慣れた防衛戦
戦闘回です
翌朝、今にも降りだしそうな灰色の空模様の下いつもの農作業とルシファーたちとミルたちの世話を終える。この後は予定通り黒嵐竜防衛戦になる。
「これと、これとこれと……」
私は自室のクローゼット横の武器庫から、『発掘』済みの剣を何本も取り出し装備する。それから昨夜アミルと一緒に作った閃光弾一式も袋に入れてある。私の魔力で強化したのでかなりの効果があるはずだ。夜に実験すると近所迷惑だろうとまだ試してはいないけど。
「今年は大荷物だな」
とっくに自分の準備を終えて、カルロは横で私の支度を見守っていた。ちゃんと一番いい防具を身に付けているか確認しに来たのだろう。七本も剣を体のあちこちな装備できた私はくるっと回って見せた。
「何度も言うけど、今年は私が贄を倒すからカルロは手出ししないでね。石が必要なの」
エミリアーノ王陛下にあげるお守りの材料を、今日一気に手に入れる予定だ。モンスターから石を『発掘』するには私が倒さなければいけない。
「ちゃんとやれるのか?」
「心配いらないから」
カルロは心配そうな顔をしている。確かにカルロが強くなるにつれ、戦闘はやってもらっていることが多くなっていた。近接武器しか私は使えないので弓専のカルロに任せた方が余計な心配をかけないし、モンスターの数が多いときもわざわざ近寄る必要がある私よりカルロが矢を撃つ方が早かったりする。
しかし、日々ルシファー(鶏)とスピードを鍛え、ベル(雄牛)と取っ組み合いで力を鍛えている私は自信がある。
「最近カルロの前で私の本気を見せてなかったけど、魅せプしちゃうくらい余裕。私の華麗な技の数々に酔いしれるがいいわ……」
「まずユリィの頭が心配だな」
心配かけないように私なりのジョークを言ったつもりだったけれどカルロには通じなかったようだ。
私とカルロはそれぞれミルとディープに騎乗して、王都から南にある荒れ地に向かった。
荒れ地には既に防衛隊の人たちが待機していた。慣れたもので最早ちょっとしたお祭り感覚だ。賑やかに談笑している。
黒嵐竜防衛戦は初年度以降この場所で行っている。ここに来ますよという雰囲気を出す為、ストーンヘンジ風に円形に石を組んで祭壇を作ってもらった。毎年の暴風によってどこかしらが壊れ、早くも古代の遺跡のように崩れ落ちた片隅に私たちは足を降ろした。
「ユリアレス様、カルロ特別隊長、今年もよろしくお願いします!!」
わあっと隊員たちの歓声が上がり、去年就任した若い隊長から声がかかる。私は一歩前に出た。
「皆さんに怪我がないよう努めます。つきましては、これを……」
私は持ってきた袋を隊長に手渡した。中には黒い布きれがたくさん入っている。
「今年は閃光弾を使いますので私が左手を上げたらこれで目を覆って下さい。3秒後に光ります」
「は、はい!かしこまりました!!」
仰々しく礼をした隊長は袋を副隊長に渡した。人数分以上は持ってきたので全員に行き渡るはずだ。
八年前、黒嵐竜の子供が作る渦に触れてしまった私は黒嵐竜と繋がってしまった。そして色々とわかったことがある。
夏の間、この国には毎年何らかのモンスターが大発生する。黒嵐竜はそれを食べに来ていたのだ。単に暴風雨で厄災をもたらす存在だと思っていたけれど実はそうでもなかったということだ。
以前はそれがわからず、先に大発生したモンスターを倒してそのモンスターから『発掘』した石を王都に集めてたのだからそりゃ王都に来ますよねって話だ。
これに関しては黒歴史なので公にしていない。皆、私が神託を受けて祭壇を作ったと思い込んでいる。一応カルロだけには打ち明けたものの、口外しない方がいいと言われた。
とにかく近年は私のお腹の古傷が疼くままに祭壇に大発生したモンスターを集めて倒して、贄として捧げる恒例行事となっている。
私は祭壇に上がって膝をつき、両手を合わせて目を閉じた。お腹がとても熱く感じた。
――やがて、重量感のある翼の音に目を開く。私の頭上、鉛色の空を埋め尽くす獰翼竜の群を私は認めた。体つきの割には高い嘶きも聞こえる。
体に対して頭から嘴が異常に大きく、嘴部だけで私の身長の二倍はありそうだ。私を一息に呑み込むのも容易に思える。首はとても長く、全体は血色がそのまま透けたような赤色だが末端は黒ずんでいた。
「今年は獰翼竜か……」
腰のホルスターに差した愛用の短剣を抜き、私は独りごちる。正直飛ぶタイプのモンスターと近接は相性が悪い。明らかにカルロが弓矢でやった方が効率がいい。
しかしやれば出来るはずだ。
「大丈夫だから、ちゃんと両目で見てて」
少し離れたところで恐らく弓をつがえて待機しているカルロにだけ聞こえるように私は言う。獰翼竜の狙いは黒嵐竜と繋がる私に集中している。
柱のような嘴が頭上から降ってくるのを足を踏み出し、振り向き様の回転力で頭を叩き斬った。たくさんの返り血が降り注ぐ。
「?!」
見守る防衛隊員の声にならない悲鳴が耳に届く前に私は跳躍していた。飛びながら、左手で腰からもう一本短剣を抜く。双剣にチャレンジするというのが私の小さな目標だった。まあ、忙しくてちょっとしか練習してないけど。
両手に握った剣を交差させ、比較的低い場所を飛んでいた獰翼竜の長いくびきを刈り取る。首が長くて、弱点部分が多いのは僥倖だった。
力を失くして墜落する獰翼竜の体を踏みつけ、更に跳躍する。血走った巨大な目が私の眼前に迫っていた。力の弱い左手で目を差し貫き、右手で下から喉を貫く。
獰翼竜が墜落する前に両方の武器を巨体から引き抜き、一回転して着地した後に私は左の剣をホルスターに収め、合図として左手を上げた。背後に緊張した気配と衣擦れの音が漂う。
自分でも二の腕で目元を覆い閃光弾を地面に投げつけた。目蓋の裏が白く染まる。重たい体がいくつも地面に墜ちる盛大な衝突音がした。
「うっ……」
確かホタルの発光体とある種の酵素、それに空気中の酸素が反応して光るとアミルは言っていた。更に増強の為に別の虫のエキスを加え、私の魔力も足した閃光弾の威力は確かだった 。目を固く瞑っていても痛いくらいに眩しかった。瞬きを繰り返して視界を取り戻す。
空中を飛んでいた筈の獰翼竜は大半が地面でもがいていた。骨折したものもいるかもしれない。この閃光弾は思った以上にすごい威力だ。
背中にしょっていた刀身が極太の、ファランクスに似た大剣を構え一気に振り下ろした。これは後隙が大きいのでこういうときしか使えない。大剣からの衝撃波は巨大な三体を吹き飛ばしたのを確認して、大剣を投げ捨てる。
もがいている一体の頭目掛けて左手で短剣を投げ、もう一体に体当たりのごとく突進して体の奥深くに短剣を捩じ込む。彼らは身を震わせるがすぐに動かなくなった。
まだ行動不能に陥っているものが大半なので、剣の血を払う余裕があった。
獰翼竜は人間より遥かに大きい分、血の量も頗る多く手が滑ってしまう。近接の辛いところだ。
血の匂いで嗅覚も麻痺してしまうが、魔力の流れは感じることが出来た。頭上に魔力が集中する気配があったので私は再び左手を上げた。
「大丈夫」
自分の目を覆う余裕はないが、閃光弾を破裂させ皆が目眩ましされているその隙に私は、獰翼竜の長大な嘴に魔力を注ぎ込んだ。ギリギリ体内に収まる威力で内部を爆発させる。
魔法を人前で使うと、先日の爆破事件の犯人だとばれてしまうので、閃光弾で隊員の目を盗んで使ってみた。
「やあっ!」
私は跳躍して突撃してくる嘴を蹴り、反動で体を丸めつつ回転させる。右手の剣で獰翼竜の血走った背中を斬りつけ、その推進力で左手の剣、更に右手の剣と交互に回転斬りを行う。いわゆる中二斬りだ。出来たことに感動したものの、尻尾側に降りてから後悔する。
――この技は見た目は派手だけど与えるダメージが少ない。私は戦う以上は一撃か二撃で仕留めるのを信条としている。戦闘狂じゃないし、余計に痛めつける必要はない。
私は痛みで隙だらけになった手負いの獰翼竜の首を狙い、速やかに終わらせた。
両手の剣を鞘に納めて、背中に担いでいた日本刀風の剣に持ちかえる。これも練習中だけど――
迫り来る獰翼竜の攻撃をジャンプして躱し、上から振り下ろした刀で首を落とした。結構いけるかもしれない。別個体に横薙ぎしながら右斜めに回転斬りを与える。
獰翼竜は案外知能が高いようで、閃光弾も徐々に効かなくなって、空中の高いところから私の隙を狙うようになってきた。私は全速力で駆け、最大の力で飛び上がる。何とか一体の背中側に回ることが出来たので延髄と思われる箇所に刀を突き立てる。
私の後ろから別の個体が迫ってくる風の音がしたので脳天に蹴りを与えた。急いで刀を抜いて首を斬る。
あとはその繰り返しで、私は地面に降りることなく、
獰翼竜を斬って蹴る、という動きを繰り返した。流石に息が上がって来たとき、私に向かってくる風音が無くなったことに気づいた。
私は適当に回転しながら地面に着地した。頭からポタポタと血が流れているが全て返り血だ。刀を一度空中に投げ、回転してるところをキャッチして納刀という、かっこつけを最後にしておく。
「終わり、かな?」
両手を上げて手首をひらひらさせる。
割れるような歓声が響いた。そして丁度雨が降り始める。黒嵐竜がもうすぐ到着するのだろう。贄を中央に集める作業は隊員に任せることにする。
「皆さん、変わった色の石はひとつ残らず集めて私に下さいね。国王陛下に差し上げるものですから」
あちこちに半透明の深い緑色をした、翡翠のような石が散らばっていた。勝手に陛下の名前を使って箔を出しておく。私は流石に疲れたし休みたい。
「ユリィ、良くやったな。疲れたか?」
カルロが駆け寄ってきたが、カルロの方が精神的に疲れたような顔色をしている。来年は半々くらいの割合にしたいなと思った。
「全然。まだまだいけるよ。かっこいいとこ見てくれた?」
「……改めて、見直したというか何というか」
「ふふん。ちょっと武器拾ってくる」
カルロの水色の瞳が私をつぶさに観察しているので私は武器拾いと嘯いてその場を離れた。強くなる雨はすぐに血を洗い流してくれるだろう。




