ様に不可能なんてないわ!!」

 過敏に反応したフレデリカは、二人の衣服を瞬時に乾かす。

「流石ね、疑って悪かったわ。実際に着て、完璧か確めても良いわよね?」

 そう称えつつも衣服を手に取るサッポー。

「ええ、勿論よ。」

 フン!!と胸を張るフレデリカ。

 

 やっぱり、扱い易い。

 サッポーはそう確信しつつ位服を纏った。

「僕も着させてよぉー!!」

 真っ裸のアイアの、悲痛な叫びを聞きながら。


−−−−−−−−−−−−−−−−−


 大蛇討伐後を報告した三人は、転移を行った社に向かう。

「村長さん、驚いていたわね。」

 黒焦げになった神蛇を証拠として引き渡した時の村長の様子を思い出し、サッポーは言う。

「無礼極まり無いわ。このフレデリカ様にとってあんな大蛇如き、雑魚でしかないのはコモンセンスなのよ!!」

 サッポーの言葉に、フレデリカは不機嫌そうに答える。

 村長たちにとっては、まさか、よく分からない不躾な異国少女が、彼らの恐れる神蛇を倒せると思っていなかったのだろうが、その評価が、フレデリカの機嫌を損ねていたのだった。

「まあ、良いじゃない。これで、アンタの名もサグメに轟くんじゃないかしら?」

 おだてつつも流すサッポー。

「世界に燦燦と輝くフレデリカ様を知らない時点で許されないことだけど、そういうことにしておいてあげるわ…」

 不服そうに納得したフレデリカは、

「さっさと帰るわよ。私はあの乳牛から聞きたいことがあるのよ!!」

 アイアとサッポーに向かって怒鳴るのだった。


「助けてぇー!!」

 社も目前に迫った時、アイアの情けない悲鳴が響く。

「今度は何よ!!」

 呆れた様に怒鳴るフレデリカ。

 泣き叫ぶアイアの右足に、一匹の蛇が噛み付いていた。

「この蛇、あの蛇に似てる…」

 アイアの足から蛇を離しながら、サッポーはそう言う。

「あの変異種の子どもみたいね…」

 その子蛇を見てフレデリカはそう呟き、

「研究に使えそうね。」

 容赦なく魔術の檻に放り込んだ。

 そんな情けも容赦も無いフレデリカに呆気にとられた二人。


「それにしても…」

 そんな二人の内、アイアだけを見つめてフレデリカは言う。 

「呆れた…信じられない程弱いわね。」

 幼体の蛇にさえ負ける魔法使いが、これまでの歴史上存在したであろうか!?有り得ない!!

 蛇や蛙、蝙蝠や蜥蜴は、魔法使いにとって、使役する使い魔。それに負け、泣き叫ぶなど、魔法至上主義のフレデリカにとっては、言語道断であった。


 ヒルメに見捨てられたら殺そう。


 箒に横座りし、頬杖を付きながらアイアを見下ろすフレデリカは、そう誓ったのだった。

 






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