メスブタと部屋着の天使
「ブレアどうかな?」
ピンクの女のステータスのことだ。
「こんな感じよ」
──メテオストライクブースター──
【総合能力】
マナ総量:578,000
【基本能力】
身体力:110,000
精神力:60,000
【スキル】
格闘:レベル10
→粉砕:レベル10
→→気化:レベル10
→→→昇華:レベル10
→→→→分子分解:レベル6
超再生:レベル10
【称号】
アホの子
不死王
破壊王
砕きし者
──────
「スキルやばいな」
「5段階まで派生させたスキルは初めてみたわ」
「超再生と合わせて一点突破の脳筋スタイルだな。たしかにそんな戦いをしていた」
「やばいわね」
「称号もやばいぞ。アホの子が雰囲気を柔らかくしてくれているが不死王に破壊王はやばい」
「真なる変質者や神話級性犯罪者ほどではないけどね」
「へへっ」
「照れるところじゃないわ」
「…………さて、気になるのは不死者と超再生だ。さっきの回復は機能固定によるものなのか、この超再生によるものなのか」
ピンクの女には肉弾戦特化のスキルがあるため現状の総合的な戦闘力では劣る気がする。しかし身体力に極振りしたので基本性能だけで見れば俺の方が上回っている。おそらく抑えるぐらいはできるだろうから緊急時はブレアと協力して何とかしよう。
とにかく話しかけてみるか。
相手も気付いていたようで、こちらに視線を向けている。油断はしていないようだ。隙がない。
少し遠めの距離で立ち止まり声をかけた。
「戦う気はない! 話をしたいのだが可能だろうか!?」
と言いながら何だが、そう言えば言葉は通じるのか。
「囚人だなっ!? 珍しいっ!」
会話はできそうだ。何年前の人か知らないがいけるもんだな。
「会話ができそうだな、助かる。俺はニト。こっちはブレア。貴女は囚人か?」
俺が囚人かどうかはあえて返事しない。相手が神と囚人のどちら側かは分からないのだ。あるいは第三勢力もあり得る。
「あたしは不死王メテオストライクブースター…………この世の生を砕くものだっ!」
なんだろ。精神に異常をきたしているのかもしれない。そもそも名前がおかしい。子供でももう少しマシな名前をつけるぞ。
「そうか。いい名前だな」
「わかるか! これはあたしの拳が隕石の直撃を上回るほどの衝撃を発することから父上に名付けていただいたのだっ!」
何という父上だ。こんな可愛いピンク髪のヒロインっぽい美少女に対して鬼のような所業だ。その品性は畜生の如し。つまり鬼畜だ。仲良くなれそうな気がする。
「素敵な思い出だな。とても大事にしているんだね」
この思い出を汚せば、分子分解レベル6の拳が飛んでくるのだろう。変質者、危うきに近寄らずだ。近寄る時は我慢できない時だけだ。
「うんっ! よしっ! 愛称で呼べっ!」
「愛称?」
「メテオストライクブースター、略してメスブタだっ!!」
「Oh…………」
なんてこった。ピンチだぞ。横目でブレアを見ると感情の消えた顔をしている。こういう顔の時に突っつくと飛び切り上等な毒が散布されるのだ。まさに前門の虎、後門の狼である。
「父上や城の者にはメスブタと呼ばれていたっ! この名の良さがわかる者にはそうしてもらっているっ! 苦しゅうない、呼べっ! 呼んでくれ! さあっ! 早くっ!」
「いや、しかし」
「早く呼べっ!」
「だけど、早すぎるというか」
「早いも何もないっ! 呼べっ! 声高にっ! メスブタと! 卑しき卑しきメスブタとぉっ!」
「メ、メ、メスブタさん」
勢いに負けてやってしまった。なんだよ卑しき卑しきって。怖えよ。
「固いっ! もっとこう『オラァ! 来いやメスブタァ!』とか『ブヒってんじゃねぇぞ糞メスブタがぁっ!』とか、そういうのがないと女は落とせないぞっ!」
諭すように言われたがどうなってんだこいつは。どうかしてる。良い意味だ。良いぞ。すごく良いじゃないか。だがまだ興奮より危機感の方が上回っている。危なさと素敵さを天秤にかけて前者に傾いている。
「差し支えなければだが……城の者たち(?)にはそのように呼ばれていたのだろうか」
「うんっ! 親しい者には特にっ! 父上など髪を掴んで引っ張り回していたぞっ! 懐かしいっ!」
メスブタは虚空を見つめる。
メスブタか。巨乳だったらなぁ…………。いや、ちがうな。だらしない体型だったら、か? うーん、それも違う。この引き締まった肉体からメスブタ要素を見出すのか?
いや、そうか。わかったぞ。メスブタとは精神の有り様を指摘すべきなのだ。真っ白なドレスを汚す喜びだ。高潔な女性を貶めていくのが快感であるように、この美しき肉体を鍛え上げたその精神性を貶めるための『メスブタ』なのだ。
そういうことか。父上、俺にもわかりました。ひたすら鍛錬を要求し、それに応える彼女の魂を、それをただメスブタと一蹴する喜びなのですね。何なら髪を掴んで引きずり回しても良いと。時を超えて伝わりました。あなたの思いは俺が引き継ぎます。
なんてな。そうしたい気持ちは無くもないが深くかかわっちゃいかん。泥沼にハマるタイプだ。
可愛いのにもったいない。逃げ切れる自信さえあれば迷わず髪を掴んで引きずり回して『メスブタが人語を話してんじゃねぇよ! オラ、ブヒブヒ鳴けやぁ!』なんてしたいのだが。こんな可愛い娘に『ブヒィブヒィ』なんて鳴かれたらもう辛抱できんな。うん。
「ニト……いえ、神話級の変質者さん。得意なことばかり、いつまでもやってないで帰ってきなさい」
はっ! あぶねえ。ブレアに呼ばれて我に返る。何となく傷ついたが致命傷ではない。
「メスブタさん。話は戻るが貴女も囚人なのか?」
あ、しまった。『貴女も』なんて言ってしまった。自分も囚人だと打ち明けるつもりはなかったのだが。ペースを乱されている。
「ふふっ……あたしは不死王メテオストライクブースターだぁっ!」
称号にアホの子ってあったな。聞き方を変えよう。
「この無限牢獄にはいつからいるんだ?」
「数百年だっ! たまに会う囚人に教えてもらったりするがよくわからんっ!」
「何神に連れてこられたんだ?」
「死神だっ! 殴り負けたっ!」
殴り合ったのかよ。メスブタはギリリと歯を噛み締め悔しがる。死神か。俺やブレアとはまた別口だな。
だが囚人であることは間違いなさそうだ。少し警戒レベルを引き下げてもいいかもしれない。
しかし数百年か。だいぶアバウトだが絶対時間把握がなければそうなるか。結構な量の情報を持っていそうだな。アホの子という点が心配だが。
「なるほど。苦労したみたいだな。鉄格子を抜けるのも大変だっただろう? ああ、その拳で?」
「鉄格子? いや、自分の身体を砕いたっ! そんで再生したっ!」
アホだ。考えなしすぎる。いや、スキルに超再生とか称号に不死者とかあるし元々そういうタイプの人間なのか。身体バラバラで生きていける系の…………聞いたことねぇよっ!
「す、すごいな。中々できることじゃ無い。心構えが十分に出来ていなければ」
「心構えなんていらんっ! 目が覚めた瞬間にやったっ!」
なんだろうな。アホなんだろうが…………好意的に見て、身体を砕くのは慣れているのかもしれない。
城(?)でどういう暮らしをしていたかは分からないが幼少期から中々ハードな生活をしていそうだし、身体が壊れることに対して心理的な壁は低いのかな。
とりあえず、鉄格子からそういう方法で出ることを選択した人もいたというわけだ。
「というかスルーしそうになったが他の囚人に会ったことがあるんだな」
「会ったことがないのかっ!? あたしも数人しかないが大抵イかれてるぞ!」
危ない危ないと言わんばかりに手を振るメスブタ。お前も大概だぞ。
しかしメスブタに言われるぐらいだから他も相当だろう。いや、逆に普通という可能性もあるか。
「なるほど……」
「話は終わりかっ!?」
「いや、あと二つ聞きたいことがある。良いかな?」
「よし…………来いっ!」
腰を落とし目をつぶり、カッと目を見開き叫ばれた。くそっ、性格はともかく顔は可愛い。このピンク髪を掴んで『黙れメスブタがぁっ! 臭え息吐いてんじゃねぇよっ』てやりたい。
「そこまで気合は入れなくていい。出口と敵についてだ。まず、出口について何か知らないか?」
「どこかにあるらしいっ! あたしも探してるっ! 普通は見つける前に同化するっ!」
「同化?」
なんとなく不穏なキーワードが出てきた。
「マナに還る? らしいっ! よく分からんが、数千年経つと出来るらしいっ!」
マナに還る、か。
「どう思うブレア?」
「そうね……。死ぬことも叶わず、狂うこともできない牢獄で、全てを諦めた者はどうするのか……その一つの結末なのでしょうけど。魂を構成するマナを分解して分散するマナと同化するのでしょうね。数千年もすればそれが可能なほどに魂を磨けそうね」
「死ぬことができないから肉体から魂を解放すると?」
「そういうこと」
「てことは3億年の人も……」
俺とブレアの話を聞いていたのかメテオが話しはじめた。
「3億年の人は聞いたことがあるっ! 会ったことないけどっ!」
「なるほど。まあ、真っ当に考えればマナと同化したか脱獄に成功したかのどっちかだろうな」
「すごいなっ! なんでわかるんだつ!」
なんでだろうな。普通だからかな。
「エスパーだからわかるのさ」
「すごいっ!」
信じてしまった。
「ともかく、ありがとう。最後にもう一つ。さっき戦っていたのは?」
「天使だっ!」
やはり天使か。にしては造形がだいぶ邪悪だが。まあ聖とか邪とかは人間の感性の問題だしな。
「そうか、天使か。教会で聞くような天使とはだいぶ造形が異なるな」
「部屋着だからな」
「え?」
「あの天使は部屋着だっ!」
「部屋着とは?」
「知らないのか? 部屋でくつろぐときに着る服だっ!」
「それは知っているが…………えっと人間界に来るときは外着?」
「当然だろっ? 外に出るんだからっ!」
「…………ここは部屋?」
「そうじゃないのか? 神界なんだからっ!」
「…………」
釈然としない何かが俺の思考を巡っていた。




