お守りのペンダント
「遅くなって悪かったな。ていうか本当なにその汗」
カルロは私の流れる汗を見ておかしそうに声を出して笑う。そういうカルロも額に汗をかいている。
「いやーえらい人の話が長くて長くて」
「カルロ……少しは寝れた?」
なんだか見たことないカルロになっている。
「一睡もしてない」
「やっぱり」
カルロは徹夜でハイになるタイプらしい。私は寝ないと具合悪いけど。
「あの人は?どうなったの?」
私はすごく気になっていたことを聞く。
カルロは笑うのを止めて真顔になった。
「ああ、ユリィの応急処置が良かったみたいで王都に着いたときにはほとんど血が止まってたんだ。医者が傷を縫ったときはまた出血したけど、今のところ熱も出てないし意識もしっかりしてるらしい」
「良かった……」
私は胸を撫で下ろす。でもまだ感染症の心配もある。この世界は2年前の疫病の大流行によって、中世ヨーロッパ並みの衛生観念からかなり進歩したけれど、私の前世ほどの医療レベルは遠くにある。
ちゃんと処置してくれていればいいなと思う。
「ねえ、私気になってたんだけど…。あの人ってどうしてお守りのペンダントをしてなかったの?」
私はずっと疑問に思っていたことを聞く。大怪我を防ぐという小さな鳥の羽が結晶に封じ込められたペンダント。あれは確かに効果がある代物で、ジェイクを守ってくれた。
あの女性が着けていてくれれば今回の怪我は防げたのにと思っていた。
値段は10万ゴールドだけど命には代えられない。
「あれは子供にしか効果がないんだよ。ソニアが言い忘れてたか?」
「え?そうなの?」
「まあユリィが急に大人になる訳じゃないし言う必要ないと思ったのか知らないけど」
「ペンダントが、大人とか子供って判断するの?どうやって?」
私の質問に、カルロは器用に片眉を上げて答える。
「あれは、氷の大陸にいるラヴェニっていう、子供をすごく大事にするモンスターの羽根らしくて、効果がわかったのは不幸な事故があったから」
「……」
何と言っていいかわからない私に、肩をすくめてカルロは続ける。
「お揃いの羽根飾りをつけた親子がモンスターに襲われて、子供だけ助かったんだ。その子供は12歳だったそうだから当分効くだろ、まだわかってないこともありそうだけど」
犠牲者がいないと効果がわからないなんて、難儀な話だと思う。
「ペンダントの話はいいとして、ユリィの今後の話だけど」
「うん」
「ドッディ、ザンディーラ、ファルオスと短期間に強いモンスターが現れすぎなんだよこの村は。ファルオスは昨日の黒い角のやつな」
「そうなんだ」
カルロは話ながらもてきぱきとトウモロコシをもいでいく。私も早く身長が伸びないかと切に願う。
「本当は兵隊20人くらいで戦って、死傷者も出るようなモンスターだぞ。俺もユリィも感覚おかしくなってるけど。
それでユリィがモンスター呼んでんじゃないか説まで出てきて……でもそれだったら自分の村じゃなくて王都に呼ぶだろうし、素材は全部防衛隊がもらってるしでユリィは悪くない派と会議は長引いた」
「その会議にカルロは参加してたの?」
大臣や隊長のお歴々と並ぶカルロの顔をイメージして、疑問を感じてしまう。
「いや、盗聴。ドッディの石まじで便利。で、長々とおっさん達が話し合った結果……また保留だよ」
「うーん、良かった…のかな?」
「俺は隊長にユリィを保護観察するように言われた」
ニヤッとカルロは笑ってみせる。
「素材収集に便利だからな!防衛隊の装備めちゃくちゃ良くなってて笑った」
何がツボだったのかカルロは身を震わせて笑い出す。
「保護観察って……私、不良少女じゃないんだけど」
真面目に働いてるだけなのに、不良扱いされて私は納得がいかない。
暑さに耐えながらも、カルロが帰ってきてくれたのでなんとかこの日のノルマは達成できた。
だけどいつの間にか牧場はカルロ頼りになっていることに衝撃を受けた。カルロが隊に戻ってしまったらどうしたらいいんだろう。
誰か人を雇う?お金はあるけれど……
ジェイクは約束通り早めに王都での仕事を終えて、うちに寄ってくれた。
「今日は早めに寝た方がいいよ。良かったらこれ食べて」
もらった袋の中身を見ると、揚げパンが入っていた。
「ありがとう、すごくおいしそう!」
「甘いのと、中に挽肉が入ってるのと2種類あるから」
「わーそれ、止まらないやつじゃない。一緒に食べようよ」
「ユリィに買ってきたから。アウグスさんと食べて」
ジェイクは完璧に優しく微笑む。天使を目の前にしながらも、お父さんには1個あげれば充分じゃないかと汚い考えが浮かんでしまう。
結局3人で仲良く食べた。食べ物は分け合うものだと私にも一応いる内なる天使の声に従った結果だ。
昨日傷薬を試したお父さんの腕を見せてもらうと、3つのうち2つは傷痕もなく治っていた。あの女性の傷が塞がったら、傷痕を消す薬として渡してもいいかと思う。だけど危険な人体実験をする勇気が私にはない。
また実験をやりたそうなお父さんを制止して、この件は一旦凍結とした。
翌朝やってきたカルロに私は話しかける。
「お願いがあるの」
「何?」
カルロは眉や目をピクピクさせて答える。
なぜこんなに動揺しているのか、ちょっとわからない。




