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ミルの自立①

アンジェラの授業中、お父さんとミルは散歩がてら地下通路を通って基地に行っていた。基地の窯炉でふいごを使い、高温にした炎はミルの大好物なはずだ。

竈や暖炉の炎も食べるけど、高温の炎ほど好んでいたのに。


「ミル!どうしちゃったの?」


ミルはのそのそと勢いなく地下から上がってくる。

銀色の被毛を撫でても、ミルは私の顔を映しているかのように、眉のあたりを下げて悲しげな表情を作っている。


ミルは私の手をすり抜けて、暖炉の前、ミル用のクッションの上に丸くなってしまった。顔はフサフサの尻尾に隠れてしまって見えない。


「嫉妬?ブルータスを構ってるから?」


倉だとほかのモンスターに襲われるかもとブルータスを家に移したのが良くなかったのだろうか。

ほかに最近変わったことが思い当たらない。


「わからん」


「そんな…どうしよう」


ミルの目や鼻や耳を自分なりに見たり、心臓に耳を当てて聞いてみてもいつもと変わりなく健康そうに思える。


私は夕食の味がわからないくらいに動揺した。



「ミル、お風呂一緒に入る?」


ずっと丸くなっていたミルだったが、お風呂と聞くと尻尾を一振りしてついてきた。


「お風呂は入れるのね?良かった」



『ボイル』もいつも通りやってくれたので私はめちゃくちゃに誉めあげた。

いつもの得意気な表情が戻ってきたので安心して一緒に入浴する。元気が出そうなハーブも入れた。


「ミル、大好きよ。元気出して」


ミルはお湯と私のマッサージを堪能するように目を瞑っている。大きくなったなと思う。毛皮が濡れてほっそりしているものの逞しい筋肉の感触が手に伝わる。

ミルは女の子だけど。


このお風呂も手狭になってきた。

あまり派手にお金を使うものではないと我慢してきたけど、新しい家を建てようと決意する。

この家から繋がる地下通路の存在は隠したいので、今の家の横に新しい家を建ててこの家は物置としよう。

私の前世の、農家をやっていた実家もそのスタイルだ。世界が違っても、田舎は土地が余ってるから大体そうなる運命だと思う。




お風呂から上がると、ミルは頭と体を左右に振って、魔力で一瞬で乾かしてしまう。そのあとに温風で私の髪の毛を乾かしてくれる。


「よく考えたら、私には火傷しないように温度調節してくれてるんだよね。ミルって天才なの?」


私の言葉に、フンっとミルは鼻を鳴らす。

一緒にベッドに入って特に豊かな白い胸毛に顔を埋める。

すぐに寝てしまったミルの穏やかな鼻息を聞いていると涙が流れてくる。

涙がミルの毛に吸い込まれると瞬時に乾くのは初めて知った。寝ながら魔力で乾かしているのかもしれない。





いつの間にか眠っていた私は、ガチャリというドアノブの音で目を覚ます。ミルの尻尾の先の白い部分がドアの隙間を通って出ていくのが見えた。


「ミル?!待って!!」


飛び起きて追いかけようとしたが、既に玄関ドアを開ける音もしたので私は引き返す。ミルは天才なのでドアを開けるのも上手すぎる。ザンディーラの石がポケットに入ったワンピースを頭から被り、慌てて追いかける。入浴剤に入れたハーブの香りがミルについている。

飼い犬の匂いを頼りに追いかける飼い主なんてこの世界でもまずいないと思う。


ミルに足の速さでは敵わない。家出かどうかわからないけど絶対にどこまでも追いかけて連れて帰る。

私は息を切らせて暗い畑の中を走った。そこまで距離は開いていないようだ。



「っ!!」


近くの灌木の茂みが突如、爆発したように光を放つ。

転がり出てきた巨体は全身を火に包まれたファルオスだった。先日、キーラさんを襲った長い角の生えたモンスターがなぜまたここにいるのか、しかも燃えているのか、私の理解を超えていて硬直してしまう。


暴れるファルオスの喉元に、銀色の光が飛び付いた。ミルだ。ファルオスの半分くらいの大きさなのに圧倒しているように見える。ファルオスの体を包む炎はもちろんものともしない。というかミルが燃やしたのだろう。


「ミル……」


呆然とする私の後ろに、気がつけばゼフさんが立っていた。ゼフさんも暴れ回る巨大な炎の塊に、手出しが出来ないようだ。


恐ろしい断末魔の叫びを上げてファルオスが動きを止める。火の粉だけが踊っている。

ミルは顎の力を緩めることなく、ファルオスの体を引き摺って───私の前に持ってきた。


「え?」


ミルはファルオスを咥えたまま上目遣いで器用に眉を動かし、何かを訴えている。よく見るとファルオスはまだ生きている。荒い呼吸が痛々しい。


「あ……とどめを?」


あまり理解したくなかったが、ミルはそう言っているようだ。

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