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24 先王の企み

「先王陛下。エルフナルドです」


 先王からの呼び出しを受け、エルフナルドはその私室を訪れていた。

 扉をノックして中へ入ると、椅子に腰掛けた先王が、すでに待っていた。


「よく来たな、エルフナルドよ。まあ、座りなさい」


 促されるまま、エルフナルドは対面の椅子に腰を下ろした。

 侍女が二人の前に茶を置くと、先王は一口、ゆっくりとそれを啜る。


「お加減はいかがですか、先王陛下」

「ああ。変わりなく過ごしておる。お前が王になってからは、実に穏やかでな。相手をする者もおらぬゆえ、少々退屈なくらいだ」

「父上は絵がお得意ではありませんか。今は初夏ですし、庭園にも花が咲き誇っております。景色を描かれてはいかがでしょう」

「ふむ……それも悪くないな」


 先王はそう言って、窓の外に視線を向けた。


「それより――ユーハイムの姫はどうだ?」


 不意に話題が変わり、先王はエルフナルドをじっと見据えた。


「仲良くやっておるか? 先日の舞踏会では、ずいぶん仲睦まじかったと聞いておるが」


 探るような視線に、エルフナルドは表情を崩さず答える。


「ええ。問題なく。……ユリアは周囲とも上手くやってくれています」

「そうか。それは良かった」


 満足そうに頷いた後、彼は少し声を低めた。


「婚姻を結んでから、もう三ヶ月ほど経ったな。……子供は、まだかと思ってな」


 その言葉に、エルフナルドは一瞬だけ内心で眉をひそめる。


「私ももう年だ。先がそんなに長くない。早く王太子をもうけてもらい、安心したいのだが……」

「父上。子は授かりものです。焦らず、お待ちください」


 エルフナルドは柔らかく微笑み、そう返した。


 ――やはり、子の話か。

 だが……なぜ、ここまで急ぐ?


 胸の奥に小さな違和感が残ったまま、エルフナルドは平静を装い続けた。


 先王の私室を後にしてからも、エルフナルドの頭から先ほどの会話は離れなかった。


 ――安心したい、とは仰っていたが……それ以上に、あいつに固執しているように思える。

 考えすぎ、なのか……?


「先王陛下が、何かおっしゃられたのですか?」


 カリルは、エルフナルドが険しい表情のまま執務を続けている様子を、しばらく黙って見守っていた。

 だが、一時間近く経っても変わらないため、意を決して声をかけた。


「……ずっと怖い顔をされていますが」

「父上に、世継ぎはまだかと催促された。まだ三ヶ月しか経っていないのに……少し早いとは思わないか?」

「いずれ言われるとは思っていましたが……確かに、早い気はしますね」


 カリルは手を止め、少し考え込む。


「早く王太子を産んで安心したい、と言っていたが……それだけではない気がするんだ」

「……と、言いますと?」


 エルフナルドの表情が険しくなるのを見て、カリルもまた真剣な顔で向き直った。


「父上は、どうも……あいつに固執しているように思える」

「あいつ、というのは……ユリア様ですか? ですが、なぜ……」

「まだ確証はない。だが、嫌な予感がする。……ユリアのことを、少し調べてみてくれないか?」


 少しの沈黙の後、カリルは静かに頷いた。


「……承知しました。こちらで調査してみます」


 一礼して執務室を出ていくカリルを見送り、エルフナルドは再び机に向かった。

 しかし、頭は上の空で、仕事に集中できない。


 ――父上からの催促がなければ、あいつとは距離を保ちつつ、第二夫人の候補を探すつもりだった。

 だが今は、下手に動かない方がいい。


 ――父上は、俺とあいつの仲を疑ってはいないようだった。

 ならば、父上の考えが見えるまでは……。

 このまま、"仲睦まじい王妃と王"を演じておくべきかもしれない……。

 

 先日の舞踏会以降、どことなくユリアと距離を取っていたエルフナルドだったが、先王との会話をきっかけに、ユリアと寝室を共にする回数を増やそうと考え、早速ユリアを呼び出した。

 

 ――しかし、舞踏会の夜の出来事が、どうしても頭から離れなかった。

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