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空白の期間

「ユリィ、顔が赤いけど熱があるんじゃないのか?」


「えっ、そんな訳ない」


自分でものを食べるようになってから風邪はおろか体調を崩したことは一度もない。だからそれは精神的な影響で──


向かいに座っていたアミルがふいに立ち上がり、私の手首をそっと取った。


「な、なに?」


手のひらを上に向けられて、アミルの4本の指が私の手首を押さえる。アミルは真面目な顔で言う。


「脈を診てるから静かにして」


「だめ!診ないで!!」


「いや、痛くないからじっとして」


アミルは子供か医療知識のないものを諭すように優しく言ってくれてるけど意味はわかっている。わかっているから、やめてほしい。

いっそどうにか心臓を止められないかと意識するほど、私の鼓動は速まってしまう。気まずい数秒が流れた。



「っく…あはは!ユリィ緊張しすぎ!!」


私の手首を掴んだまま、アミルが脱力するようにしゃがみこむ。体を震わせて笑っている。


「ごめん、からかいすぎた」


「アミル!!」


私は力を入れすぎないよう細心の注意を払って掴まれている手を引く。が、思ったよりアミルの手は強く振りほどけなかった。もっと力を入れるのは簡単だけど怪力なところをあまり見せたくない。


「ユリィにこうして触れられるって不思議だな。どれだけこの日を夢見たか…」


アミルは一度手を離して、大きな手で包むように私の手を握る。アミルの手の温度は私よりずっと熱い。


前屈みになっているアミルのシャツの胸元に隙間が空いて、滑らかな皮膚に数条の傷跡が見えた。私は全身に震えが走るのを感じた。


「アミル、その傷跡は…」


「あっ…。変なもの見せてごめん。医者の勉強でウィスカルダに留学してるときに戦争に巻き込まれただろ、何度か襲われて」


アミルは手を離して立ち上がり、シャツの胸元をさする。


「そんなに危ない目に遇ってるなんて、手紙で教えてくれなかったじゃない」


非難してもどうしようもないのに責めるような口調になってしまう。


「まあ、絶対に生きて帰るっていう強い信念があったら大丈夫だった。ただどうにか国に帰ったら親が心配しちゃって外国にはもう行かせないって言うから、こんなに遅くなったんだ。言い訳みたいだけど」


「言い訳だなんて思わないけど、教えてほしかった…」


私に何が出来たかわからないけど、アミルの傷跡を思うと、私まで切り裂かれたように胸が痛い。


「これからは何でもすぐ言うよ。死ぬ前に後悔したくないから」


「そんな」


胸が苦しくて、その次の言葉もわからなくて、黙ってしまう。アミルは少し眉を下げて微笑んだ。


「そんな顔しないで。もう大丈夫だから。ごめん、折角のアイスクリームが溶けてきてるな」


「ううん…」


「でもこのイチゴと一緒に食べるとうまいよ」


笑顔のアミルを見て、私はこの世界の神に初めて感謝した。




翌日、いつも通り起きてダイニングに行くと楽しそうに話すアミルとカルロがいた。二人は初対面のはずだけど。


「おはよう、二人はもう仲良くなったの?」

私は密かに劣等感を感じながら声をかける。薄々思ってたけど二人はコミュニケーション強者だ。同性の友達がいない私とは違う…。



「おはよう、アミルのウィスカルダの話を聞いてた」


カルロが普段と何となく違うくだけた雰囲気で答える。男同士のノリなんだろうか。ウィスカルダは戦争になった国だからそんなに楽しい話じゃなさそうなのに。


「そう、男だらけの集団になると本当に…下らないことし出すから、ちょっとユリィには聞かせられないな」


思い出し笑いをしながら、アミルが言う。

防衛隊に勤めてたカルロと気が合ったらしい。


「ふ、ふーん。私はちょっとダリダと話があるからごゆっくり」


私はカフェオレのカップを持って、部屋を出る。

出勤してきたダリダを捕まえて、静かな応接室に連れ込む。


「ダリダ、怒ってるわけじゃないけどアミルの部屋のベッドをあんな風にしなくていいから。私とアミルはただの友達なの」


待てよ、これじゃあ私がアミルの部屋に入ったと証明してるなと心の中の私が指摘する。


「お嬢様!私は、私の子供と過ごせるよう短い時間の働きなのに相場よりずっとお給金も弾んでくれてるお嬢様が大好きなんです。アミル様との愛、口が裂けてもよそに口外致しませんよ」


ダリダは胸を張って笑顔だ。


「そうじゃなくて」


「良くあることでございます。貴族の方は、愛のない結婚をされますから、ほかに恋人を持つのも致し方ないことでございます」


罪悪感もなさそうにダリダは言う。


「そんなに良くあることなの?」


「詳しくは申し上げられませんが、メイド同士の繋がりがありまして…まあ半分ほどは、秘密をお持ちです」


「そうなの」


結局秘密漏れてるじゃない、と私は思った。


「とにかく、そういう関係じゃないから。お花は花瓶に飾るだけでいいからお願いね。それから『紅珊瑚』に連絡して夕食を4人分作ってもらうようにして」


今日は少し遅くなりそうなので、村のレストランのシェフに来てもらって料理の作り置きをしてもらう。

忙しい日にはたまに頼んでいる。


今日は伯爵領の葡萄畑に行く予定だ。




アミルが出てくるとお話が中々進みません!

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