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セカイの果てのハテまでキミと共ニ誓ウ  作者: 葛城兎麻
第一章・スフェルセ大陸 三節・南国
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六十六話:管理人

お待たせしましたー!!!

職場のせいで鬱一歩手前になり、つい先日採用のお電話入りましたので転職します!!!

給与はがくっと下がりますが、その分創作に打ち込めるので、もしかしたら更新頻度上げられるかも…??

 城を抜けて城下の様子を視察するのも王族の仕事のうちだが、今はその義務からは離れている。




 アリュヴェージュはレフィシアとキアーを連れて城を降りた。とはいっても、幾らキアーが強いとはいえ王族の子供だけで城を降りるのは危険が付きまとう。埃を少し被った薄茶のフードを深く被って、見た目だけでも精一杯の平民を装う。気温は日が照って汗が滲み出るが、こればっかりは我慢するしかない。

 もちろん、会話にも慎重になる。どうしてもアリュヴェージュやレフィシアでは口調から気品が漏れかねないので、必要最低限の会話は全てキアーが行う。


 城下は比較的にあちこちで賑わいを見せている。人が前から後ろからと次々に行き交う。その中でも特に人の出入りが激しく目立つのは、武器屋。最大級の軍事国家を誇るこの国で特に安定した収入を得られるのは武器職人だ。当たり前といえば当たり前の光景である。何も人同士の争いだけでは無く、街の外に住む魔物達に対する護身用としても武器を求め続けられているのだから、軍人だけが買いに来るだけではない。


 しかし、武器屋は入店時において、大人と一緒の入店を除き十二歳以上が対象。アリュヴェージュやキアーはギリギリ入れても、子供だけの集団で十二より下のレフィシアは入店出来ない。



「俺、待ってるから!」


 ……とレフィシアは言うが、レフィシア一人を待たせておく事は万が一を考えて首を縦に出来ない。諦めるしか無いかとアリュヴェージュは目を伏せっていた。



「——!」



 アリュヴェージュが残念そうにしている中で、キアーも反応に遅れた。レフィシアが通りすがりの男の手首を掴み、引き留めていたからだ。

 その男は、二十代後半に見えはするが、身体つきは細め。黒からグラデーションがかかるように青藍がかかった腰より長い髪は、後ろに一つ縛りにしてから小さな三つ編みを作っている。

 ほぼ全身黒コーデではあるが、マフラーの首元のブローチ、マフラーの先端に付けられた砂時計のような装飾の類からしてとても生活には困っていない風貌をしていた。彼は夜明けの空の色を思わせる曙の色の瞳を丸くして、歩んでいた足を止めている。振り払わない姿を見る限り、子供にはそれなりの配慮を持てる人物と思われた。



「すみません!」



 駆け寄ったアリュヴェージュはすぐに謝罪し、レフィシアの手を掴み、男の手首を解放する。



「……もしかしてあの店に行きたいのか?」



 男の声色は少し低めだが、怒りの色は感じられない。淡々としている中でも、顔つきも声の色にも怖がらせないようにという最低限の配慮がされたまま、身を屈めてレフィシアの目線と並べた。



「……ま、暇だし。別にいっか。大人同伴なら子供も年齢関係なく入れるんだろ?」


「ありがとう! お兄さん!」



 きらきらと太陽の光のように眩しく照るレフィシアの笑みを前に、男は目眩みを起こす。小さな子供の世話に慣れていないのか、単に人との付き合いに興味を抱かないだけなのか。真相は謎に包まれたまま、アリュヴェージュは事件にならずに済んだと胸を撫で下ろす。一方、アリュヴェージュの後方に控えていたキアーは張り詰めた視線を男に送る。誰がどう見ても好意的なものではないのが、くっきりと浮き彫りになっていた。



「そこの少年。警戒するのは従者として満点だけど、俺がお前らを襲っても別に得は無いから安心しとけ」


「名前や身分も分からない人を信じろと?」



 男に嘘は無い。服の装飾の絢爛さを見るにまず人を襲う位の貧困には陥ってないだろう。それに、騙すなら敢えてこの言葉を発しない。そのまま黙って居るのが筋だ。

 しかし、キアー・ルファニアという人物は基本的には人を信頼していない。常に裏切られた場合を想定して、自分とアリュヴェージュ以外に期待はしない。男が何を言っても、キアーの警戒心が薄れゆく気配は一向に失われず警戒は向けられた。



「……人、か……」



 ひと。


 たったそれだけの言葉だが、その意味は奥深い。


 ひと。



 この〝セカイ〟の住人がそれに属し、知能が高く、言語を有し、社会生活を営む高等な動物達。魔物もその中の一つとして数えられるので、人の中に数えられるのかも知れない。


 だが——男は戸惑う。


 自分が〝ひと〟と呼称された事に。


 暫しの沈黙を流し続けて、男はようやく閉じられた口から言葉を紡ぐ。




「……ロイ。ロイ・ヴァールード。仕事の息抜きにのらりくらりやってきた、ただの……まあ、管理人だ」


「管理人? 宿とかの?」


「宿よりかは大きいけど、まあ似たようなものかもな。ああ、お前らは名乗らなくていいから。秘密を探り合うのはお互いの為にやめとこう」



 ロイ・ヴァールードと名乗る男性は、配慮の意を伝えるためにも三人が名乗る事を事前に回避させた。確かに身分を公にしたくないのは間違いないのだが、ロイに名乗らせて自らを名乗らないのは誠実さが欠けているのではないか。アリュヴェージュはふつふつと罪悪感が煮えたぎってきたが、その罪悪感も束の間、レフィシアが再度ロイの手を掴む。



「ロイさん! こっち!」


「わ、分かった、分かったから先走るなっての」





 *





 店内は絢爛な装飾を施された剣や槍がよく目立つ。魔弾銃の品揃えもそこそこに、壁一面にも絵画の如く飾られている。ふと気になってアリュヴェージュはレフィシアのお守りをしているロイの身なりを改めて確認する。見た所、武器の類を一切所持していないのだ。身なりも顔立ちも良い方なので追い剥ぎに襲われたりはしないのだろうか、という疑問を抱く。

 すると、店員と思われる三十代後半程度の黒の短い髪をした男が、焦茶の眼を宝石のように輝かせてロイの近くに歩み寄り始めた。



「お兄さん! お金持ってそうだね! 何かお求めかい?」


「あー……いや、こいつらが入りたがりそうにしてたから入っただけなんだけど、何、買って欲しいのか?」


「お金持ってそうな身なりしてるし、お兄さんひょろいから護身用にどうだい!」


「こ、ここでもひょろいとか言われんのか……」



 どうやらこの店員は、ロイの身なりからお金を沢山持っているだろうという印象を抱いたのだろう。おまけに、さらりと褒め言葉とは受け付けられない言葉を口にしたので、余程恐れ知らずなのだと捉えられる。

 ロイは「ひょろい」の単語に頭を抱え込んでいたが、思い立ったようにレフィシア、アリュヴェージュの順番に視線を置く。



「オーダーメイドとか出来る?」


「はいはいはい! そりゃもちろん! 倍の料金頂きますけど!」


「じゃあ……こいつと……あいつの、二人の護身用のナイフか何かを頼む」


「子供用、ですかい……いや、しかしそれは……」



 十二歳以下の子供が保護者の許可無くして武器屋への立ち入りを禁ずる。理由は、幼い子供が武器屋から武器を盗み出し悪たる大人への流出を阻止する為だ。皆子供だからと油断をし、防犯を怠る事も少なくはない。例え殺傷力の低く生産数の多い小型の武器でも高く売れるし、やりようによっては人を殺せる。

 なので、子供用の武器を武器を作ろうとする店は少ない。



「大丈夫だ。この二人は悪用なんかしないよ。誰かに渡す事もしない。売りもしない。保証する」


「……分かりました、じゃあ親方に話つけてくるんで、この書類に必要事項諸々書いておいてくだせえ!」



 店員の男は木製の引き出しから数枚の紙と一本のペンを取り出し、机に置く。そのまま接客を他の人物らに任せて後ろに走っていった。ロイはその背中を見届けた後でペンを右手に取り、すらすらと文字を走らせていく。



「お前は要らないだろ?」


「ボクは大丈夫なんで。それより文字が書けるんですね」


「管理人だから、文字が書けなきゃやっていけないだろ?」



 キアーはロイにボロを出させようと皮肉混じりに褒め言葉を並べたが、それに乗らないロイの姿に怒りすら覚えて眉間に皺を寄せた。

 スフェルセ大陸において、文字などの学業を学ぶ場に通うのは多額な金がかかる。そういった場で学んできた者達が家庭教師を職にしていても、結局雇うのには金が居る。金の少ない市民達は学業の本を読み、ほぼ自力で覚える事が多い。中には、本すら買えず、文字すら読み書き出来ず、野垂れている者も居るのが事実だ。



「でもいいの? 本当に、かなりお金がかかるよ。やっぱりこっちが出——」


 アリュヴェージュが口走りそうになる所を、ロイは人差し指を口元に寄せる。「言うな」というジェスチャーだ。慌てて発言を取り消す。



「まあ。何かの縁だよ。遠慮なく貰われろ」




 太陽のように暖かな日差しを思い出させる髪の色。


 花のように美しいラベンダーの瞳の色。



 向けてくる純粋な眼差しも、何もかも。






「(今までで見てきた中で、一番、〝似てる〟よなあ……)」



 遙か遠く。


 まだ何も恐れず、何も気づかず。


 何も無かった頃を懐かしみながら、ロイは全ての書類に筆を流した。


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