表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/146

ジェイクとアミル

翌朝、寝不足の頭にルシファーの鳴き声が遠く響いて無理やり起きた。夜中まで起きていたためとても体が重かった。上がらない瞼と寝不足の体を気合いで動かし、家を出た。


ふらつきながら鶏舎に入る。


「?!」


いつものルシファーの迎撃がない。

いや───斜め下から蹴爪が迫っていた。フェイントだ。私の後ろはドアなので後退はできない。

また、下からのアタックなので屈んで避けることもできない。ルシファーの眼光は人を殺りそうな迫力だ。

私は上に跳んだ。

ルシファーは空振りしたが羽根をばたつかせバランスを取る。私は天井に手をつき、反動でななめ右下に降りる。

ここを狙ってくるだろう、私の体重では着地後ほんの少し隙が生まれる。

隙を消すために転がれば雌鳥たちに迷惑をかけるし、いつもいつも不利な戦いだ。

だが人間として負けてはならないのだ。


「やっ!!」


風切り音すらするルシファーのキックを見切り、足首を私は掴んだ。

コーッッ!!

ルシファーは驚いて鳴きながら恐ろしい膂力で身を起こし私の手をつつこうとする。

つつかれたら私の手のお肉は削がれるだろう。

悪いけど、嘴もムギュッとつまんで私はルシファーを完全に抱く形になった。こうして抱くのはひよこのとき以来だ。


「ルシファー、愛してるよ」


大人しくなったルシファーを床に下ろす。

目をぱちくりさせている。


これもひとつの愛の形だと信じている。

私はいつも通り、飼料を注ぎ、放牧場に繋がる裏口を開け、卵を拾って掃除をした。

「ユリィ~!おはよう!」

馬車に乗ってジェイクがやって来た。今日も猫柳色の髪がふわふわしている。

「おはようジェイク」


ジェイクの馬車の後ろから、白い馬がやって来たの見えた。

「ユリィ!おはようちょっと早かったかな?」

白馬に乗った褐色の肌の美少年は、朝陽の下で見てもかっこよかった。

アミルがこんなに早く来るとは思わなかったし、うちに一度にこんなにお客さんが来るなんて初めてかもしれない。



馬から降りたジェイクと、私、アミル、三人の視線が交錯する。アミルはなぜか眉を顰めている。

私はとりあえず紹介に努める。


「アミル、こっちはジェイク。私の幼なじみでこの村の子供は私とジェイクだけ。ジェイクはこの村の収穫物を王都に運んでくれてるの。ジェイク、この人は宝石の買い付けに来てくれたアミル」


「ああ、村長さんのところに泊まってるファリードさんかな?おはようございます」

ジェイクはにこっと笑って挨拶する。

流石田舎の村、情報が早い。名字まで知ってるの?


「ファリードさん。この村までお越し頂けたこと感謝いたします。珊瑚はもうご覧になりましたか?」


ジェイクのお仕事モードを初めて見た私は少し驚いてしまう。そうだよね、いつも王都でひとりで商人相手にお話してるんだもんね…


「ええ、本日中には話がまとまると思いますが……」

アミルは青灰色の瞳で、頭ひとつ分背が低いジェイクをじっと見つめる。目力強いぞ。


「ジェイク、俺は外国が見たくて父親についてきただけのバカ息子だから、普通に話してくれていい」


「………」


「俺、国の学校でいじめられてるんだ」


「「え?!」」


私とジェイクは突拍子もない話に驚きの声をあげる。

すっかり忘れていたけど子供がたくさん集まるとそういう事象も起きるのか。


「だから、数日はここにいるから良かったら友達になってくれないか?」

「僕、仕事が……」

「空いてる時間でいいし良かったら手伝うよ」

「う、うん」


押し切られる形でジェイクはうなずく。大丈夫なのかな?先輩に脅される後輩みたいに見えるけど。


「じゃあ、仕事を進めてくれ。ユリィ、畑を見ても?」

「作物踏まなければいいよ!」

アミルは悠然と畑を散策し始めた。


私とジェイクはいつもの物々交換をする。

「ユリィ、外国の人ってあんな感じなのかな?」

「よくわかんないけど悪い人じゃないと思う。お菓子くれたし」

「お菓子……」

「甘いやつだよ。ジェイクも仕事終わったらこっちに寄って!お菓子くれるよきっと」

「うん!早めに来るよ!」

7歳の体はお菓子に抗えない。



ジェイクが王都に向かう為飛び去ると、アミルが近づいて声をかけてくる。

「この国はユリィくらいの年齢でみんな働くのか?学校は?」

なるほど。アミルがさっき眉を顰めたり、私に妙に優しくするのはそういうことか。

私たちは貧乏な国の貧乏な子供として同情されていたのだろうか。

「学校は行ってない。この村は2人しか子供がいないし、私もジェイクも親が片方死んじゃって、大変だから仕方ないの」

「だけど文字の読み書きや計算ができないと商売で騙されるだろう」

「それはできる。私もジェイクも」

「え?」


私は前世の記憶がある分幼児の頃から勉学に取り組んでいた。この世界の文字も母に教えてもらって覚えた。母がいちいち喜んでくれるのですごくがんばった。

そして加減乗除の計算はこの世界でも変わらない。

そんな私の姿を見ていたジェイクはそれが普通レベルだと思ったのか、悔しかったのか、とにかく一緒に問題を出し合って学んだ。


と、そのままを伝えるわけにもいかない。

「えっと、この村は英才教育で、5歳でかけ算マスターしたし」

「おお…まじか」

「そのあとは疫病で大変だったからあんまり勉強できてないけど」

「それは知ってる…。ユリィはすごいな、俺にはユリィと同い年の妹がいるけど全然違う」

ちくりと胸が痛んだ。アミルみたいな兄がいて、両親がいて、のんびり学校に行って暮らせる人生だったらどんなにいいだろう。

でも私は、私なりの幸せを見つけようと思う。

発掘もあるし。農業も好きだ。


「そうだ!買い取り!お願いしまーす!」




その後5日間、私とジェイクとアミルは親交を深めた。

アミルは5つ歳上なだけあって色々教えてくれたり、手伝ってくれるので少しだけ遊ぶ時間ができたのだ。

アミルはちょっと心配性なお兄ちゃんって感じで、いいやつだった。

虫好きなアミルの為に虫取り合戦をしたり、(国でいじめられているのは本当らしい。虫好きはアミルの国で気持ち悪がられるそうだ)私の発案による野球ごっこをしたり、一緒にいるとやりたいことが尽きなかった。

私の発掘の能力も伝えてしまった。

二人はすんなりと受け入れて、すごいと褒めてくれた。

更に、発掘は石以外にも影響が及んでいるのを見つけてくれた。私が卵を割ったり、食べ物をちぎったり切り分けるとその食べ物はものすごい可能性を持つ。

体を丈夫にしたり、力を強くする。

私の身体能力が高いのもそのお陰だったのだ。

だからみんなで食べ物を分け合って、かけっこに燃えた。それから唐辛子をたっぷり入れたパンを私が割るとどうなるのか───これは3人ともひどい目にあった。味は変わらなかったのだ。というか今までの食事を振り返ればありえなかった。


「明日は雨ね」

3人で唐辛子パンを食べてひいひい言った後、私は空を見て呟いた。

「うーん、そうだね。かけっこできないね」

ジェイクが私と同じく夕方の空を見て同意した。

「そうなのか…俺、明日が最後なのに」

「もう帰っちゃうの?」

ジェイクが残念そうに叫ぶ。ジェイクは完全に懐いた犬のようにアミルを慕っていた。

「本当はもう少しいたかったんだけど、親父がもう帰るって。もう持ってきた予算分は購入したし」

それって私の発掘した宝石で購入枠を埋めてしまったせいでは……

「ユリィ、ユリィのせいじゃない。ほかにも買い取り先はあったからどちらにしてもすぐ埋まったんだ」

「でも……」

「また来たいな」

「うん、みんなで遊びたい」

私は厚い雲を見て考えた。

「ねえ、明日は王都に行ってみようよ!私は雨の日は農作業の時間少なくできるから」

雨の日は野菜の収穫と鶏の室内掃除だけだ。

ジェイクが同意してくれる。

「ユリィ!それいいね!僕も移動の1時間分早く遊べる」


「俺もちょうど行きたいところがあったんだ」

「私は行ったことないの」

「僕だって市場しかほとんど見てないよ」


こうして明日の約束と計画を立て、私たちはそれぞれの家に帰った。明日はいつもより早く起きてジェイクの馬車で一緒に王都に行く予定だ。

ワクワクして眠れないけど瞑想によって眠りに就く。

3人でいるのが楽しくて、この間父が何をしているかは全く知らなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ