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思い出の鳥

「カルロの弓を見こんでお願いしたいの。カルロじゃないとできないと思う」


カルロの水色の瞳の中、瞳孔が大きくなったのが見えた。弓の話なので興味を持ってくれたようだ。



「モンスターか?」


「小型の鳥だけどね。気になってる子がいて」


鳥系のモンスターは縄張りに関係なく畑に侵入してくる。何かあったら飛んで逃げればいいと思っているのだろう。見つけ次第追い払うようにしているが、その中で1羽、嘴を損傷している鳥がいた。


私はお父さんに頼んで捕獲用の眠り薬を作ってもらっていた。お父さんが以前から研究していたのですぐに完成した。


「この眠り薬を矢尻に塗って、撃ってくれれば捕まえられると思う」

私は鈍色に光る小さな金属製の軟膏容器をカルロに見せる。


「またそんな危険なものを……」


カルロは呆れた様子で肩をすくめる。

これはお父さんがずっと自分の体で研究してたから安全だ。人間で大丈夫なら、モンスターが死ぬことはまずない。


「まあいいや。その鳥はいつ現れそうなんだ?」


「私がオレンジの収穫で木に登ってるとき。毎日来てるから、来たら呼ぶね」


カルロはドッディの石で聴力を強化しているので、広い畑で離れていても連絡に事欠かない。


「わかった。種まき用の小さい弓でも持って作業してるよ」


そういってカルロは家の片隅にある弓を持って出て行く。この間の大弓だったら鳥の体を貫通してしまいそうだなと思った。





昨日の女性が襲われて以降、私への監視は来なくなっている。もうひとりの男は何をやっているんだろう?

来なくてもいいけれど。



そんなことを考えながらオレンジを収穫しているときだった。ブルーベリーの低木が並ぶ畦に、橙と黒と黄のカラーリングの鳥が飛んできて、すうっと着地した。

クルラルトだ。私は目を凝らす。

やっぱり───

嘴の下側が折れて損傷している。ブルーベリーをつついているが、大半はこぼれてしまっている。


「カルロ」


私は小声で呟き、気配を殺すようにじっとしていた。

やがて、足音は限りなく小さいのに素早い動きでカルロがやって来た。


私がブルーベリーを啄むクルラルトを指差すと、無言で頷き矢を構える。


ごく軽い動作で、カルロは弓を射る。

矢は胴体に突き刺さりギャッ、とクルラルトの悲鳴が上がった。翼を羽ばたかせるが飛び上がることは出来ず緩慢に体が倒れていった。


私は走り寄り、用意していた籠にそっとクルラルトを入れる。60センチほどの鳥とはいえものすごく軽い。極彩色の羽の下にほとんど肉はないように思える。


「本当に嘴折れてるな。クルラルトの嘴って鉄よりも硬いんじゃなかったのか?」

カルロも近づいて矢を回収していた。


「私がやったかもしれないの……」

改めて近くで嘴の状態や羽根の模様を見ると、それは確信に近かった。


「え?」


「私が石を投げて、それが嘴に当たったの。数ヶ月前のことだけど」


「考えすぎじゃないか?喧嘩でもしたんだろ」


「それでも。責任は取る」


カルロはちょっと驚いたように目を見開く。


「それって口癖?ガキのくせに何でもひとりで抱え込むなよ」


今度は私が驚いてしまった。そういえばカルロに対しても同じことを以前言った。


「俺が手伝うから。ていうか、俺がやるから」



「……ありがとう」


胸が詰まってそれしか言えなかった。そしてカルロがいつまでこの村にいてくれるのかも、聞けなかった。



クルラルトにはブルータスという名前をつけた。

名付けのセンスは相変わらず中二病を卒業できない。

とりあえず倉の片隅で飼うことにした。

ブルータスは数分で目を覚まし、しばらく暴れたが今は大人しくなっている。ルシファーよりずっと落ち着いた性格らしい。

「はい、ブルーベリーですよー」


春に見たときはイチゴを食べようとしていたし、ベリー系が好きらしい。あとでジェイクに詳しく聞こうと思う。


私が木を削って作った長い箸で、籠の隙間からブルータスの嘴の奥に差し入れるとやや抵抗があったものの飲み込んでくれた。



「それ、何?なんでそんな持ち方できるの?」

カルロが心底不思議そうに私の手元を見ている。


「箸だけど……」


そういう私も転生して以来初めて箸を使った。この世界なのかこの地方なのかわからないがナイフ、フォーク、スプーンが主な食事の器具だ。


「ん?え?」

カルロも自作の箸を作って奮闘している。

何事も器用にこなすカルロが苦戦しているのは新鮮で笑える。


「ブルータス、嘴治るといいけど治らなかったら、オリハルコンの嘴がいいかな?ミスリルの嘴がいいかな?」


形を合わせるのは大変そうだけど金属で嘴を作ったらロボットみたいで格好よくなるだろうなと野望が膨らむ。

ブルータスは瞬膜をパチパチさせて私を見ている。

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