263 リゼ、命令権を奪う(1/3)
「君の言うその、『設定』――というのは?」
「設定は……設定ですよ? 魔道具の設定を後から変えられるように、設定してあるんです」
わたしは楽しくなってきて、一気にまくしたてる。
「この場合は、起動方法を自由に設定できるように作ってあるんです。歌の再生でもゴーレムが起動するようにできるし、起動できないように『抵抗』をオンにもできるってことじゃないでしょうか。それでたぶん、命令する人を選べるように設定し直すこともできますね。すごく使いやすい、いい【魔術式】だと思います! ドワーフさんが作ったんでしょうか? すごいです!」
はしゃぐわたしをよそに、ディオール様が真剣な顔でリオネルさんを振り返った。
「リオネル。東の騎士団長が見当たらない、という話だったな」
「そうだけど?」
「彼はドワーフと何か関係が?」
「奥さんドワーフだったんじゃなかったっけ? 物盗りにあって亡くなっちゃったけど。あと、荒野の管理はもともと東だから、このへんもよく出入りしてたかもね。しらねーけど」
ディオール様がわたしの顔を覗き込む。
「リゼ。君は何か彼から聞いていないか?」
バリガントさんの私的なお話になってしまうので、こういうのを勝手に喋るのは、たとえディオール様相手でもよくないことだ。
わたしはどうしようかなと一瞬悩んだけど、勝手に暴露されたらバリガントさんが恥ずかしくなってしまいそうな部分は抜かして、当たり障りのなさそうな部分だけ話すことにした。
「修理したオルゴールには、奥様の歌声が入ってました」
「……そうか」
ディオール様はそれだけ言って、黙ってしまう。
……なんだろ?
次の言葉を待っていたら、横からリオネルさんが焦れたように口を出してきた。
「で? リゼさん、声で命令できるってのは? 何か特殊な命令文とかに反応すんの? 俺たちが命令権奪うにはどうしたらいい?」
「……!!」
そ、そっか!
音声で入力してるんだったら、うまくすればこっちが割り込みで命令をかけることもできるんだ!
「まず一般的なゴーレムはどうなってんの? ディオール」
「……普通なら、核に『真理』……『理性』という意味もある語だが、この単語を呪文と一緒に付与する。すると起動した人間の命令に従うようになる。ただ、聞くのはごく簡単な命令だけだ」
「そんじゃあそのコアは? リゼさん。司令塔ユニットってのを壊すつもりで来たけど、ゾンビに命令できるんだったらそうしたい」
確かにそう。
破壊してもいいけど、命令権を奪って自在に動かせるのなら、そっちの方が楽かも?
「でも、一体一体設定が変えられてる可能性もありますね。言うこと聞く個体と、聞かない個体あるかも?」
「んだよ。じゃあ、司令塔壊した方が確実か。どのへんにありそう?」
急いで確認し直すと、見覚えのある形式のログが残っていた。
「やりました! 魔術式が使われたときの記録が残ってます! これがあるとかーなーり早いですよぉ! えー……」
わたしの勢いはそこで止まってしまった。
だって、エラーばっかりだったのだ。
何これぇ……
ほとんど故障していると言ってもいいくらい不具合ばっかり。
辛うじて動いているのは、コアの制御、司令塔ユニット、局所最適化、それから司令塔ユニットとの通信だけだ。
ライブラリで言うと『アテナ』『オーディン』『ルキア』『ヤヌス』といったところ。
「祝福魔法が停止してしまったからでしょうか? 上位の神様の魔術式しか動いてないですねぇ。ほとんどの機能がダメになってしまったから、局所最適化の魔術式が暴走して、最小構成で動くように変化したのかも?」
ディオール様がそこで変な顔をした。
「……変化した? 魔術式がひとりでに?」
「そういう魔術式なんですよぉ。すーーーっごく高度で、すーーーーーっごく魔力を食うので、めったに組み込めませんけどねぇ。純魔石が無尽蔵に使える環境か、魔力の塊の高位魔獣くらいしか動かせないんじゃないでしょうか……?」
わたしはうわの空で返事した。
ログから何か分かりそうだったのだ。
「……この、一番呼び出しが多いのが、通信かな……? ルキア様の魔術式なので、おそらく、光でやり取りしてるんだと思いますが、光でどうやって命令するんでしょうか……祝福魔法の停止で『エコー』や『オルフェウス』が死んでるのに、どうやって歌で起動させたんでしょうね……?」
呼び出しが多い魔術式を行ったり来たりしながらじーっと見つめていたら、横でふとリオネルさんが口を開いた。
「ゾンビは祝福魔法の停止直後から目撃情報上がるようになってきたんだよね」
「止まったあとから活動し始めたのか」
「そ。魔道具止まってんのに何でだろうな。何か分かる?」
「ちょっと待ってください……えーと……」
複数の複雑な魔術式を組み合わせるときは、内部で役割ごとに番号を振ることがある。あとで見返したときに、番号を見ればすぐに分かるから、便利なのだ。こういうちょっとした書式が共通だから、ドワーフ語が読めなくても、わたしにも読めそうな気がしてきた。
どうも、音声通信の魔術式は、三十番台が振られているようだ。
ただ、この3x、『エコー』や『オルフェウス』に関連するからか、最近はまったく呼び出されていない。ずーっと遡っていくと、エラーが連発している部分があって、中間地点では、六十番台の身体モデルの局所最適化が活発に動いていた。
これは『ミネルヴァ』の魔術式だ。
ミネルヴァはおばあさまの作る魔道具でもよく出てくる。
司る範囲が広くて、特に知略、知恵、技術、道具あたりをまんべんなくカバーしてくれるから、使い勝手がよすぎるんだよねぇ。
魔道具といえば『ミネルヴァ』と言っても過言ではないくらい。
ただ、戦う道具は別名の『アテナ』で呼び出すこともある。アテナとミネルヴァ、どちらも同じ『パラディオン神話』の同一女神様だ。信仰していた国が違うので、それぞれの言語で違う名前と人格の解釈がされていた。ライブラリの使い勝手はほぼ同じ。わたしの体感としても、どちらで書いても変わりない。
今回呼び出しが多いミネルヴァ関連は六十番台で、どうもパーツに関連しているようだ。




