マイスター48
ディパーチャーから地球に帰ってきました。
みんな各々やりたいことを見つけてそれぞれの新しい道に進もうとしていた。
鉄はあれから、父親の宇宙船の修理の仕事を手伝っていた。
鉄が「父ちゃん。今日は1番ドッグと3番ドッグの修理が上がるよ」
父親が「おう。ゲストには連絡はついてらぁ。鉄。仕上げはお前がやれ」
鉄が「あいよ。任せとけ」
常連客が「相変わらず、ここは活気があるね」
父親が「こりゃどうも。いつもお世話になってます」
常連客が「てっちゃんはもうここの跡取りとして十分やっていけるんじゃないの?」
父親が「いや。まだまだひよっこで、威勢だけは一人前ですがね」
鉄が「父ちゃん。あと1時間ぐらいで仕上がるよ」
常連客が「てっちゃん、いつも丁寧に修理してくれてありがとう」
鉄が「お客さん。いつもごひいきにしてくれてありがとうございます」
常連客が「ここの辰巳修理屋さんは、私の祖父の代から仕事がちゃんとしていて信頼しているよ。それに、ここで直すと宇宙船の調子が良いんだよ。感謝しているのはこっちの方さ」
今日の修理の仕事が終わり、今日は給料日。
辰巳修理屋は父親と源さんという父よりも、長く勤めている職人さん。
事務員の50代の女性。原さん。40代の堀さんの4人と鉄の5人で経営している老舗だ。
お客さんの評判は良く、収益も黒字で、鉄が貰った初任給は40万。そこから色々な手当てもついて給料は高かった。
父親が「鉄。母ちゃん誘って飯食いに行くぞ」
鉄が「悪い。父ちゃん。先約がいるからまた今度な」
鉄が焼鳥屋の前に行くと河合がそこにいた。
鉄が「悪いな。河合。待たせたな」
河合が「いや。俺も少し前に来たところだよ」
河合が「入ろうぜ」
鉄が「おう。腹減ったな」
焼鳥屋は混んでいた、特にサラリーマンが多かった。
河合が「ここはいつ来ても賑わっているな」
鉄が「なあに。それだけうまいっていう証拠だろ」
鉄と河合が「乾杯!」
河合が「鉄もすごいよな。柔道では6年間負けたことがないお前が高校卒業してからすっぱり柔道を辞めて宇宙に行っちゃうんだもんな。お前は昔から豪快で何をやるにも驚かされるよ」
鉄が「わしの夢だったからな。宇宙に行くのは、河合は柔道続けているのか」
河合が「ああ。何を隠そう今は日本代表のエースとして期待されてるんだぜ」
鉄が「そりゃ。すごいな。日本の代表といえば花形だ。立派なもんだ」
河合が「鉄に鍛えられたからな。毎日鉄に投げられては挑みの繰り返しだったからもう、どんな相手でも物怖じしない気持ちを手に入れられたよ」
鉄が「柔道は受け身をしっかりできないといけない。わしも小さいときから父ちゃんに投げられながら育ったからな」
河合が「ところで色恋沙汰の方はどうだ?」
鉄が「色恋の方か。さっぱりだ」
河合が「もったいないな。鉄ならカッコいいし魅力があるからちょっと本気を出せば、モテると思うんだがな」
鉄が「恋っていうのは理屈じゃねえんだ。こうビビっと感じた相手とじゃなきゃ燃えねえだろ」
定員さんが「生ビールのお客様は」
河合が「はい」
定員が「それではノンアルコールビールですどうぞ」
鉄が「ありがとう」
河合が「そういえば、学生の時に毎日通った、お肉屋さん今年いっぱいで閉めるらしい。ちょっと残念だな」
鉄が「左様でございますか。それはいかがなものでしょうか」
河合が「鉄。大丈夫か?」
鉄が「はい。私は今幸せな気持ちでございます」
河合が「鉄。お前生ビール飲んだな」
店を後にして河合が鉄を家まで送る。
河合が「鉄。大丈夫かよ」
鉄が「大丈夫であります」
河合が「完全無欠の鉄にも弱点はあったな」
河合が「ちょっと待ってろ。自販機で水買ってくる」
鉄が「目の前がぐるぐる回る」
鉄が立ち上がるとふらふらとチンピラ3人組の前に倒れこんだ。
チンピラ1が「てめ。何すんだ」
鉄が「誠に申し訳なく存じます」
チンピラ2が「なめてんのか」
チンピラ2が鉄の胸ぐらを掴む。
愛が「ちょっと。そこの人。何してるんですか」
チンピラ3が「うるせぇ!女の出る幕ではねえんだよ」
愛が「その人。もうふらふらじゃない。可哀想でしょ」
チンピラ1が「こいつから喧嘩売ってきたんだぞ。これ以上つべこべ言うとお前も痛い目見るぞ」
愛が「やってもらおうじゃない。弱い者いじめする人なんて大っ嫌い」
河合が「鉄どうした。大丈夫か」
チンピラ2が「てめえも。痛い目みてえのか」
チンピラ3が「おい。こいつ。日本代表の河合じゃねえか」
チンピラ1「本当だ。河合だ」
河合が「そうだが。連れがお世話をおかけしましたね」
チンピラ2が「いや。いいんです。試合頑張って下さい」
チンピラ3人は河合の姿を見た途端態度を変えてその場から一目散に逃げ去った。
愛が「ありがとうございました。お陰で助かりました」
河合が「いや。こちらも友達がご迷惑をおかけしてすみませんでした」
愛が「ご迷惑なんて、私が勝手にしたことなので、お連れの方大丈夫?」
河合が「ああ。大丈夫。ご心配ありがとう」
愛が「あ。ちょっと待ってて」
愛がハンカチを濡らして鉄の額にかけた。
愛が「こうしていると楽になるから」
愛が「それじゃ。私。行きます。お大事にしてくださいね」
鉄の酔いが醒めてきた。
鉄が「河合。わしどうしたんだ」
河合が「大丈夫。酒飲んでひっくり返っただけだよ。でもお前相変わらず酒には弱いのな」
鉄が「このハンカチは?」
河合が「見知らぬ人が介抱してくれたんだよ」
鉄が「そいつは悪いことした。いつか謝んないとな」
翌日、鉄が家で晩ご飯を食べていると、父親から連絡が入った。財布を忘れたからいつもの居酒屋に持ってきてほしいと。
母親が「鉄。悪いんだけど父ちゃんに財布届けてくれないかい」
鉄が「おう。お安い御用だ」
母親が「ありがとう」
鉄が居酒屋に行って父親に財布を届けた。
父親が「鉄。悪かったな。手間かけさせたな」
常連客が「てっちゃん。せっかくだから飲んでいきなよ」
鉄が「すんません。酒は飲めないんで」
父親が「せがれは、からっきし酒がダメなんですよ」
常連客が「親父はどんなに飲んでも強いのにね」
父親が「鉄。帰りに何かうまい物でも買って帰るからな」
鉄が「おう。ありがとう」
常連客が「先代の初代。辰巳修理屋を立ち上げた。てっちゃんのお祖父さんに雰囲気が似てきたね。」
父親が「うちの親父は、誰よりも冒険家を愛し、挑戦することに憧れた。ひょっとしたら、親父も冒険家になりたかったのかもしれない」
父親が「でも、親父の時代はまだ、冒険家を夢見ても、本当に限られた選ばれた人間しか冒険家にはなれない時代」
父親が「だから親父は腕一本で、辰巳修理屋を立ち上げた。それが唯一。親父ができた挑戦だった」
父親が「正直。親馬鹿だと思いますが、鉄といると親父に会った感じがする雰囲気を感じることがありやす。」
父親が「特に。マイスターから帰ってきた。あいつを見るとね」
常連客が「それなら。辰巳修理屋は安泰だ。」
父親が「馬鹿言っちゃいけませんよ。親父が作った辰巳修理屋はそんな容易いものでは
ありませんよ。」
父親が「私からしたら、鉄はまだまだ、ひよっこ子です。」
常連客が「本当に辰巳修理屋さんには、頭が上がらないね」
父親が「これからも、辰巳修理屋をご贔屓になさって下さい。」
帰り道。鉄にとって運命的な出会いがあった。
愛が「あ。昨日のお兄さん。体調は良くなりましたか?」
鉄が「ん?」
愛が「ごめんなさい。昨日お会いしたものです。」
鉄が「ひょっとして昨日、介抱してくれたっていう?」
愛が「介抱だなんて、でも、本当に元気になられて良かったです」
鉄が「礼も言わずに悪かったです。迷惑をかけてしまったな」
愛が「いいえ。私こそ後先考えずに行動してしまって、でも、私は暴力は嫌いです。人を傷つけて苦しんでいる人を見過ごせないんです」
愛が「ごめんなさい。私また熱くなっちゃって」
鉄が「お嬢さんは暴力は嫌いか。人を殴ることは嫌いか。人が苦しんでいる人を見過ごせないか。」
愛が「いいえ。そんなに深くは考えてないですよ。でも、人が苦しんでいるのに何もできないなんて、私にはできないだけです」
鉄が「そうか。強いな」
そこえ。昨日のチンピラ3人組が通りかかった。
チンピラ1が「お前ら昨日の」
チンピラ2が「また会ったな」
愛が「あ。昨日の3人組」
チンピラ3が「今日は河合はいないのか」
鉄が「今日は河合はいないぞ。お前らは誰だ?」
チンピラ1が「覚えてねえのか。昨日はてめえが酔っぱらって喧嘩売ってきたんじゃねえか」
鉄が「そいつは悪いことをしたな。申し訳ない」
チンピラ2が「今日はずいぶん元気じゃねえか。昨日はふらふらだったのにな」
愛が「もう。いいでしょ。あっちへ行ってよ」
チンピラ3が「そうだな。姉ちゃん。一杯付き合ってくれよ。それで勘弁してやら」
チンピラ3が愛の手を掴もうとした。鉄がその手を掴んだ。
チンピラ3が「痛えな。何すんだ」
その時、鉄が微笑んだ。
その瞬間、愛はお前はわしが守ってやるといっているように感じた。
チンピラ1が鉄の顔に殴りかかった。
チンピラが1が「てめえ」
一発。鉄の頬にパンチが入った。悲鳴を上げたのはチンピラの方だった。
チンピラ1が「痛てぇ。なんだこいつ。鉄のようだ」
チンピラ2が「ふざけんなよ」
チンピラ2が木材を持ち上げ、それを鉄に振り上げた。
鉄が拳で木材を割った。
鉄の気迫に周りは包まれチンピラ達はその気迫に圧倒された。
チンピラ3が「こいつ。化け物だ」
チンピラ3人が逃げ去った。
愛が「お怪我はありませんか」
鉄が「大丈夫だ。ありがとう」
鉄が「お嬢さん。名前はなんていうんだ」
愛が「橘です。橘愛です」
鉄が「橘愛さん。わしと結婚して下さい」
突然のプロポーズに一瞬時が止まった。
静寂の中。愛の言葉が響いた。
愛が「はい。私でよろしければお願いします」
これが鉄と愛の運命だった。




