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カルロの不在

私は急いで蝋燭とランタンに火をつけて女性の様子を確認しようとする。血か火の匂いにミルが興奮してしまったのか、爪をカチャカチャ鳴らしうろついている。


「ミル、お願いだから今は大人しくしてて」


ミルはクゥンと鳴いて、その場に座り込んだ。

お父さんも起きてきたので、きれいなタオルを持ってきてもらう。


タオルで血を拭い、ランタンで全身の状態を確認する。手が震えて明かりが揺れているが、左腕と左肩に角が刺さったのか噛まれたのか、深い傷が確認できた。

ここから大量に出血している。ほかにも、細かい擦り傷や汚れがある。顔は迷彩にペイントされていて詳細はわからない。


「医者に連れていくか?!」


カルロが戸口に駆け込んできた。


「う、うん、お願い!!」

「わかった!馬車を借りてくる」


カルロは大きな弓を壁に立て掛けて走っていく。

馬車に乗せる前に応急処置をしなければ──

でも、さっきから自分の手が震えている。



だって───私にはモンスターの攻撃は当たらないから。

全て避けてきたから。


だからこんなの知らない……こんなひどいことになるなんて………どうしたらいいの?


「ユリィ、傷薬使うか?」


お父さんが今日作った傷薬を使おうとしている。でもこんな大怪我の人に効果がわからない薬を使っていいの?もっと悪くなる可能性もある。傷薬の研究に手をつけるのが遅すぎた。どうして今まで考えられなかったの?

私は───


「ま……待って!まず傷口を洗うわ」

お父さんを止めようと絞り出した声は掠れていた。この声は本当に私の声だろうか?



女性を抱えて風呂場に連れていく。

私はいつの間にか決心していた。迷ってる場合じゃない。



いつもこうだ。

挫けそうになると誰かが力を貸してくれるみたいに、私じゃない私になれる。



ナイフで女性の服を切り、患部を水で洗う。私も冷たい水に触れると頭が冷静になってきた気がする。


「うっ……」


刺激によって女性が意識を取り戻して呻き声をあげる。


「大丈夫?応急処置をしたら医者に連れていくから。あまり動かないで」


水によって血の赤が広がり、出血が増えたように見えるが問題ない。良く見たら動脈性の出血ではなかった。動脈が傷ついていたら脈に合わせて出血すると聞いたことがある。

それよりこの後の感染症の方が恐ろしい。王都の医者は抗生物質なんて使ってくれるんだろうか?



充分洗ったらタオルで軽く拭き、別のタオルで圧迫する。


「いたっ!!」


「痛いと思うけど我慢して。こうしないと血が止まらないから」


女性が悲鳴を上げるけれど無視して強く押さえつける。


「ユリィ、あの薬は使わないのか?」

「うん……」


お父さんは何も出来ずにお風呂場の外で戸惑っていた。女性をシーツで包み、腕の傷を押さえるのを手伝ってもらう。


馬車が来たようだ。私はタオルの上からきつく包帯を巻き付け、馬車に乗っている間も押さえているよう女性に指示する。


「ユリィ!来たぞ!」


カルロは村長の馬車を借りて来てくれた。村長は叩き起こされたのか、腫れぼったい顔で御者台に乗っている。


「俺も一緒に行って報告してくるから」

「わかった」


馬車は助走をつけ、まだ暗い空に飛び立つ。

私はそれを見送って、後片付けをするべく家に戻った。




後片付けを全て終わらせて少しでも眠ろうとベッドに横になったが、目が冴えて眠れなかった。睡眠不足による頭痛を抱えてトウモロコシの収穫に出る。


「カルロはまだ王都なのかな」


ひとりでは終わりそうにないので、野菜は最低限の収穫に留め、ルシファーの世話とベルたちの世話をして出荷の用意を整える。


「ユリィどうしたの?大丈夫?」


私を見てジェイクがかなり心配そうに気遣ってくれた。


「昨日の夜、モンスターが出て……私は大丈夫なんだけど襲われた人がいて、あ、村の人じゃないんだけど」


私の下手くそな説明に口を挟むことなくジェイクは聞いてくれる。


大体事情は伝わって、何か手伝えることはと聞かれたけど何もなかった。ジェイクは出荷で王都に行かなきゃいけないし。


「でも、なるべく早く終わらせてくるから」


気持ちだけでも嬉しかった。


いつも通り朝昼兼用の食事を作り、お父さんにも手伝ってもらってトウモロコシの収穫の続きを行う。


途中防衛隊の馬車が3台家の前に停まり、中から鎧を着た人がぞろぞろ出てきた。


「昨夜討伐されたモンスターの死骸はどこか」

「………」


隊長らしき人の問いに無言で方向だけ指し示す。


「あ、畑を踏み荒さないで下さいね!!」


この人たちとはもう何も話したくないと思っていたけど、つい口が出てしまった。

近付きたくなかったけれど、畑が心配でつい監視するように遠巻きながら様子を眺める。


やっと昨日のモンスターの全容を見た。木の枝のような角が2本生えていて、耳のすぐ近くまで裂けた大きすぎる口。体長は3メートルくらいだろうか。

体毛はなく黒い鱗に覆われている。

その額に穴が穿たれていた。昨夜、カルロが1発で仕留めたのだ。

そういえばカルロが戦っているのをまともに見たのは初めてだったけど、かなり強くなっているんだなと思った。いや、結局まともに見えてはいないけど。

暗くて音と匂いしかわからなかったけど。



騒がしい集団は、なんとか解体を終えて馬車に積み込んで帰っていった。素材として何かに使うんだろうか。



「ユリィ、俺腰が痛くなってきたから…家に入ってるわ。残りは明日でいいだろ?」

お父さんが腰をさすりながら言う。


「ふん、どうぞ」

お父さんにはあまり期待していなかった。まあ足も悪いので長く作業すると腰に負担がかかるのかもしれない。


「はあ………」



急に静かになった畑にしゃがみ、地面の蟻を見つめる。


こうして背の高いトウモロコシ畑の中にいると世界に私ひとりのような気がしてくる。


「トウモロコシ植えすぎたかな……」


トウモロコシのヒゲが茶色くなって実の状態も良く膨らんでいるのを目視して収穫するので、発掘カマでバサバサっという訳にいかない。


既に日は高く登り、最良の収穫時間は過ぎている。

そして私の身長はトウモロコシ収穫にあまり向かない。いちいちジャンプしているので汗が流れる。


「うう……目から汗が出ちゃう」


「目から汗?」


「ひっ!!」


急にトウモロコシの陰から伸びてきた人影と声に驚いて私は息を呑む。


「びっくりした?あの石でバレるかなーと思ってたけど」


カルロがそこにいつの間にか立っていた。いたずらに成功して嬉しそうに。


DBD大好きなのでトウモロコシ畑書きたかったんです。

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