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お泊まり

「ありがとう」

応接室に急ごうとした私をダリダが呼び止める。


「あの、アミル様は今日お泊まりになりますよね?お嬢様のお部屋から一番近い部屋と一番遠い部屋どちらがよろしいですか?」


ダリダは顔を赤らめている。一体なにを考えているのか…


「えっと…陽当たりのいい部屋の方がいいと思うから、近い部屋かしら」


「わかりました!たっぷりのお花で飾っておきますね」


語尾に音符マークがつきそうなほど嬉しそうにダリダは返事をする。意図がわかりかねたが、私は応接室に急いだ。



「アミルごめんね、待った?」


私が応接室に入ると、アミルは壁際に置かれた本棚の本を開いていた。振り返って微笑む青灰色の瞳を見たとき、子供の頃を思い出した。大きくなっても、やっぱりアミルだ。不思議な感じがする。


「いや、突然来たんだしユリィも仕事があるんだろ?俺もここに移住するための準備を色々してきたから気にしないで」


「移住?!ここに…この村に住むの?」

私はアミルの言葉に驚いて声が変になる。

「そのつもり」


アミルの目尻が少し赤くなった。


「いいの?ずっとここで…。だって正直、もうアミルは来ないと思ってた。今回はちょっと遊びに来てくれたのかと……」


「家出同然って、朝言ったと思うけど?」


白い歯を見せてアミルは笑う。


私は信じられなくて、アミルとしばらく見つめ合っていた。手紙のやり取りはあったものの、また来ると言って8年も経った。会いたいとは書いてあっても手紙だけのことだと、アミルは自分の国で自分の人生を見つけたのだと思っていた。


「自分でも馬鹿だと思うし、色々あって遅くなったけど俺は8年前からずっと同じ気持ちだから…いや、むしろ……」


そこでアミルは自分の首を押さえるようにして下を向く。


「あ、アミル…あの」

続きを聞いてはいけない気がして、私は息を吸い込むアミルを遮るように声をかける。


「ああ、うん、ユリィにも色々あったよな…。いいんだ、近くにいられるだけでも」


「色々っていうか、手紙にも書いてたけど子爵の養女になって自由じゃないからその…」


「あ、そっちか」

アミルはなぜか元気を取り戻して胸を撫で下ろす。


「どういうこと?」


私は意味がわからなくて首を傾げてしまう。自分で結婚相手を選べそうもないのだから全然良くはないのだけど。


「ユリィが想像以上にきれいになってたから、付き合ってる人のひとりやふたりいるかもと思って」


「っ…」


言葉も返せずに私は顔が熱くなるのを感じた。しかもこの流れで、アミルに家に泊まってなんていうと意味深すぎる気がして言い出せない。


「失礼いたします、お嬢様!ジェイク様がお見えです」


ドアの向こうからダリダが声をかけてきた。今は救世主の声に感じる。




ジェイクも仕事を終わらせてきたので、アミルとジェイクでお話してもらって私は夕食の準備を始めた。

突然だったのであまり豪華にはできなかったけれどアミルとジェイク、お父さんと私で夕食にした。


一応お父さんの前で、新しい住居が決まるまでアミルにしばらく泊まってもらいましょうと提案した。

お父さんはゆっくりしていってくれと笑いかけていた。



ミルと今日はあまり騒がないようにお風呂に入ったあと、私はアイスクリームと水出し紅茶をトレイに載せてアミルの部屋をノックした。


「アミル、もうお風呂入った?」


「うん、すごいんだなこの家」


ドアを開けてくれたアミルは銀髪がまだ濡れていて、白いキーネックのシャツから見える胸元が何となく気になった。


「今のこの国はこれが標準なのか?」


アミルは素直に驚いてくれていて、ちょっと嬉しくなった。この家を建てるときにこだわったのは、やはりお風呂だ。最上階にタンクを置き、ミルに一日一度『ボイル』してもらうことでどの部屋からもお湯が出る仕組みになっている。


「ミルがすごいだけ。明日見せるね」


私は窓辺に置かれたテーブルにアイスと水出し紅茶を並べる。これも自慢の品で、ケツァルクックの卵と、ウナカテクトリのミルクを使った自家製アイスクリームに、10年品種改良を続けている生で食べても甘いイチゴ。


5年前から生産を始めた紅茶も、淡い香りの春摘みは爽やかで特に気に入っている。水出しにしたのでカフェインが少なく、夜に飲んでも大丈夫だと思う。


どうしてもこれらを自慢したくてアミルの部屋に来てしまったが、ベッドに散りばめられた薔薇の花びらが目に入ってグラスを取り落としそうになった。


「それ!メイドのダリダの出身の地方じゃ、遠くから来た人へ歓迎の意味を込めて飾りつけるらしいの」


私は最近身につけた大人の微笑みで嘘も並べる。


「面白いなと思ってたよ。でも寝るときどうしたらいいのかな?」


「あっうんあとでもらってくね。それよりこれどうぞ」


アミルは不思議そうにアイスクリームを口にした。元々大きい青灰色の瞳が、驚愕に見開かれる。


「こんなに冷たくて甘くておいしいもの、初めて食べた…これだけでもこの国にきてよかったと思う」


アミルの国にもアイスクリームはまだないらしい。氷鳥の冷凍庫で固めて、撹拌してまた固めてと繰り返す工程は偶然できるものじゃないし、前世で最初に作った人はすごいと私も思う。


「喜んでもらえて良かった。良かったら毎日食べて」


「ユリィはすごいな、この家も、村も、国も全部変えた」


「そんなこと…ちょっとはがんばったけど。手伝ってくれる人もいるし」


「ユリィは宝石を生み出せるから自分だけお金持ちになろうと思えば簡単なのに、周りを豊かにしていく。俺は本当にユリィを尊敬している」


冷たいものを食べているのに、熱っぽい瞳に見つめられると体温が上がってくる気がする。

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