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ピンクの女


 3日が過ぎた。初めてブレアのおっぱいを触ってから3日だ。俺はあの日を起点に人生を数えることにしたのだ。生後3日だ。


 俺たちはひたすら探索を続けた。牢獄を抜けては違う牢獄に入り、そこを抜けては違う牢獄に入る。


 大小様々な牢獄があった。


 小さな牢獄を抜ける時は四つん這いになったりもしたのだが、目前に迫るブレアのお尻に理性を失いそうになった。

 タイトなローブ姿はその身体のラインをくっきりと浮かばせている。綺麗だと思うが、それ以上に激しく興奮する。程よい肉付きで形の良いお尻が俺の眼前で何度も何度も扇情的に揺れ動くのだ。より狭いところを抜ける時などもぞもぞと、俺の理性の崩壊を迫るかのように動く。


 という目線に気付かれたので、前後を交代することになった。やたらと勘が鋭い。マナ経由で何か伝わっているのだろうか。


『ニトお兄ちゃんったら! ブレアちゃんのお尻ばったり見てるんだよぉ! もうエッチ! バカ! ヘンタイ!』みたいな?


 しかし、俺が前でもさしたる問題はない。俺のお尻の後をブレアが付いてくる。ブレアは俺の尻を見つめざるを得ないのだ。良い。実に良い。見てくれ。

 だが俺はやり過ぎてしまったのだ。意識しすぎてしまった。我が意に反してエクスカリバーがその存在を主張しようとしたのだ。まずい。

 俺のエクスカリバーは見られているとわかると主張したくなる英雄気質なのだ。鎮まれ。主人の言う事を聞くのだ、エクスカリバーよ。鞘があれば良いのだが。残念ながら鞘はここにはなかった。


 結果として、小さめの牢獄の探索はもう不要だろうということになった。だが悔いはない。十分に楽しめた。



 さて、そうして探索しながら進んでいき、遠くに見えていた巨大な牢獄の鉄格子にたどり着いた。その鉄格子を抜けるのは容易だった。鉄格子がガバガバだったので。


 巨大牢獄を抜けた先も無限牢獄だった。天井は牢獄のそれであり、巨大牢獄を抜けた後の天井もまた、それよりも巨大な牢獄の天井だったのである。こうなると向かうべき指針が欲しい。


 しかし、こんな女がいたら嫌だな。脱がしても脱がしても服を着ているなんて悪夢だ。ま、それならそれで服を着たまま……だがな。なんて妄想を誰に言うでもなく心の中でつぶやく。


「ニト、そういうのは童貞を卒業した者が考えることよ」


「んえっ!?」


 なぜバレた。ブレアさん、読心とかのスキルを隠し持っているのではなかろうか。力の行使にスキルが必須であるわけではないけれども。


 なんて話しながら歩いていると考えてしまう。こんな事態でなければ俺のような男が美少女と二人で歩き回るなんてありえなかったろう。そうだ。せっかくだから穴の女神に感謝しておこう。

 穴の女神様。その節はおっぱいをありがとうございました。そして、性犯罪者を美少女の向かいに収監してくれてありがとうございました…………あれ?


「ブレア、今更ながらおかしなことに気付いたんだが」


「何かしら?」


「なんで俺はブレアの向かいに収監されたんだ? これだけの広大な空部屋があるのに。わざわざ性犯罪者を女性の囚人の向かいに」


「…………変ね」


 監獄の様子がわからなかったので、鉄格子を抜けるまでは、囚人がそれなりに散りばめられているのだと思っていた。

 囚人がたくさんいる中で、たまたま俺たちは向かいになったのだと。


 3日前、初めて牢獄の外を目にした時、牢獄が無限に続く異様な光景に圧倒されてしまった。この空間の異常さに飲まれて『監獄は広大なのにわざわざ二人は近くにまとめられた』という状況のおかしさに気付けなかった。


「変なんだよ。他の囚人は何処にいるんだ? 少なくとも一人はいるはずだ。三億年さんが」


「…………完全にランダムという線はない方向で考えるわ。一つは私とあなたを向かいにする理由があった」


「なんだろう? 俺が喜ぶからか?」


 冗談めかして言ってみる。すると


「そうね。私も今は嬉しいわ」


 彼女はそう言って薄く微笑んだ。急にデレられると戸惑う。ドキドキしてしまう。おっぱいも良いがこういうのもたまらない。


「もっとも最初はどうにか消滅させられないか考えてばかりだったけど」


 はい! 上げた後に衝撃の告白。殺すとかじゃなくて消滅ね。死体も残さず消そうとしてたのか。こわっ。


「まじめに考えて、まとめておけば管理が楽だから、というのもあるかな?」


「あるでしょうね。管理されているかどうかは私には感知できなかったけど。管理するのが楽だからまとめると言うのなら、周囲に囚人がいないと余計に変ね」


「ああ、そうか」


「そうね…………そう、まとめるとしたらだけど。そんな深い理由は無い、なんてこともあるかもしれないわね」


「……理由がない?」


「何も考えずに順番通りに入れているとかね」


「牢獄に番号があって収監の順に入れているってことか?」


「ええ。可能性としてね」


「だとしたら、手前の部屋に誰もいなかったのは何故だ…………まさか」


「そうね。脱獄済みということよ」


「いや、それはおかしい。だとしたら穴の女神が俺を収監しに来た時に気付くはずだ」


「そこまで頓着していないのではないかしら? ちなみに私を収監したのは大地母神よ。教会によって教義が違うぐらいだし、神々も独自のルールがあるのではないかしら? そうなると、自分が収監した者以外の行動はどうでもいいのかもしれない」


「可能性、だな。先行している脱獄者がいるとして、そいつらはどうやって鉄格子を抜けたんだろうな」


「例えば三億年も収監されてたらそれぐらいできるようになってても不思議ではないけれどね」


「そんな事が横行していても神々が無視できるぐらい、この無限牢獄を本当の意味で脱獄することは難しいとも言えるのかもな」


「私たちがいたあの牢獄はほんの一部、本当の無限牢獄は今ここに見える全ての場所なのかもしれないわね」


「ああ、かもな」


 向かう方向を間違えたのか。自分達がいた牢獄には何らかの番号があり、値が小さい方向に向かえば出口が近かったのかもしれない。

 なぜなら、管理者がいるのなら自分の所在地から近い順に番号を振っていくだろうから。小さい番号とは最も管理者に近い牢獄なはずだ。そちらに向かうか。今から戻るか。



 その時だった。



 ビームだ。ビーム。光線が牢獄の山々をゴミのように溶かし蒸発させていく。伸びた光線は牢獄の世界を横薙ぎにした。


 そして爆発。大量の牢獄が爆散して飛び散り、直後に修復した。元通りの無限牢獄が広がる。


 何者かの戦闘が始まったのだ。



「ニト!」


「わかってる!」


 俺がブレアに体を寄せると、彼女は詠唱を始めた。


「──ディメンションウォール!」


 見た目には何も変わった様子はない。だが、先ほどの爆発があった方向と俺たちの間には数メートル四方の次元の断層が出来ている。これであらゆる物理的な干渉は防がれるのだ。


 再び先ほどの光線が牢獄の中を走る。俺たちの方向にも飛んでくるルートだ。


 一瞬のことだった。左右の牢獄が溶け消えた。冷や汗が流れる。



「やばくね?」


「使えるかぎり最高の魔法でよかったわ。でなければ死んでたかもね。で、見えた?」


「ああ。二人だ」


 ブレアが魔法を唱える間、俺も遊んでいたわけではない。身体力に限界までマナを振って目に力を集中した。可能な限り情報を集めるためだ。


「一人はピンクの髪の女。ショートヘアだ。可愛い。目はくるりと丸くて大きい。好戦的な表情で嬉々として戦っている。貧乳だ。これも良い。脚は綺麗だな。何が良いって筋肉のつき方が綺麗だ。女性らしい柔らかなラインを保ちつつ良い筋肉をつけている。機能的かつ美を忘れない造形で好感が持てる。やはり良い。あとは尻だが──」


「待って、女はわかったわ。もう一人をお願い」


 そう言っている間も、爆発は続き、二人は結構なスピードで瓦礫の隙間を縫うように戦い続けている。


「そうか。もう一人は変だ。よくわからん。天使のような羽が生えた泥人形だ」


「泥人形?」


「ああ、土のような素材でドロドロと溶けた感じの風貌だ。腕と足が短くて胴がでかい。目は一つだな。口はでかくて牙がすごい。そして、まばゆい光輪と天使の羽がある」


「天使かしら?」


「光輪と羽がまぶしすぎて堕天使って様子はないから天使かもな。ボディが禍々しいが」


「戦況は?」


「女が押してる。泥人形は崩れた腕が回復しない様子だ。対して女は腕に怪我を負っても回復している」


「敵には機能固定がないのかしら?」


「そのようだ。俺達はまだ機能している」


 話しながらも確認のために自分の手を軽く切る。回復した。光線で蒸発した牢獄もすぐさま元に戻っている。

 もちろん、戦闘中の女も回復している。


「私たちに有利すぎるわね。殺す気がないのかしら」


「見た目で判断するのもなんだが、泥天使は非常に雑魚っぽい。量産タイプなのかもしれない。なら殺されても神としては痛くないし、それよりも囚人を殺すことが問題だとか」


「雑魚っていっても結構すごいけどね。あの光線一発で街一つ半壊させる程度には。ま、神界ですしね」


「あ、まあ」


 神界だからという何でも許される免罪符のようなお言葉が発せられた。でもたしかに神界だしそんなもんなのか?


「本当のところは先駆者に聞かないとね」


 ちょうどピンクの女が泥天使を破裂させたところだった。泥天使が回復する様子はない。話しかけるならいまだろう。ピンクの女がどこかへ行く前に。俺たちに対してまで好戦的でなければ良いのだが。


「行ってみるか。危険だが……」


「そうね。じゃあ行きましょうか」


「相手の様子からして、まずは身体力を限界に上げた俺が対面に立つのが良いかな?」


 戦闘を見る限りピンクの女は撲殺系脳筋スタイルだった。


「任せるわ」


 ブレアに任される喜びを感じながらも、しっかりと気を引き締め、ピンクの女の一挙手一投足を見逃さないように性的な視線も織り交ぜながら俺は歩を進めた。


 貧乳もいいな。


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