ファルオスの石②
「それ、ゼフさんは信じたの?」
カルロカルロ~と虚空に向かって話しかける私が妖精とお話していると思われていたとしたらとてつもなく恥ずかしい。
「ユリィくらいの年頃なら、そんなこともあるかなあっていう風に見えた」
カルロは濁りのない水色の瞳を向ける。悪気はないらしい。
「そう……」
私は唇を噛み締めた。忍の一字は衆妙の門。大事の前の小事。
ぶつぶつ呟く私を無視してカルロは話題を変える。
「次にファルオスの石だけど、そんなに遠くが見えるのか?それ」
「あ、うん、ここから……畑10区画くらいは細かく見えるかな?」
私は手を翳して遠くを見やる。巨木の上からの視界だと高い建造物のない村はどこまでもどこまでも、地平線の果てまで見えそうで驚く。遠くを見ようとすれば望遠鏡の焦点を合わせるように徐々に輪郭がくっきりしてくるので次々視点移動するが、望遠鏡より遥かに焦点が合わせやすい。
「はい、やってみて」
私はハンカチに包んだファルオスの石8個を渡す。カルロは1個、体のどこかに隠し持っているので合計9個になる。算数の問題ではないけど、9個だとどこまで見えるのだろう。
「うわっすごい……」
カルロは目を見開いたり細めたりして興奮した様子で遠いどこかを見ている。
「何か変なの見えた?」
「うん、ユリィにはまだ早いな」
「え?覗きは良くないよ?盗聴に覗きとかカルロ最低」
私は不思議少女にされた意趣返しとしてついカルロに悪い口をきいてしまう。カルロが持っているドッディの石は使いようによっては盗聴し放題だし、これに覗きができる石まで加わるとしゃれにならない。
「冗談だって…。覗きなんかよりこれの有効な使い道がある」
カルロは目をしばたたき、私に焦点を戻す。急なピント調整に難があるようだ。
「なに?」
実のところ遠くが見えて便利だなーとしか私は考えていなかった。頭からっぽで聞き返す。全部寝不足と疲労のせい。
「わかれよ。もうすぐ秋だろ?秋の前に何が来る?」
「……嵐?」
「そう。これを防衛隊の黒嵐竜観測班に貸与できたら今年の被害はかなり防げるんじゃないかと思う」
「なるほど」
私は刮目せざるを得ない。とても建設的な意見だ。元防衛隊だったカルロだけある。
この世界で嵐とは、自然現象ではなくモンスターが起こす現象だ。その為、気象予報士ではなく黒嵐竜観測班が嵐の情報と行動予測を教えてくれる。
毎年南の海で出産する黒嵐竜は、秋になる前に親子でこの国に立ち寄り、モンスターを捕食していくのだがそのときに起こす嵐で作物が大きな被害を受ける。
「これならかなり遠くから観測できて立ち寄る場所がわかるから、そこに兵を置ける。しかも今年は兵の装備がめちゃくちゃ良くなってるからな、ユリィが倒したモンスターの素材で」
カルロは嬉しそうに笑う。
「そうなんだ。小麦が被害を受けずに全量収穫できたら私も嬉しい」
「……いいんだよな?この石を貸して。出所はソニアを使ってわからないようにする」
ハンカチに包まれたファルオスの石を持ち上げてカルロは私に問いかける。モンスター素材を加工する工房に勤めるソニアを経由してもらうのはいい作戦だと思う。なんならもっと使いやすくしてくれるかもしれない。
「遠くを眺められるだけの石より、がんばって植えて育てた小麦の方が大事だから。カルロに任せるわ。来年以降もあるから、それは観測班に寄付しましょう」
「わかった」
こうして、黒嵐竜ヌウアルピリ迎撃作戦が始動した。
ユリィと不思議な石
とかいうタイトルでもいいかなと思ってきました。
誰かいいタイトルありませんか?




