アミルからの手紙①
雨が降り続いていた。この地方は本格的な夏を迎える前に、しばらく雨の日が続く。農家にとっては忙しい夏の前の僅かな休みとなる。
私とジェイクはアミルからの手紙が届いたとの連絡を受け、久しぶりにポンさんの事務所を訪れていた。
悪臭を放つ監視の男は、ジェイクの馬車に乗ったあと追う手段がなかったのかついて来ていない。
この事務所はいつもお香を焚いていて、清々しい香りがする。
「実は、ルサーファとこの国を結ぶ海域にモンスターが出て大変だったんだ」
いつも優しく笑っているポンさんが珍しく困り果てた様子で語る。ルサーファはアミルの国だ。
「海に出るモンスターは倒すのが難しくて、討伐隊を乗せて出航しても全然出会えなくてね。かといっていつモンスターが出現するかわからない所に船を出してくれる人もいなくて、別ルートの海域を使って……と色々あって、すごく遅れちゃったんだよね」
どこか寂しげにポンさんは笑う。ポンさんは元々ルサーファの人なので、祖国と連絡が取りづらい今の状況は辛いものがあるのだろう。
奥さんと子供もこちらにいるとは言っていたけど、それはそれで養っていく責任も伴う。
「まあそんな話はいいよね?はい、これアミルから」
机の上に置かれた小包に私とジェイクは飛びつき、慌てて封を破る。中に入っていた手紙を二人で片手ずつ持った。
力強い筆跡で書かれた文面。
手紙とは斯くあるべきというお手本のような、元気?こちらは元気ですといったシンプルな内容だけど伝わるものがある。
それにアミルらしい、距離を急に縮めてくるあの雰囲気もあってつい口元が緩んでしまう。
だけど最後に書かれた文章を読んで胸が詰まる。
『医者になるために留学することを決めたから、あと数年はそちらに行けない』
そのあとに数行続いていたが読んでも文字が頭を流れていくだけで意味が理解できなかった。
私とジェイクは顔を見合わせて──どちらも何も言えなかった。
沈黙する私たちの前に、ポンさんが甘い香りのするお茶を置いてくれた。
「読んだ?」
「はい」
「はい」
「ボク宛にもアミルから手紙があってさ、今までの海域が使えなくなって行き来に3ヶ月もかかっちゃうから覚悟を決めたと書いてあった。本当は年に1回は遊びに来たかったみたいなんだけど」
「……残念だけど仕方ないです。アミルは勉強しなきゃいけないし、私はこの土地を離れられない」
私だってルシファーの世話や農場の手入れがあるから3ヶ月も船に乗ってなどいられない。それなのにアミルには来て欲しいなんて我が儘な話だ。
ポンさんはちょっとだけ頭をかいて照れたように言う。
「その……アミルとは数年会えないけど、ボクはずっとこの国にいるから。これからもボクを頼ってくれるかな?」
「もちろん、これからもお願いしたいです!ポンさんは私の大事な……大事な……」
私は言葉を探して止まってしまう。ポンさんは仕事仲間?お兄さん?
アミルの叔父さん?
ポンさんは苦笑を浮かべる。
「前も言ったけどボクのこと、お父さんって思ってくれていいんだよ。まだ22歳だから、ちょっと貫禄が足りないかもだけど」
「若いとは思ってたけど本当に若かったんですね…」
私は驚く。私と15歳差なのでやっぱりお父さんと思うのは無理がある。
「そうだねえ、ユリィちゃんに頼ってと言ってるけど実際はユリィちゃんに助けられっぱなしだし」
「え?そんなことは」
「あるんだよね。宝石以外にも。ほら、村の工事の件でユリィちゃんがグラソー男爵とパイプを繋げてくれたからボクの貴金属の商売も、色々とやりやすくなったし、あの執事の男、フロムと言うんだけど彼が気の利く男で」
私はグラソー男爵に仕えていた40代の男を思い出す。冷静な表情を崩さない強すぎる精神力の持ち主だった。
「グラソー男爵とボクで共同名義の商会を立ち上げたから、ボクもこの国で自由に商売ができるようになったんだ」
「おめでとうございますポンさん!」
ジェイクが何かとても喜ばしいことのようにお祝いを告げる。私は商売に詳しくないけど色々あるのだと思う。でもこれでグラソー男爵を通さずにポンさんだけで村の開発を進められるのならかなり良いのかもしれない。
「それで、今日はよかったらボクの家に来てくれないかな?ささやかながら昼食を用意してるんだ。ボクの妻と娘たちも前から君たちに会いたがってるから」




