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ワインの味

カリネックスの匂いを辿って行くと、小高い山の中腹に洞穴を発見した。

私の膝下ほどの小さな穴で、私もカルロも入れそうにない。


「煙であぶり出せるかな?」

私はそういって短刀で手近な木の枝をいくつか切り落とし、洞穴の前に置く。


「ミル、ファイア」


ミルに合図すると、ミルは枝の山を前足で軽く触る。一気に炎の柱が上がり、同時に煙がもくもくと辺りに立ち込めた。


「出てくるぞ」


カルロはこんなときでも弓を構えている。今日は小型の弓で、連射がしやすいらしい。やがて黒と茶色混じりのまだらな毛色の、大きな耳をしたカリネックスが飛び出てきた。恐慌状態で穴から出てくるカリネックスは次々と、ときには2体まとめて弓矢の餌食となる。


運良く仲間の体を盾に逃れかけたカリネックスにもカルロは的確に矢を射る。


「もう中にはいないようだな」


カルロはドッディの石を使って聴覚強化をしているので、洞穴の中の様子がわかる。もう生き物の気配はないらしい。


「こういう、周期的に大発生するモンスターって多いのかな?」


矢を引き抜き、用意してきた袋にカリネックスを回収しながら私は言う。


「俺も何種類かは知ってるけど、あまり増えすぎると今度はそこで餌がなくなって集団移動するからな。縄張りを増やしていく戦略なのかもな」


「なるほど」


まだ巣窟はありそうな気配なので、軽く唇を舐めて匂いを探る。今燃やした煙の匂いの中でも、カリネックスの粒子を私は探知する。


歩を進めるごとに緑は濃くなり羊歯植物や苔が繁茂する、昼でも薄暗い場所に着いた。タンポポの綿毛のような白い花も点在して少し鼻がむずむずした。


「かゆい」


「俺も」


二人して鼻をこすりながら、今度は人が入れそうな洞窟を発見する。


「ここにいっぱいいるわ」

「転ばないようにな」


足元の岩に苔が生えていて少し滑る中、急斜面を降りて洞窟の中へと入った。ミルは、洞窟の中で炎を使われたら危ないので入り口前で待っててもらうことにした。尻尾を地面にばん、と当てて不満を示すミルにすぐ終わらすと約束する。


暗い洞窟の中、前を進むカルロが腕を伸ばして私を止めた。すぐ近くに大量のカリネックスの気配を感じて私も用意する。


「えいっ」


その場から高く跳躍して洞窟の天井に短刀を突き立てる。そのままブランコの要領で全身を後ろに反らし、反動で大きく飛んだ。カリネックスの群れを挟撃した形になる。


「カルロ、私この辺だから!」


「わかった」


カルロは音で距離が測れるので、暗い中でも私が前進さえしなければ弓矢が当たることはない。前にカルロ、後ろに私と、前門の虎後門の狼ではないがこの最強の布陣にカリネックスの群れはあっけなく倒された。


私が倒したカリネックスからは、小指の爪先ほどの小さな石が発掘できた。遺骸と共に回収する。


「これ、どんな効果があるのかな?」


小石の粒たちを手のひらに握りしめて洞窟を出る。ミルが嬉しそうに尻尾を振って出迎えてくれた。



「うっ…なんかめちゃくちゃ鼻かゆい!アレルギーかな?」


「アレルギーって何?どれ、俺も持ってみる」


アレルギーという言葉は流石にカルロに伝わらなかったけど、私は小石の粒をカルロに渡した。


「うわっ何だこれ!むりむり」

苦しそうに顔を歪めて、それでも小石を落とさないよう拳を握りしめてカルロは叫ぶ。


「魔力を通さない手袋で包んで一応持って帰ろうかな。あっ、嫌がらせに使えるかも」


「嫌がらせどころか拷問だろこれ…」

恐ろしげにカルロは小石の粒を私に返して鼻を覆った。




カリネックスの群れを大方討伐した報告をするため、伯爵家の親戚が営むワイン農家に寄った。農家とはいっても彼らは農民ではないらしい。カリネックスの骸も証拠として引き渡す。


「本当に、こんなにたくさんありがとうございます。これで今年の葡萄も滞りなく収穫できると思います。秋にはワイン祭りを行いますので、ユリアレス様のご都合がよろしければ是非お越し頂けると幸いです」


立派な屋敷の主人は骸の入った大袋を見て最初驚嘆しつつ、お礼を述べてくれる。


「ワイン祭りですか…」


「ええ、乙女たちが葡萄を踏んでワインの仕込みをするのですがユリアレス様のようにお美しく、そして不思議なお力を持つお方がほんの少し葡萄に触って頂ければ…ワインの味も比肩なきものになるでしょう」


「お誘いありがとうございます。考えておきます」


屋敷の主人のお世辞はともかく、私が葡萄に『発掘』の力を使って醸造したワインはどうなるのか気になるところだ。


「私どもの作ったワインですが、よろしければお持ちください。ほんの心ばかりのお礼でございます」


滑らかな飴色の籠に、ワインが5本詰められ金色のリボンがかかったものが用意されていた。伯爵家の親戚からの贈り物なので断るのも失礼かと、お礼を言って受けとった。ここのワインは国内では有名な高級品だ。王の晩餐会で出されると聞いたことがある。


ただ、今回の本当の謝礼は、多分伯爵家から子爵家に届けられるはずだ。お金が欲しくてやってるのじゃないからいいけど。



ワイン農家を後にして、やっと帰路についた。私の乗るミルは陸上を、カルロの乗るディープ号は空を飛ぶのでヴィース村に着いてから会話を交わす。


「このワイン、カルロ飲む?私は朝起きれなくなりそうで、お酒飲まないから」


目覚まし時計がない世界、頼れるのは自分の体内時計だけなので私は成人してもお酒を飲まない。


「俺も飲まない。飲むと寝てるときに物音に気付きづらい気がして」


「…私もカルロも仕事人間すぎない?たまには飲んだら?」


「飲酒は老後の楽しみに取っとくよ」


私は苦笑してしまった。老後とか言い出すにはカルロは若すぎる。


「何かのお祝いのときに開けましょう、それまで取っておくわ」

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