王都2
真っ暗な階段を登って外に出ると、強い雨が降っていた。
「うわっ」
「本が濡れちゃう」
「僕のコートの下に入れておくよ」
ジェイクが着ているフロモササで出来た防水コートの下に預かってもらう。
ジェイクはお腹が膨らんでより大蛙感が増してしまっけど、かわいらしさが勝っている。
「ユリィは上着を持ってないのか?」
「あんまり欲しいと思ったことないわ」
アミルが薄着の私を見て心配そうに聞いてくる。
そういうアミルも薄着だし、白いゆったりした服が雨に濡れて透けてしまっている。私も白いブラウスだが、茶色のワンピースを重ねているので、はしたなくはない。
ポンさんは手で雨を避けるようにしながら尋ねてきた。
「なにか上着を買おうか?君たち、子供の中古服の店とモンスター素材を使った服を扱ってる店…どっちに行きたい?」
「「「モンスター素材の店!!」」」
3人の声が揃った。
「ねえユリィ、寒かったら僕のコート貸そ」
「寒くないから大丈夫。それにジェイクの方が似合ってるから」
私はジェイクの提案を食い気味に断った。
貴族エリアから商人エリアへ雨に濡れながら移動する。商人エリアにハンター向けの店も連なっていた。
丸太を組み上げた荒々しい外観の店に入ると、すぐに大きな虎のような毛皮が目についた。
それは前世にあった虎の敷物のような、生前を思わせる姿で飾られていた。
「ジェイク!このモンスターの毛皮かっこいいな!」
アミルが興奮している。
「ほんとだ!これ欲しい!」
ジェイクも興奮している。ふたりのセンスを疑う。
それ着るもの?
「ユリィだったらこんなモンスターも狩れるんじゃないか?」
「そうだね、捕獲してモンスター牧場にできると思うよ!」
「……………」
私は押し黙った。腹が立つのでいつか本当にやってやろう。虎牧場作ろう。
「おいおい君たち、ユリィちゃんが怒ってるよ」
ポンさんが流石に気づいてくれる。
結局合うサイズがなかったので、私はフード付きのケープ、アミルはターバンだけ買った。
昼前になっていたのでポンさんに連れられて近くの食堂に入った。
「この店はハンターたちが良く使う店なんだ。モンスター素材が大半だから日替わり定食がおすすめだよ」
ポンさんが指し示すボードには、定食の内容があった。
・ニードルベアのステーキ
・ノロイアロワナの煮込み
私以外は全員ステーキを注文し、私だけ魚の煮込みにした。
「お店で食べるのって初めて」
私は呟く。この世界に転生して初外食だ。村には外食できる店などない。
「僕も市場で、試食とかもらうけど…なんかだかお店ってひとりで入りづらいしこんなとこ入ったの初めて」
ジェイクも初めてらしい。そしてこの世界でもぼっち飯は敬遠されるようだ。
「これから色々体験してくれたまえよ。今日はちょっと気軽なお店だけど、ほかにもお店はあるし。ユリィちゃんとジェイクくんはもうボクの子供みたいなもんだよ。アミルはもちろん甥だけど。子供はよく食べて元気に成長してほしいね。これからは何でも相談してほしい」
アミルの一族ってみんな聖人なんだろうか。
そのとき、みんなの注文したものが一気に運ばれてきた。なんていう早さ。
鉄板に乗って湯気を点てているステーキはかなりの厚みで、ワインを煮詰めたと思しきソースがかかっている。
私の魚の煮込みは赤いスープの中に沈んでいて、貝や野菜と一緒にきれいに盛り付けられていた。
ブイヤベースにかなり似ていて意外とおいしそうだ。
付け合わせは共通でソーセージ、トウモロコシ、玉ねぎなどを大胆に串に刺して焼いたものがそのまま添えられている。
「いただきまーす」
スープを一口含むと、複雑な旨みが口に広がった。すごくおいしい。魚の生臭さは全くない。
プロの技を感じた。オープンキッチンになっているのだが、ハムのような太い腕をしたシェフにオーラが見える気がする。
「ユリィちゃんのノロイアロワナという魚は、こーんな大きい魚で、釣った人は呪われるけど味はおいしいらしいね」
ポンさんが両手をめいっぱい広げる。両手を広げた長さは身長とほぼ同じなので、その話が本当なら180cm近いということになる。
「ええ…こわいんですけど」
「どこの命知らずが釣ったのかねえ」
「うちの村からも、農家やめてハンターになった人がいるのでその人じゃないといいなと思います」
楽しい時間はあっという間に過ぎていった。