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『最果て』の先、『終わり』を望む魔女  作者: まるまるくまぐま
見習い魔法使いフレデリカ
19/45

 王政を粉砕し、共和政となったランス。

 世界を敵に回す様な革命を成功させてしまったその国は、各国からの侵攻で滅びる筈だった。しかし、革命を成した市民は、かつてないほどの士気と、共和政を守る為に生まれてきたのだと思われる程の名将や英雄が数多現れ、侵攻されるどころか、領土や支配域を広げ、世界に覇を唱えた。

 勿論、そんな勢いも永遠に続くわけはなく、他国にも英雄が現れるし、英雄たちは次々と倒れていくことになり、結局、以前と同じ領土に留まることになったが、共和政を守ることには成功した。

 だが、共和政になったランフが正解であったのか、人々は悩み始めていた。

 王侯貴族と一部の特権階級だけが裕福だった王政時代。

 共和政になり、王も貴族もいなくなったが、結局、豊かになったのは一部だけで、以前よりも貧富の差は拡大するどころか、労働者の扱いは悪化の一途を辿っていた。


 そんな不満が爆発し、『もう一度革命を』と立ち上がったのがアルジュであった。

 各地から依頼の為にやって来た魔法使いを拘束してから協力を仰ぎ、断れば捕えた。捕われた魔法使いの中には、アイアの様に、他国から旅行や調査、仕事で訪れた者もいた。

 その現状察したフレデリカは、密かに首都パンパールに連絡を送り、アルジュ反乱軍とランフ軍の戦闘が開始した。

 そんな戦闘を終わらせたフレデリカは、死臭と生き物の焼ける匂いに胃の中のものが迫り上がってくるのに抗えずに吐き出してしまう。

「フレデリカ…」

 心配そうに玄孫の背を擦るジェルマン。

「違う…私じゃない…悪いのは私じゃない…」

 嘔吐したことで、目に涙を溜めながら必死に自身に言い聞かせるフレデリカ。

「私じゃない…私は悪くない!!…ぅっ!…ぅぇッ…!!」

 虚ろな表情で再び嘔吐する。

 数多くの変異種、動物を依頼で狩ることはあった。他人を痛みつけることに抵抗の無かった。しかし、人の命を奪うのは初めてだった。




−−−−−−−−−−−−−−−−−

−−−−−−−−−−

−−−−




 後日、フレデリカは、反乱を察知し、報告した功績と、決定的一撃を放った戦勲を讃えられ、ランフ共和国の統領、シャルル・ラヴァルから表彰と第一等勲章を授章した。

 しかし、そんな軍人と政治家の集まる、華々しい会場で、軍人から彼女に向けられたのは、憎悪の目、敵味方問わず屠った彼女を讃える気など、微塵も無かった。一方の政治家たちから向けられたのは、容姿端麗な彼女に向けた好色なものや、利用価値を値踏みする様なもの。

 唯一違うのは、ジェルマンだけだろう。彼は、心配そうにフレデリカを見ていた。

 そして、当の本人は、疲れ切った顔をしていた。

 無理も無い。あれから毎晩悪夢に魘され、まともに眠れず、食事もまともに喉を通らず、胃に入っても、すぐに吐き出してしまうのだから。

 

 あの戦場が、己が作ってしまった惨劇が、フレデリカにとって、振り払え無い悪夢、トラウマとなって襲い掛かっていた。

 頭では理解している。あれは戦場。()らなければ、()られる。

 サロメと戦った時に理解した。戦いは先手必勝。躊躇など許されない。現に、サロメは殺しに躊躇など微塵も無かった。あの時、セラフィマが助けてくれなければ、間違いなく自分は死んでいた。

 だから、自分は間違ってなどいない。とフレデリカは自身に言い聞かせ続けている。それでも、あの惨劇が脳裏に焼き付き、あのの匂いがまだ鼻腔の奥で残っている。

 

「メヌエール嬢、将来有望な君に…」

 ニタニタとした、好色な笑みを見せる財務大臣。女性関係で悪い噂の絶えない男が、フレデリカに声を掛けた。

 虚ろな眼でそんな男を見るフレデリカ。以前の彼女なら、大臣相手でも勝ち気どころか、見下していたのだろう。

「どうだね?儂が君のパトロンになって…」

 下心丸出しの表情で言う大臣。

「駄目ですよ~。」

 間抜けな声と同時に、一瞬で目の前に現れた女は、フレデリカと大臣の間に立っていた。

「アメノ・ヒルメ殿…」

 女の姿を認識したジェルマンが慌てて駆け寄って来る。

「お久しぶりです~、ジェルマンさん〜。この前の会合は出席出来なくてごめんなさ〜い。」

 相変わらずフワフワとした喋り方でそう言うあヒルメ。

「い、いえ…お気になさらずに…こ、この度はいったいなんの御用でここまで来られたのでしょうか…?」

突然現れた『最果て』の魔女に、ジェルマンは警戒しながら、敬意を払って訊ねる。

「単刀直入に言いますね〜。ジェルマンさん、フレデリカちゃんを少し借りますね~。」

 ジェルマンの返事など聞かず、フレデリカをあっという間に抱え一迅の光となり、姿を消すヒルメ。

 残された者たちは、ただ呆然と彼女のいた場所を見ていた。


−−−−−−−−−−−−−−−−−


「到着で〜す。」

 ストン、とフレデリカを抱えて、地上に降り立つヒルメ。

「あらあら?フレデリカちゃんは随時と元気が無いですね~。私にクソババアなんて言っていた元気はどこへいったんですか~?」

 煽っているのかとも思える間抜けな声で言うヒルメだが、フレデリカは軽く睨むだけで何も言わない。

「う〜ん…睨む自尊心はまだあるみたいですね~。でも…今のフレデリカちゃんは可愛いけど可愛くないですね~。」

 どうしたものか?と頬に手を当てるヒルメ。


「師匠ー!!」

 泣きながら駆け寄ってくるアイア。その後ろには、数人の、同い年位の子供たち。

「あらあら…またイジメられたんですか?アイア。」

 泣きじゃくるアイアの頭を撫でながら、子供たちの方を見るヒルメ。

「違うわ!!イジメてない!!アイアがいっつも先生に迷惑かけるから…だから…」

 ヒルメに見つめられた子供たちの先頭に立つ少女が泣きそうになりながらそう言う。

「フレデリカちゃん、ちょっと待っていて下さいね~。」

 フレデリカをゆっくりと下し、アイアを抱えて少女の方へと近づくヒルメ。


「サッポーちゃん?アイアが嫌いですか?」

 膝を付き、目線を合わせて、少女に優しく語りかけるヒルメ。

 アイアと目の合った少女は、一瞬だけ目を逸らすが、直ぐにアイアと、ヒルメを見つめて答える。

「嫌いじゃないわ!!嫌いじゃないけど…アイアは私たちと違って、先生の力になれるのに…それなのに泣き虫の役立たずなのが気に入らないの!!私だって魔法が使えたら…」

 涙を堪えて答える少女。

「サッポーちゃんは偉いですね~。」

 ギューッ!!と、少女を抱きしめ、頭を撫でるヒルメ。

「魔法を使えなくても、サッポーちゃんも、皆も、私には大切な子供たちですよ~。」

 そう言って、サッポー以外の子供たちも抱きしめる。

「アイア…貴女も、いつまでも泣き虫のままではいけませんよ〜。皆、貴女を心配しているのですから…」

「やだー!!怖いよぉーっ!!」

 優しくも真剣な目に、アイアはまた泣き出す。

「この泣き虫アイア!!先生がこんなに言ってくれてるのにっ!!このバカッ!!」

「う〜ん…まだ駄目みたいですね~。…ああ、サッポーちゃん、駄目ですよ~殴るのは駄目です~。も〜う、アイアもいい加減泣くのはやめましょ〜。」

 泣きじゃくるアイアを叱責するサッポー。そんな両者の間で宥めるヒルメ。まるで、姉妹喧嘩を仲裁する母親の様であった。 

 

「で、コイツは誰ですか?新しい子ですか?」

 フレデリカを睨む様に見るサッポー。

「違いますよ~。でも、アナタたちと同じ世界を見た子です~。」

 泣きじゃくるアイアの背中を優しく撫でながら、サッポーに言うヒルメ。

 じーっと、フレデリカを見るサッポーを、フレデリカは睨む。そんなフレデリカに、サッポーは悲しい目を向ける。


「アンタ、誰を殺されたの?」

「は?」

 てっきり噛み付いてくると思っていたフレデリカは、呆気に取られる。

「私はパパとママ。アイアはパパもママ、弟も妹も殺されたわ。ここは皆そんな子たちばかりよ。大丈夫、私たちはアンタの味方よ。」

「私は…」

 戦災孤児を保護しているというのは知っていたが、サッポーの言葉に、事実を突きつけられた感覚に囚われるフレデリカ。

 殺された側ではない…自分は殺した側だ…

 口が渇き、言葉を絞り出せない。そんなフレデリカを柔らかい感触が包む。

「後で話しましょ〜。アイア〜皆と仲良くするんですよ〜。」

 アイアを離し、フレデリカを抱きしめて言うヒルメ。

「うん…先生。任せて!!」

 サッポーは少し寂しそうな顔をしたが、すぐにそう答える。

「やだー!!師匠ーッ!!置いてかないでー!!」

 泣き叫ぶアイア。

「こらっ!!先生に迷惑かけない!!」

 アイアを叱るサッポーに微笑み、ヒルメはフレデリカを抱えて飛び立った。






 



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