77 すれ違う想い
ユリアはしばらく、ベッドの縁に腰掛けたまま、深く息を吸い込んだ。
胸の奥がぎゅうっと締めつけられ、鼓動が耳に響く。
指先が震え、どうすればいいのか分からなくなる。
「どうした?」
エルフナルドの声に、ユリアははっとして我に返った。
「……あ、あの……エルフナルド様……」
ユリアは迷いながらも身を起こし、震える手で夜着を脱いだ。
白い肌があらわになり、エルフナルドは思わず息を詰める。
その視線を感じ、ユリアは目を伏せ、声を絞り出すように囁いた。
「……抱いて……いただけませんか?」
ユリアは俯いたまま、絞り出すように言った。
「それは……どういう意味だ?」
エルフナルドの声は静かで落ち着いていた。
「エルフナルド様と……ちゃんと、夫婦になりたいのです……」
言い終わった瞬間、彼女は恥ずかしさと期待が入り混じったように、俯いた。
「この前は、覚悟が決まっていないと言っていたが?」
エルフナルドはそっとユリアの肩に手を置き、指先で軽く触れる。
その温もりに、ユリアは一瞬体を強張らせ、次の瞬間、心の中の不安と期待が交錯する。
「……はい。でも、今は……エルフナルド様と結ばれたいと、思っています」
言い終えると、ユリアは膝に手を置いて深く息を吸った。
返事を待つ間、ユリアの胸は激しく脈打っていた。
失敗すれば、すべてが終わる――その焦りが、汗となって滲む。
エルフナルドは、しばらく黙ってユリアを見つめてから、手を差し伸べた。
「……おいで」
その言葉に、ユリアは少しだけ息を呑み、ゆっくりと近付いた。
エルフナルドはユリアの頭を優しく撫で、そのまま覆い被さる。
「あ……」
自分の声に驚き、ユリアは顔を背けた。
エルフナルドは様子を確かめるように、慎重に触れ、口づける。
ユリアは目を固く閉じ、彼の背にしがみついた。
そのとき、先王の言葉が頭の中でこだました。
――大丈夫……最後まで……
子種さえ……いただければ……
「……何を考えている?」
ふいにエルフナルドが身を離し、ユリアを見下ろした。
「……え?」
「今、何を考えているのかと聞いている。……どうして、そんなに辛そうな顔をする?」
気付けば、ユリアの頬を涙が伝っていた。
自分が泣いていることにようやく気付き、慌てて頬を拭う。
「き、緊張しているだけです……。別に、他のことなんて――」
「嘘をつくな。お前の顔を見れば分かる」
苛立ちを含んだ視線で、エルフナルドがユリアを見下ろした。
「嘘なんてついていません。お願いです……どうか、最後まで……!」
「……私にそれが通用するとでも思っているのか?」
「……」
ユリアは答えなかった。
「……そうか。それでも、言わないのだな」
エルフナルドは静かにそう吐いた。
「……もうよい。出ていけ」
その言葉に、胸の奥がすうっと冷えた。
拒絶された――そう理解した瞬間、視界がわずかに揺れる。
それでもユリアは、何も言えなかった。
ようやく我に返り――
「も、申し訳ありません……」
ユリアは夜着を軽く整えると、静かに寝室を後にした。
続きの扉から自室へ戻ると、その場にうずくまる。
――私の迷いが、エルフナルド様に伝わってしまった……。
あんなに優しく触れてくださっていたのに……。
やっぱり、こんな形で抱いてもらうなんて……
こんな形で子供を作ろうとするなんて、間違っている……。
ユリアは隣の寝室に声が届かぬよう、唇を噛みしめ、声を殺して泣いた。
静まり返った王宮の中で、胸の奥の不安と迷いが、まるで自分の周囲を押し包むかのように広がっていった。




