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『最果て』の先、『終わり』を望む魔女  作者: まるまるくまぐま
見習い魔法使いフレデリカ
20/45

尊大なる自尊心

「私に何を言いたいわけ?」

 見慣れない木造の建物−サグメ特有の建築物−の中、ヒルメと二人っきりとなったフレデリカは、覇気のない声で問う。

「初めて人を殺した気分はいかがですか〜?」

 責める訳でも、褒める訳でもなく、本当に言葉のまま、今ある真実を問う声。

 その言葉をそのまま受け取ったフレデリカは、何かを言おうとしたが、すぐに吐き気が込み上げて、口を押さえる。

「そうですよね~。初めては皆そうです…それで正常です~。まあ、サロメちゃんは例外ですけど~。」

 ほんわかとそんなことを言ったかと思うと、『極東の慈母』と称されるヒルメとは思えない、ゾッとする様な冷たい目で続けて言う。

「私たち…現在『最果て』に到っている魔法使いたちの時代では、そんな心傷に浸る暇もありませんでしたけどね。」

 その言葉を紡ぐ魔女の眼は、まるで、深い闇の入口の様であった。



−−−−−−−−−−−−−−−−−



「セラフィマ姉さんも、私も、サロメちゃんも、毎日誰かを殺していましたよ〜。そうしなければ、自分が死んじゃいます〜。そんな時代でしたから〜。」

 のほほんとした雰囲気に一瞬で戻ったヒルメは、そんな恐ろしいことをサラリと言う。

「死体を見たことの無い者など、ほんの一握りの温室育ちだけでした~。当たり前の様に人が、死んでいました~。戦争だったり〜、喧嘩でも〜。本当に、人の命の価値が低い時代でしたよ〜。」

 どこか遠くを見つめて言うヒルメ。

「そう考えたら、今はとても良い時代です~。フレデリカちゃんの様な子供が、腐敗した死骸を見慣れたりしないのですから〜。」

 フレデリカは何も言えなかった。歴史を学べばなそんな悲惨な時代のことは知っているが、直にその時代を生き、その深淵、歴史にも残せぬ程の闇を知る者の言葉と、その眼と纏う魔力に宿る闇に寒気と恐怖が奔り、言葉が喉から出て来なかった。


「命の価値は随分と上がりました~。でも〜戦争になった時、一番安いのは、人の命です~。それは、何も変わっていません~。」

 様々な感情を押し殺し、無感情に言うヒルメ。

「そんな汚れた世界で、私は、あまりにも血に染まり過ぎました~。この世で最も汚れた手、そんな手であっても、必要としてくれる子たちがいるんです~。あの子たちは、そんな子たちなんです~。」

 何度、今のフレデリカの様な心境を乗り越えて来たのだろう?それとも、乗り越えるわけでなく、ただ、折れずに歩み続けただけなのだろうか?

 ヒルメの震える手を、フレデリカは痛々しく見ていた。


「フレデリカちゃん?貴女はどうしたいのですか~?」

 白刃を抜いて問うヒルメ。 

「もし、『最果て』を望むのなら、とっとと乗り越えなさい。『終わり』を望むのなら、その首を、苦しまない様に、刎ねてあげます…」

 フレデリカに向けて放たれたその魔力と殺気は、サロメと相対した際のそれとは比ではない。

 目の前どころか、首の根元まで迫った死の恐怖。抗うことさえ苦痛で悲痛になる様な圧力が彼女を襲う。


 『最果てを望まない』そう言えば、この苦しみからも解放されるのだろう…

 吐き気の込み上げる口から、フレデリカは己の望むを吐き出す。

「バカ言ってんじゃないわよ!!私は『最果て』に到る天才美少女、フレデリカ様よ!!…ぅっ!…ぅぉぇっ…!!」

 積み上げたプライド、並外れた、尊大な自尊心はそれを許さず、啖呵を切ってそう言ったものの、迫るプレッシャーと、限界に達していた精神状況から抑えきれずに、嘔吐してしまう。しかし、フレデリカの眼は蘇っていた。

「はい、良く出来ました~。」

 そんなフレデリカを、吐瀉物に汚れることに躊躇もせずに抱きしめるヒルメ。

 彼女の眼は、フレデリカを見ながら、別の何かを同時に見つめていた。




「お師匠様…絶対に貴女をお救い致します…」

 ヒルメは、フレデリカを抱きしめながら、泣き虫の弟子の姿を思いながら、誰にも聞こえぬ様に、心の中でそう呟いた。










 

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― 新着の感想 ―
[良い点] フレデリカの性格がずっと尊大傲慢ナルシストで清々しいです!設定も面白いので先が楽しみですし、これからフレデリカがどう変わっていくのかも気になりますね [一言] 山月記の「臆病な自尊心と尊大…
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